一気にブームが起こっても、いつの間にか下火になることも多いブランドの世界。今回は、スポーツシューズ業界にスポットを当てる。これまでナイキの厚底ブームを手掛けるなど、さまざまな戦略によってスポーツシューズ業界を牽引してきた矢倉氏。現在は、UGG®、HOKA ®、Teva®など、革新的なフットウェア・アパレルの販売・卸売を行うグローバルカンパニー「Deckers JAPAN合同会社」のHOKA マーケティングディレクターを務める矢倉氏に、仕事の極意やこだわりについて話を伺った。
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矢倉 淳一さん/Deckers JAPAN合同会社 HOKA マーケティングディレクター
PR会社、ナイキを経て、2022年3月より、Deckers JAPAN合同会社に転職。スポーツシューズ&アパレルブランド「HOKA ®(ホカ®)」のマーケティングディレクターを務める。
留学によって、価値観の違いを受け入れられるように
― 高校、大学と、オーストラリアで学ばれていますが、もともと海外志向が強かったのですか。
幼少期からよく父親が「これからは英語とパソコンと数学が大事だよ」と言っていたんです。そんな環境で育ったので、自分もいつかは留学するだろうな、と思っていました。オーストラリアへのこだわりはとくにありませんでしたが、9.11のすぐあとだったのでアメリカはちょっと行きづらくて、消去法でオーストラリアを選んだという感じですね。
― 高校1年から大学までを海外で過ごして、いかがでしたか。
最初はホームステイ先の3〜4歳の子どもより全然英語がしゃべれないことにショックを受けたり(苦笑)。留学あるあるですが、大変さと楽しさが入り混じった生活でした。
留学によって、英語力もそうですけど「”普通”なんてないな」という価値観を持てたことが自分にとっては大きかったのかな、と思います。というのも、国や場所によって「普通」とか「当たり前」って違いますよね。たとえば日本だと、お金を払う前に買ったものを飲んだり食べたりしないけれど、欧米だとレジを通る前に食べちゃってから払う人がいます。海外で暮らしてさまざまな価値観の違いを受け入れられるようになったので、人に対して何か違和感を感じても、それはその人にとっては普通なんだ、と考えられるようになりました。
― 大学卒業後は日本に帰国されて、選んだ道がPR会社。なぜPR会社だったのですか。
オーストラリアの大学で専攻していたのがマーケティングだったので、広報やマーケティングに興味があったんです。あとは、どんな仕事をするにしても、「個」のスキルを高めていかないといけないという意識があったので、それにはある程度小さめな会社で、早いうちから責任ある仕事ができる環境がいいんじゃないかと。あとは面接でお会いした当時の上司の方々の人間性で決めました。特にPR領域に絞っていたわけではありません(笑)。当時は社員25名ほどの小さな会社でしたが、社長はもちろん仕事で出会った人すべてがすばらしく、人脈の大切さを実感しました。その後ナイキに転職したのですが、それも人からの紹介です。
スニーカーが売れない時代からの巻き返し戦略とは
― 矢倉さんがナイキに在籍していた頃は、スニーカーが売れない時代からの巻き返しを実現されていますよね。厚底ブームを仕掛けたひとりでもあるわけですが、当時ナイキではどんなPRをして巻き返しに結びつけたのでしょうか。
あの巻き返しは、まぐれとかラッキーではなくて、しっかりとした戦略がありました。もちろん優れた商品力が全ての根幹にあることは前提ですが、それ以外の一番のポイントは戦略的方向性をマーケティング以外の部署含めて、社内の皆で共有できていたことだと思います。
― それって当たり前のようでいて、実は難しいことですよね。
とくに外資の場合は難しいですよね。海外の本社も日本も同じ方向を向かないといけないわけですから。でも、当時はそれができたんです。革新的なナイキのランニングシューズという素晴らしい商品があって、当時の事業部リーダーの下、皆が同じ方向を向いて活動する。成功の定義も全部署で共有し、チームの方向性を共有できると、おのずと自分たちの部署でやるべきことが見えてくる。3年間それをやり続けることで「勝てる」という勝算が見えてきました。これはどの業種にも言えることだと思います。
― 方向性を揃える秘訣は何なのでしょう。
方向性を揃えるとき、常にユーザー目線で見ることでしょうか。たとえばナイキのマーケティング戦略立案の場合には、常にランナー目線で考えて、それをMDや販売側まで全てのメンバーへ共有しました。チャネルではなくてユーザー(お客様)のことを考えることが重要なんです。一見シンプルに聞こえますが、グローバル規模のメーカー、特にその海外支社では多種多様な力学が働くため、部署を超えて同じ方向を向くのは本当に大変。その当時の事業部リーダーの社内機運形成力は非常に学びが多かったです。
新鋭ブランドHOKA ®とは
― 話題のスニーカー、HOKA ®(以下、ホカ)ブランドを扱うDeckers Japanに転職されました。ホカは新興ブランドですが、認知度はかなり高まっていますよね。
ホカは2009年にフランスでできたばかりのブランドです。もともとはトレイルランニング、つまり山系のブランドで、厚底が大きな特徴ですね。日本で注目されたのは、2010年。国内の伝統あるトレイルランニング大会で、ホカを履いたホカの契約アスリートが優勝したのがきっかけです。
― ホカを履く人が、ここ数年で急激に増えたイメージがありますが、ユーザーはどのような層なのですか。
おもしろいことに、日本はちょっと特殊なんです。海外はランニング・ウォーキングやトレイルランニングなど、実用性を求めるパフォーマンス層が多いですが、日本の場合はパフォーマンス層とファッションアイテムとしてホカを選ぶ層が半々。なかでもベストセラーの「クリフトン」「ボンダイ」は、スタイリストやヘアメイクが発信したことで火がつきました。ロードランニングシューズですが、日本ではファッションとしての人気が高まっていきました。
― 年齢層としてはいかがですか。
価格帯が高めなので、現在はユーザーの年齢層も高めです。ただ、他のスポーツブランドだと、部活で履いてもらうことも考えて低めの年齢層をターゲットにおいた展開をしていますが、ホカの場合は特に年齢層を定めていません。プレミアム帯の商品を展開をしていますが、ブランドとしてはインクルーシブなブランドなので、性別や年齢を問わず、使って頂けるブランドになりたいと思っています。
― 今後はどのような方向性で展開を考えていますか。
世界的には、直販の店を増やす方向性がすでに明確になっています。小さなブランドではありますが、先述の通りプレミアムブランドですので、ブランドの成り立ちや世界観をより強く発信していく必要があるためです。もちろん、最適な小売りのパートナー企業とはお取り組みを継続して互いにWin Winな関係になるような形を模索し続けていこうという両輪の感じですね。
― ホカは、ブランドイメージを体現する著名なアンバサダーがいないというイメージがありますが。
国内だと、日本の女子陸上選手で初めてオリンピック4大会連続出場を果たした福士加代子さんや、プロランニングコーチの金哲彦氏とアンバサダー契約を結んでいます。ただ、ライフスタイル的なブランドアンバサダーはいません。今は国内でホカをパフォーマンスブランドとして確立する時期なので、そこはあえて強弱をつけたアプローチをしています。
― 戦略を考えるうえで、前職までの成功体験はどう活かしていますか。
成功体験を活かす、つまり同じようなアプローチを試すというよりも、前職で得た自分の中の勘どころを活かして仕事がしたいと思っています。常に消費者目線で物を見る、決める、社内の共通言語にする、など。当たり前ですがナイキとホカでは会社も違うし、そもそも目指しているベクトルが異なります。そこをおもしろいと捉えてやっています。
それぞれが自由に飛べる会社
― 矢倉さんが意識している仕事の流儀って何でしょう。
ゴールから逆算して進めていくということでしょうか。長いタームでゴールを決めて、そこに到達するためのステップをひとつひとつ設定する。欧米はこのやり方が多い印象ですね。日本は逆に積み重ね型が主流じゃないかな。
それから、上に立つ者は、部下が育って初めて評価されるという意識を常に持っています。これは最初に就職した会社の時から変わりません。だから部下の話はまめに聞きますね。
― 会社としては、これからどんな人とともに仕事がしたいですか。
個人としてやりたいことがある人です。やりたいことはあっても、いろいろな社内外のしがらみがあって、もやもやしている人。とくにマーケターにそんなタイプの人が多いように感じます。ホカは、そんな人が自由に羽ばたけるブランドだと思います。小さい会社ですし、今成長期ですので。
HOKAという言葉はマオリ語で飛ぶ、という意味。世の色んな人が自由に飛べる、そんな未来を作るブランドを目指しています。だから社員にもそうあって欲しいですし、社内のカルチャーもとても自由度が高いんです。ただ、逆に言えば受け身な人には向かないでしょうね。
あとはランニングに興味があること。社内には200㎞のマラソンレースに出場するような強者もいます。そこまでやらなくてもいいですが、ランニングは嫌いです、ぜったいにやりません、という人だと厳しい環境だとは思います(笑)。
― 好きなこと、得意なことをやる、と。
好きなことをやるのが成功への近道だと思います。短所を改善しよう、とよく言われますが、それってけっこう難しいでしょう。だから私はやりません(苦笑)。それよりは好きなことをやっている自分が価値として認められる環境探しに時間を使った方が良いと思っています。
それからうちは50代以上も活躍できる環境なんです。まだまだ日本の現状では50歳を過ぎるとなかなか中途転職で採用されないのが現状ですよね。でもその点、うちは年齢的なハンデはありません。実際私が今いるチームは、一人を除いて全員が私より年上です。やりたいことがあって自由に羽ばたきたい方はぜひ一度当社を覗いてみてください。これからのブランドをどう創っていくかを考えるって、すごく楽しいですよ。
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