感性のみに依存しない。機能性のみに依存しない。技術とデザインを高次元に融合させることで、競争優位性を作り出し、ロジカルにアパレル業界に挑む。そんな新しいチャレンジに取り組んでいるのが、「どこかの素敵を、世界一にしよう」をテーマに掲げるブランドインベストカンパニー・BOLD 創業者のひとりである川名麻耶氏だ。これまでのキャリアの中で得た学びや糧となっているもの、「TEECHI(ティーチ)」というブランドの独自性、今後の展望などについて伺った。
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川名 麻耶さん/株式会社BOLD 代表取締役 CEO
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門に入社。クライアント企業の資金調達やM&A案件のアドバイザリー業務に従事。2008年よりビジネス・ブレークスルーにてオンライン大学・MBA・社内研修用プログラムのキャスターを務める。出産・育休を経て、2017年よりカントリーマネージャーとして米国AIユニコーンベンチャーの日本法人立ち上げに携わる。2019年12月、ブランディングとスキル投資の会社BOLDを創業。2021年4月から2023年3月まで立命館大学客員教授として、技術シーズの事業化を行う。
自然に経営への興味が湧いてくる環境で過ごし、ゴールドマン・サックスでプロ意識と顧客第一主義を学ぶ
― 幼稚舎から大学まで16年間慶應義塾で学ばれたそうですが、どんな学生だったのですか。また経営に興味を持ったきっかけは?
勉強も遊びも全力で取り組むことが好きでしたが、入学した当初は、今よりもだいぶおとなしく、自ら積極的に前に出ていくタイプではありませんでした。それが大きく変わるきっかけとなったのが、幼稚舎時代のリーダー経験です。
私が通っていた当時の小学校は、“長”が付くような役割は男の子がやるのが当然で、女の子達は立候補を考えることすらしませんでした。それを見た担任の先生が、ある時、「今回は班長を、女子からも1人選びます」と決め、選ばれたのが私だったんです。それからはクラス委員などにも選ばれることが増え、大学でもゼミの代表やサークルの代表、慶應義塾幼稚舎の連合同窓会幹事長など、リーダー的な役目を担うことが多くなりました。
同級生のご両親に経営者が多かったこともあり、身近な大人とお話しているうちに、「新しいビジネスを生み出すということは楽しいことなんだな」と思うようになりました。大学での専攻は国際貿易論でしたが、ビジネスプランを考えることが好きでした。大学の音楽のテストで「音楽を使用してどんなビジネスを作りますか?」という問題が出題されたのですが、色々なアイデアが湧いてきて、解答用紙の裏まで書き連ねたことを今でも覚えています。
― ゴールドマン・サックスからアパレル会社経営というキャリアは異色だと思いますが、今の川名さんがあるのは、ゴールドマン・サックスでのご経験が非常に大きいのではないでしょうか。
ゴールドマン・サックスで学んだのは、プロフェッショナル意識と常に顧客第一主義であること。そのためにクオリティに妥協しない、言い訳をしない、不測の事態や新しい挑戦へ向き合うことを楽しみ、できない理由ではなく実現するための方法を探す、そして毎日自分が成長し続けているか否かを問いかける。自分でPDCAサイクルを回すことで、いかに成長し続けるか、成長し続けるためのマインドをどう保つかということを考えていました。最後の1秒まで諦めないという精神もゴールドマン・サックスで学んだことです。
「英語で相手を笑わせる」をテーマにコミュニケーションすることで苦手意識を克服
― ご経歴から、留学など海外経験が豊富だと思われがちですが、実は違うのだそうですね。ゴールドマン・サックスでは語学力の面でご苦労もあったのではないですか。
はい。帰国子女でもなければ、海外留学経験もありません。ゴールドマン・サックスに入社して最初に渡される研修テキストは英語ですし、本社に提出する資料は英語、リサーチレポートも英語のものもありましたので、結構大変でした。ニューヨーク本社での新入社員研修ももちろん英語でしたが、東京オフィスは事業年度の関係で他国よりも数か月早く勤務が始まるので、実務に紐づけながらしっかり予習して臨みました。
― 英語に自信を持てるようになるまでには、時間がかかりましたか。
実は、仕事で使う英語に自信が持てるようになったのは、割と最近です。ゴールドマン・サックス時代は、英語を読む機会は多くとも、自分がプレゼンターとして英語を話す機会はほとんどありませんでした。30歳を過ぎてから、プライベートで約2年間ニューヨークに住みましたが、使う英語は主に育児に関係することばかり。
帰国後に携わった米国AIベンチャーの日本支社立ち上げでは、多国籍な発音なのに早口なオンラインミーティングの難しさと、海外育ちの日本人メンバーの中で際立つ自分の英語レベルの低さに直面し、落ち込むこともありました。
その後、自信を持つ大きなきっかけとなったのは、「1年で仕事相手を英語で笑わせられるようになろう」という目標を達成したことかもしれません。「情報を伝える」のはプレゼン原稿を何十回か読んで練習し、想定問答を準備すればすむことなので、「正しく話そう」という意識をやめ、「一緒にまた話したい人になる」ことに集中しました。そのためには、仕事上有意義なアイディアや提言をするだけではなく、一緒に過ごした時間が楽しかった、と思わせるのが効果的だから、笑ってもらおう、と。自分が知っている無理のない英語で、ストーリーを組み立てて、笑わせる。相手の笑顔を見て、笑い声を聞くことで、自分の緊張もほぐれるし、何よりも自分がその時間を楽しむことができるので、英語への苦手意識がなくなっていきました。
最近は、アメリカ人のエンジニアがチームに加わり、むしろ英語でのミーティングが待ち遠しくなるくらいの気持ちになりましたが、その気持ちを保ち続けることができるよう、道端を歩きながら、プロジェクトの決め台詞の抑揚の付け方を練習したりしています。
知的欲求を刺激されるアパレル業界。かつてない戦い方を見つけるおもしろさ。
― アパレルビジネスは競争の激しい世界です。ブランディングコンサルティングを手掛けるBOLDが、なぜアパレルに参入したのですか。
最初から新ビジネスを立ち上げるドメインとして考えていたなら、アパレルを選ばなかったと思います。ただブランディングコンサルタントとして、実際にアパレル業界に入ってみると、この激しい競争の中で勝ち抜くための方法を考える難しさに知的欲求を刺激され、おもしろく感じたんです。その後、ご縁あってリブランディングに携わったTEECHIの事業譲渡をうけ、アパレルブランドを経営することになりました。
お客様に選ばれ続けるためには?なぜ私たちのブランドで買いたいと思って頂けるのか?この競争優位性を作り出すために、私たちは、感性が第一正義ではない、チームでの戦い方を採用しています。お客様の潜在的なペインを見出す、それを解決する技術を探し出し、効果的に活用するためのデザイン制約を設定する。ブランドディレクターは「このデザイン制約の中で、あなたの感性で一番素敵なものを作るとしたら?」というテーマを渡されて、プロダクトを作り上げていきます。技術とデザイン制約を理解し、その中でさらにクリエイティブジャンプを作らなくてはいけないという仕事は、ブランドディレクターにとっては「好きなものを作ればいい」という感性第一主義よりも難しく、長年PRという仕事に携わってきた西村カナコだからこそ務められるポジションだと考えています。
こうしたプロダクトコンセプトや優位性を、適切で魅力的なコミュニケーションでお客様に伝えることができ、かつ、お客様にとってのコストパフォーマンスと企業にとっての収益性がきちんとバランスが取れている時に、初めて、大量生産・コストリーダーシップ型ではない、アパレルビジネスが成立します。
全ての戦略や計算を、互いにバランスよく作用しあうよう配置することは難しい挑戦だからこそ、従来にはない戦い方を見つけることができるというおもしろさを感じたのです。
ファッション性と機能性を高次元で融合させるブランド・TEECHI
― 手掛けていらっしゃるTEECHIは元々ゴルフウェアブランドだったそうですね。
TEECHIは、元々、沖縄の伝統工芸や沖縄ゆかりのモチーフをベースにしたゴルフウェアブランドでした。コロナ禍にオンラインショップで全国から購入してもらえる商品を作りたいというご相談をいただき、ブランディングコンサルティングの依頼を受けたのが、私たちがアパレル業界に関わることになったきっかけです。
実は、公私ともに忙しい30代~50代にとってゴルフウェアはとても実用的です。動きやすい、長時間着ていても疲れない、汚れや汗に対するケアがなされているし、ある程度見た目もきれいです。ですからアクティブに過ごす日常や仕事時にとどまらず美術館やコンサート鑑賞、ホテルでの食事やハレのシーンまでシームレスに飛び込んでいく服として、非常に便利なのではないかと考えました。特に子育て世代の日常は、ゴルフのようにしゃがむ、抱える、捻る、担ぐの連続です。それはリアルな日常着としても便利な服になる、という発想から、大きくブランドのコンセプトを変えていきました。ゴルフウェアブランドではなくなった今も、「やろうと思えばゴルフの動きができるか」ということは、一つの大事な開発指標となっています。
― 日常着としての機能性に加え、ファッション性も追求していこうと。
リブランディングをきっかけに、デザイン性と機能性を高次元に融合する服、かつシームレスにいろいろなシーンに着用することができるアイテムを作っていきました。これならシーンに合わせて服を買い分けるコストもかからないし、収納場所もコンパクトに出来ます。さらに、着替えに帰る時間も節約できるため、そうして生まれる時間やお金の余裕が、1日にできることを増やしてくれます。その結果、今までの自分のコンフォートゾーン(快適空間)の中から一歩外に出て新しい挑戦ができるし、より視野が広い人になっていく。そんな大人を応援する服として生まれ変わり、現在3シーズン目を迎えました。
軸となるのは撥水・撥油加工が施された商品です。いわゆる撥水・撥油生地を使用せず、サテンやリネンといったラグジュアリー素材に対して後加工しています。雨の日や、お子さんと公園で遊んだり、BBQに行くときなど、汚れや油跳ねを気にして白を着ないようにしている方も多いと思いますが、TEECHIの服はそこを気にせず着こなしを楽しむことが出来ます。私たちが素材の選択、サンプルづくり、テストの実施まで徹底的にこだわり、合格した機能性の高い生地にデザイン性を掛け合わせた商品として提供しています。
「空調」という快適性と洗練されたデザインを併せ持つTMO ウィンドブロワーシリーズ
― 作業着のイメージがある空調服をお洒落に生まれ変わらせた、画期的な商品も発表されています。
“Take Me Out”(以下TMO)というコンセプトで打ち出したシグネチャーモデルで、「TMO ウィンドブロワー ジレ」、「TMO ウィンドブロワー MA-1」の2タイプをご用意しています。作業用の空調服はすごく快適ですが、私服として着るにはお洒落ではありません。でも今の日本の夏は暑すぎて、普通の洋服ではとても外へ遊びに出かけられません。そこで送風機という技術とデザインを融合させることで外出に対するハードルを取り除き、「外に出よう、楽しもう、自分の可能性を広げよう」というコンセプトで開発しました。内ポケットに入れたバッテリーにコードを通し、背中のヨーク部分に装着したファンを回すことができるので、身体の深部体温の過度な上昇を防ぎ、夏の日々を快適に過ごすことができます。送風機をはずすと防風アウターとなり、3シーズン活用できるよう設計しました。
冬に向けては、ヒーターを活用した商品を開発中です。その特性を考え、アウターではなく、多くの女性の悩みである足元の冷えを解消し、お腹をあたためるボトムスをつくりました。「ヒーターが身体に密着して暖かい」と「デザインとしてカッコイイ」をいかに両立させたのか、ぜひ楽しみにしていてください。
予約受付中だった「TMO ウィンドブロワー ジレ」、「TMO ウィンドブロワー MA-1」については7月上旬から発送となり、いよいよお客様のお手元に届くことになります。
また7月12日から1週間、阪急うめだ本店でポップアップストアを出店し、実物販売を行います。特に「TMO ウィンドブロワー ジレ」は生産数が少ないので、ぜひお早目にお求めいただければと思います。秋冬のラインナップの中から限定先行予約も受け付けますので、こちらも楽しみにしていてくださいね。
論理的思考と未知の領域へのチャレンジ精神でファッション業界を変えていく
― クオリティに妥協せずチャレンジを楽しむブランドであるために、今後どのような人材を採用していきたいとお考えですか。
歴史の長い業界の中で、技術的不自由さやしがらみから解放され、上流から下流まで、みんながハッピーになる成長の方向を模索するためには、感性頼みからの脱却と、状況を整理整頓して、戦略と共に次に進める考え方をできる人材が必要だと考えています。ファッションが好きでロジカルな方、困難なことに対してソリューションを考えることが好きな方、今まで他で見たことがないものだからこそ挑戦してみたくてアドレナリンが出てしまうような方と、ぜひご一緒したいです。
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