在庫分析クラウドサービスを開発し、ファッション・アパレル業界が抱える在庫問題の解決に力を注いでいる注目の企業、フルカイテン。この会社を率いる代表瀬川氏は、もともとこういった事業を行うというビジョンを描いて独立したのではないという。度重なる危機の中でこれまで自分が蓄えてきた知識と経験をもとに、予測モデルを用いた独自の分析で商品力を正しく可視化するという、難しい課題に取り組んだ。そして技術レベルの高さが評価され、名だたる企業との契約を重ねている。急成長するフルカイテンの強さの背景を、瀬川氏が歩んできた道のりとともにご紹介する。さらにフルカイテンとして大切にしていること、今後の会社としてのビジョンについて、語っていただいた。
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瀬川 直寛さん/フルカイテン株式会社 代表取締役CEO
1976年、奈良県生まれ。慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業。新卒入社したコンパックコンピュータ(現ヒューレットパッカード)ではトップセールスを記録。次の転職先では基盤が何もない状態から3年で年商15億円の事業を創り出し、3社目では1人で全社売上の9割を稼ぐなど、抜群の営業成績を残す。2012年にEC事業を手がけるハモンズ(現フルカイテン)を起業。3度にわたり倒産しかけたが、危機を乗り越える過程で在庫問題を解決する『FULL KAITEN』を着想。在庫回転率が17回転を超える。18年にはEC事業を売却して社名をフルカイテンに変更、FULL KAITEN事業に経営を集中させている。
スキルを高めるため、もっとも厳しい部署への配属を志願
―瀬川さんのキャリアのスタートは、外資系PCメーカーの営業だそうですが、その時代は、どのような力を身につけられたと思われますか?
入社当初は自らをきたえるため、「社内で一番厳しい部署に行きたい」と志望しました。でも想像以上に厳しくて。「〇〇を開拓」という指示があるだけなので、接待の場に入り込み、名刺交換を行って自ら接点を作るなど、とにかくあらゆる手を使うことを学んでいきました。
そして必死につかんだ商談なので、準備にかける情熱も高かったです。事前にお客様の反応をあらゆる面から想像して、どのルートをたどっても、その日の商談のゴールまで進むように考え抜きました。その台本をA3のノートに書いて丸暗記してから商談に臨むようにしていたんです。そうやって自分に課された数字の目標を必死に達成していったところ、知らない間に力がついていって。入社して3年目で、いきなりトップセールスになりました。
その後はベンチャー企業へ転職して3社ほど経験し、20代の後半からは新規の事業をゼロから立ち上げていく、事業開発の方向にシフトしていきました。
―そこまで充実した仕事に取り組まれていて、なぜ独立しようと考えられたのでしょうか?
そのうち「何のために働いているんだろう?」と考えるようになっていたんです。4社目の時に、目の前にいるお客さんが誰も笑っていない様子を見て、「お互いに何のために働いているんだろうか?」という心境になりました。
さらに30代中盤になって「自分はあと何年くらい若い人たちと一緒になって働けるのかな?」と、危機感を抱くようになりました。そんな中、部下の誕生日サプライズとして会社の本人の席までバルーンギフトを届けました。本人が箱を開けると大きな風船がオフィスの宙を舞って、みんな大爆笑したんです。
そんな笑顔を眺めていた時に「これまで自分がしてきた仕事は、この風船ぐらいお客様を笑顔にしたことがあるのだろうか。これ以上、自分の時間を費やすのは違うのではないか」と気づいて。その年の12月末で退職して、翌年の5月に会社を設立しました。
学生時代に鍛えた理系の頭脳が、会社のコア事業開発につながる
―独立されて、最初はベビー服のEC事業からスタートされたそうですね。
当時は会社を辞めると決めた時に、ちょうど婚約して。それから起業し、何ヶ月か経ってから子どもが生まれました。まずは世の中のお父さん、お母さんをベビー服で笑顔にできたらいいなと考え、ベビー服のEC販売をスタートさせました。
―ご自身のライフイベントも重なったのですね。
しかし今振り返ってみると、誰かを笑顔にできるということだけだと、起業の動機づけとしては弱かったと思います。誰かを笑顔にできることと、自分が得意なことや自分が好きなこと、この両方が満たされないと、事業が本当の意味で伸びるのは難しい。
一般コンシューマー向けで、しかもECで物販となると、私はまったく経験したことのない分野でした。在庫の怖さなども一度も経験しないまま会社を立ち上げビジネスに参入したので、危機察知のアンテナはまったく立っていなくて。結局、倒産危機を3回も繰り返してしまいました。
―その危機は、どのようにして乗り越えていかれたのでしょうか?
倒産危機は自分の知恵でどうにか乗り越えるしかなくて、その時に役立ったのが学生時代にきたえていた、理系の頭脳だったんです。私は数学的な知識や統計の知識、それからAIや機械学習と呼ばれる分野の知識を持っていたので、「こういう在庫リスクを犯さないように、在庫をどのように分析するべきなんだろうか?」とか、「早めに在庫リスクを予見するにはどうしたらいいのか?」といったことに対して、アイデアがわいてきたんです。それが2017~18年ごろにソフトウェアの形になって、現在の在庫を利益に変えるクラウド「FULL KAITEN」につながっていきました。
DX導入にはツールの質に加えて、お客様の意識改革が必要
―ファッション・アパレル業界にとって、在庫は廃棄の問題にも密接に関係しています。瀬川さんは在庫と廃棄の問題についてはどのようにお考えでしょうか?
今まで「在庫を効率よく利益に変えて、極力少ない在庫で業績を上げていこう」と発想する企業は、少なかったのではないかと感じています。例えば現在、上場しているファッション関連の企業の営業利益率を見ても、3%程度でとても低い。それだけ在庫が利益を邪魔している、ということに他ならないのです。
しかしこのコロナをきっかけに抱えている在庫が売れなくなった瞬間、会社経営がどれだけ傾くのかを、アパレル業界の方々は経験しましたよね。その後、意識が「在庫を効率よく回して、利益に変えていく」方向に変わったと感じています。フルカイテンとしてはこの風潮を維持できるように後押ししていきたいですし、それができれば大量生産を行わなくても、実は利益をしっかり出せることを、もっと皆さんに知ってもらえると思うんです。そうなれば、大量生産、大量廃棄は、今よりはいい方向に向かうと考えています。
コロナが明けてお店にお客様が戻ってきた今だからこそ、いろいろな企業が取り組んでいらっしゃるように、極力、値引きを抑えて、手持ちの在庫からしっかり利益を出すという形が維持されるようになるといいな、と思っています。
―確かに今が変革のチャンスなのかもしれないですね。
自分ごととして捉えたらわかりやすいと思います。例えば一般の家庭でも月収には上限があり、その中でいろいろとやりくりするわけですよね。ところが企業経営になってくると、なぜか「売上をもっと増やしたい。だから在庫を増やせ」と上限を無視した話になってしまいがちです。そうではなくて、「持っている在庫をうまくやりくりしましょう。皆さんの家計で考えたら、そうしているはずですよね。それを事業の方でもやりましょう」ということです。ベンチャーを経営しているので、余計にそう思います。
フルカイテンはツールを使って、お客様に工夫するという視点を提供したいと思っています。
―それは具体的にはどのようなことでしょうか?
ただツールを導入したらツールが何かを変えてくれるとか、ツールが定量的な成果を出してくれる、と考えてしまう企業や担当者の人は、工夫するという考えがありません。この事業は2017年から始めていますが、工夫しない企業の成功例は、一回も見たことがないです。
結果を出すとか、何かを変えるとか、定量的な成果を出すのは、「ツールが」ではなく、「ツールで」という考え方であり、DXというのは、その「が」から、「で」という変革だと私は思っているんです。何かが変えてくれるのではない。あなたが変えるんです。それをやりやすくするためにツールが必要ならば、ツールを使ってください、という話に過ぎなくて。だからやはり一番大事なことは、結局、工夫なんです。
DX化に成功する企業、人というのは、ツールはただの手段で、使ってできることを行う。ツールでできないことに関しては、自分たちで手掛ける。あるいは工夫して実行する、という覚悟があるんです。こういう企業の人たちは、確実に結果を残します。
―御社では、サービスを導入したお客様を成功に導くために、徹底的な支援を行っているそうですが、こちらについても教えていただけますか?
まずツールプロダクトは一番大事なので、そこは本当にこだわって開発しています。しかしツールだけでできることには当然限界があるので、お客様の意識の変革が何より大事です。そしてそういった部分には、ヒューマンなサポートが必要だと思っています。
弊社はカスタマーサクセスのチームがお客様の経営課題や意識変革にも具申します。このレベル感で支援するのは在庫が経営課題だからです。無意味な迎合はせず、具申すべきことは具申する姿勢を持つチームだからお客様の成果に貢献できると考えています。
もともとカスタマーサクセスのメンバーは、ファッション業界で働いていた店長やファッション企業にコンサルとして入っていたメンバーで構成されているので、当時の自分たちが社員の立場だった時にはできなかったことを、支援という形で実行しています。お客様が抱えている気持ちも分かるし、本当に同じ目線で話ができるんですよ。だから厳しいことも言えるような信頼関係が生まれます。
―本社は大阪、東京にも支社があるそうですが、皆さんフルリモートで働かれていらっしゃるんですよね?
原則そうですね。会社全体としては3ヶ月に1回、オフラインの全社会議を開催しています。他にも、必要に応じてチームごとに集まるなどしています。社員が自主的に考えて動いているおかげで、フルリモートが成立しているのだと感じています。逆にフルリモートがうまくいかないのは、各社さまざまな事情があると思いますが、そもそも出社かリモートかを「良いか悪いか」という二元論で考えること自体が良くないと思っています。
大事なことは、「何をテーマに議論しているのか」です。例えば、明らかに具体的なテーマでイシューがはっきりしていて、何を話し合えば良いのか、誰もが同じ理解ができている状態であれば、オンラインでいいでしょう。
しかし抽象度が高く、行間にいろいろな人の思いがあったり、「これは言っていいのかな、悪いのかな?」といったことを誰かが思ってしまいかねないようなテーマだったら、それは絶対に会う方がいいです。オフラインで行う必要がある時に、集まることをためらわないカルチャーさえ作ることができていれば、フルリモートを実行しても大丈夫でしょう。
自分が事業を伸ばすという気概のある人とともに、会社を成長させていきたい
―現在事業が伸びていると思いますが、どのような人材を求めていますか?
やはり自分で考えることができる方、自分が事業を伸ばすというスタンスを取れる方と仕事をしたいです。そのためにも先ほど申し上げたように、「これはリモートでいい」といったことを、自分たちで判断できるのは大事な能力だと思っています。弊社の経営チームとしては、そういう事ができる仕組みを会社として作っていきたいと思っています。
―今後の事業展望について、教えていただけますか?
事業では、いよいよ生産量の需要予測に参入していきます。既存のお客様にはサービスの提供を始めていますが、10月ぐらいから新規のお客様にも提供していきます。今までは難しかった、次のシーズンの新商品をどれくらい生産したらいいかといったことも予測できる革命的なサービスだと思っていますし、ここに人員を投下して開発を加速させていくように、目下、取り組んでいるところです。
それが実現できれば、フルカイテンはどれくらい生産するべきかという在庫の入り口部分から、抱えた在庫を効率よく利益に変える売り方をしましょう、という在庫の出口の部分まで、一気通貫でソリューションを提供できるようになります。
具体的に言うと、生産量の需要予測から始まって、次は在庫の店舗ごとの適正配分に関するソリューションもすでに提供していますし、売価をコントロールして、極力利益を失わない売り方をするという在庫分析のソリューションもあります。
さらに売れ筋を欠品させないための追加発注の予測をするソリューションもあるので、在庫ビジネスの上流から下流まで、すべてを網羅するソリューションを扱う企業に、いよいよこの10月に進化します。本当の意味でファッションをはじめとした小売企業の少ない在庫で利益を出そう、という点に貢献できる会社に変わっていきます。
実はある大手ファッションアパレル企業で生産量の需要予測の実証実験を行いましたが、生産量を数億円分抑制して、まったく変わらない利益を出すことができたんです。普通、「数億、新たにキャッシュを生み出してください」と言われたら、「在庫をどれだけ増やせばいいのか? どれだけ店舗を増やせばいいんだろう?」という話になりますよね。でもそんなことをしなくても今抱えている在庫を使って工夫一つで実現できることなんです。大事なのは、工夫なんです。
「フルカイテン」では、事業拡大により新しい仲間を積極的に募集しています。記事を読んでフルカイテンの想いや考えに共感し、一緒にチームと共に成長していきたい方はぜひこちらからご応募ください。
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