青山学院大学を卒業後、三越伊勢丹の総合職に就職、販売業務を経験。その後独立し、古着ECサイト『from_antique』をオープンさせたゆーみんこと田中祐毅さん。相方のきうてぃさんと古着系YouTubeチャンネル『ゆーみん&きうてぃ』を運営するなど、あらゆる形でファッションに関わる田中さんですが、今日に至るまでの道のりは決して穏やかなものではなかったそう。形を変えながらもファッションに関わり続けてきたキャリアについて、お話を伺いました。
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パリでコミュニケーションがとれず絶食
――ファッションに興味を持ったきっかけは?
高校2年生の時に、東京の大学を見てみようと今一緒にYouTubeをやっているきうてぃとオープンキャンパスに行くことになったんです。僕は群馬県の中でも30分くらい歩かないとコンビニがないような田舎出身で、ファッションに全く興味がなくて。でもきうてぃはその頃からおしゃれでモテモテだったんですよ。そんな彼と一緒に東京に行くなら、おしゃれをしよう!と思ったことがきっかけです。原宿のドクターマーチンで靴を買ったことでファッションの楽しさに目覚めました。
――ファッション遍歴を教えてください。
ファッションの楽しさに目覚めてからは、お金がなかったので、地元の商業施設に入っている古着屋さんで数百円の古着を買っていました。当時は古着の魅力というよりも、単純に安さで選んでいましたね。大学進学で上京してからも、渋谷や下北沢の古着屋さんによく行っていました。大学1年生の時にコム デ ギャルソンに出会った時は衝撃でしたね。ブランドに対する知識が全くなかったのでブランド名の読み方すらわからず、そのアバンギャルドなデザインに「なんだこの服は!」と驚きました。試着してみると、とにかく格好良くて。服を選ぶ基準が「安さ」から「デザイン」に変わった瞬間でした。それからはアルバイトを掛け持ちして、26連勤したりしながらバイト代すべてをデザイナーズブランドにつぎ込むようになりました。半年で100万円くらい使った時もあったんじゃないかな。
――ファッションを仕事にしようと思ったのはなぜですか?
20歳の頃、初めて1人でフランスに行ったことが人生の転機になりました。祖父が成人祝いにお金をくれて、「貯めるんじゃなくて何かに使ってみて」と言ってくれたんです。パリは「パリ・コレクション」が開催され、ヴィンテージアイテムが豊富ですから、せっかくならファッションの街に行こうと決めました。ところがいざ行ってみると英語もフランス語も話せず、現地の飲食店の店員さんとコミュニケーションをとるのが怖くて、約2日間何も食べられなくて…。いよいよふらふらになって、目の前のサンドウィッチ屋さんでなんとかメニュー表を指差しながら注文しようとしていると、隣にいたおじいさんが手伝ってくれたんです。仲良くなって近くのベンチで一緒にサンドウィッチを食べました。共通言語はありませんでしたが、身振り手振りで30分ほど話したことが僕にとってとても大きな経験になりましたね。その夜ホテルで日常会話に必要な英語を詰め込み、次の日からは蚤の市に行って拙い言葉で服を買うことができました。そこで、バイヤーになりたいなと思ったんです。
――大学卒業後、すぐにバイヤーの道へ?
バイヤーになるためにはどうしたらいいかを考えた時に、まずはアパレル企業でバイヤーの経験を積んだ方がいいなと思いました。デザイナーズブランドにハマっていた大学1年生の頃に新宿伊勢丹に通っていたので、三越伊勢丹の総合職を目指して就職活動をしました。三越伊勢丹では2年間販売員を経験した後、バイヤーへの道が拓けます。総合職は主にアシスタントバイヤーや商品部などのバイヤーチーム、フロアの区画ごとのシーズンテーマや什器を決めたりブランド担当者と交渉したりするマネージャーチームの2種類。その他にも海外で活躍する部署や総務部、お得意様営業のような特殊な部もあります。僕は最終的にはもちろんバイヤー志望でしたが、販売研修では自主編集の2階デザイナーズフロアにどうしても行きたくて。就職活動では三越伊勢丹一択、しかも販売員研修では「絶対にデザイナーズフロアに行きたいんです!」というくらいの熱意を持っていました。
自分の可能性を信じて一歩踏み出すこと
――就職活動ではどんなことを意識されましたか。
とにかく企業研究と面接の練習をしました。どんな質問が来ても絶対に答えられるように、IR情報や社員数などの細かい数字データも覚えて、今年のシーズンテーマ、スローガンなども頭に叩き込みました。就職活動は大変でしたが、他の人と比べるとスムーズに進んだ方かもしれません。
――他の人と比べた時のご自身の強みは?
小さい頃から頭で考えたことをまとめて言葉にすることが得意で、就職活動中も面接を受けて落ちたことがなかったので、自分の強みなんだなと意識するようになりました。面接はもちろん面接官との相性もありますが、基本的にはコミュニケーション能力が重要視される場面だと思っています。僕はコミュニケーション能力というのは人に対して適切な距離を保てるか、だと思っていて。その力を養うためにおすすめなのが、飲み屋さんで知らない人に話しかけること!(笑)。飲み屋さんには色々な年齢や性別の人がいて、気軽に話しかけられる雰囲気があるので、お酒の席で本当にたくさんの人と話をしました。
――知らない人に話しかけること自体がハードルが高いように感じます!(笑)
実は僕もいまだに「恥ずかしいな」「怖いな」と思うこともあります。でも人間は本来、社会性を持つ群れを成す生き物なので、できないことはないはず。「人見知りや引っ込み思案を克服しよう!」というよりも、「自分にレッテルを貼って可能性を潰すのを一度やめてみませんか」ということなんです。まずは自分の可能性を信じて、一歩踏み出すことが大切だと思います。
「“普通のこと”が僕にはできないけれど、他の人ができないことが僕にはできる」
――それだけ熱意のあった三越伊勢丹を退社したのはなぜですか?
入社して半年くらい経った頃、自分が組織に属するということが極めて苦手なことに気が付きました。会社員という働き方が向いていないなと。そもそも僕は入社式の日に絶対忘れてはいけない重要書類を忘れた男ですから…(笑)。運よく家が近かったので走って取りに行ったんですけど、今度はハンコを忘れたんですよね。多くの人ができることが僕にはできない。なのに自分が正しいと思うやり方で仕事をやりたい!なんていう新入社員、扱いにくいですよね(笑)。でも、「自分ってなんてダメなんだ…」という無力感よりも、「絶対に成功してやる!」というやる気が沸いてきました(笑)。人と違うというのは強みでもあるなと思ったんです。“普通のこと”が僕にはできないけれど、他の人ができないことが僕にはできるんだと。でも、社会人としてどういうことが求められるのか、という常識を教えてもらうことができたので、一度社会人として働けた経験は良かったなあと思っています。
――退社後、どのようにしてバイヤーの道に?
実は20歳で初めてパリに行ってから、学生の間にロンドンやイタリア、アメリカなど様々な国で服を買い付けていました。特に勉強をしたわけではないのですが、買い付けた服を売って、旅費を稼いで…とそれなりにうまく回っていたと思います。今のようにフリマアプリはないですから、ネットオークションで販売をしていました。大学3年生くらいからはアルバイトをしなくても良いくらいそのスモールビジネスが軌道に乗り始めていたので、三越伊勢丹を退社した後は自然とそっちの道に戻った感じでしたね。
――販売員とバイヤー両方を経験してみていかがですか。
販売員はやはりマナーがとても厳しいので覚えるのが大変でしたが、元々接客が好きだったので全く苦ではなかったですね。バイヤーとして独立して大変だったことは、圧倒的にお金です!(笑)。個人事業主になってからは常に不安ですね。ただ、経営者として成功している親戚が言っていた「経営者は孤独との闘いだ。でも、良いもんだぞ」という言葉がすごく印象的で。これだけ成功した人でもずっと不安なんだとわかって、とても気持ちが楽になりました。自分は孤独で不安で当たり前だと思えば怖くなくなる。
――田中さんにとって『でも、良いもんだぞ』と思えることはなんですか?
YouTube は自分に向いているかどうかは考えず、23歳の頃に友人・きうてぃと「やってみよう!」と挑戦的に始めたんですが、僕たちの動画がきっかけでヴィンテージを好きになりましたという感想をいただくことも増えました。ただただ楽しくて続けてきたことが、こんな風に誰かに届いているんだなと思う度、非常に嬉しく思います。不安なことはもちろんたくさんありますが、『でも、良いもんだぞ』と思える瞬間ですね。
ゆーみん/田中 祐毅 たなか・ゆうき
2017年に三越伊勢丹に入社し販売員を経験後、
独立して古着EC「フロムアンティーク」(from_antique)を立ち上げ。
2018年にスタートした古着を扱うYouTubeチャンネル
「ゆーみん&きうてぃ」の登録者は4.94万人を超える。
https://www.from-antique.online/
https://www.instagram.com/from_antique/
https://www.youtube.com/channel/UC5inJSxP6sLqm2aJs_ArqmA
TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)
PHOTO:坂野 則幸
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