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TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)
PHOTO:永西永実
ファッションに関する仕事というと、ショップの販売員など各ブランドで働くスタッフをイメージする人が多いと思いますが、世の中には様々なファッションに関わる仕事が存在します。そんな中から、イラストとストーリーでファッションの魅力を伝えることができる「漫画家」にインタビューをする企画をスタート。漫画家から見たファッションや「好きを仕事にすること」についてお話をうかがいます。
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第6回は、2011年に『まんがタイムきららフォワード(芳文社)』掲載の『はぢがーる』で漫画家デビューを果たし、現在『モーニング・ツー(講談社)』で『靴の向くまま』を連載中のみやびあきの先生にお話しいただきました。
靴を自分に合わせるということ
――『靴の向くまま』は靴職人が主人公のお話。なぜ靴をテーマに?
大学時代の友人が、佐賀で靴職人としてお店を構えているという話を編集担当さんにしたのがきっかけですね。元々靴を作ってもらいたいとは思っていて、久しぶりに連絡をしたら取材にも快くOKしてくれたので「じゃあちょっと佐賀に行ってきます」と。1カ月先の予約にして、その間に本を読んだり映画を観たりと、靴についての知識を可能な限り詰め込み、靴を作ってもらいにいきました。そしたら奥深くて面白くて…。友人はカジュアルシューズ専門の職人だったので、じゃあ次はパンプスを作ってもらおうと東京のパンプスをメインで受注している職人さんを尋ねました。そしてまた「奥が深すぎる!」と興奮し、今では自分で工房に通い、靴づくりを学ぶまでに(笑)。
――ご自身で靴づくりを!どういったところに夢中になったのですか?
私は足長が24.5cmで、スニーカーは25cm前後、パンプスは24~24.5cmのものを買っていたのですが、友人の工房でサンプルシューズを試着したところ、友人が首を傾げるんです。「ちょっとこれ履いてみて」と言われて差し出されたのは23.5cmと23.0cmの靴。「爪先はきついと思うけど、踵はいけると思う」と言われ履いてみると、踵がびっくりするくらい気持ち良かったんです。結局、踵は23cmのサイズで、足長は24.5cmで作ってもらうことに。自分の中にあった靴に対する常識が覆された瞬間でした。
――部位によってサイズが違うというのは驚きです。
世の中には私と同じような方が沢山いらっしゃるんですよね。市販の靴というのは7割の方が「履くことはできる」けど、「本当にサイズが合う」のはたった2~3割の人。というのも、足が入らない靴やきつい靴は誰も買わないので、市販の靴のほとんどは大きめに作られているそうです。大切なのは自分の足の形を知ること。例えばパンプスなどのヒールがある靴の場合、足幅の広さが原因で足先が痛くなると思っている方が多いんですが、ほとんどは靴のサイズが大きかったりつちふまずや足幅の位置・角度など、靴と足の形が違うことによる前滑りが原因なんです。東京の工房でパンプスを作ってもらった時、佐賀の友人にカジュアルシューズを作ってもらった時とは違う方法でも足を測定してもらいました。足にかかる荷重の分布をみたり、ヒールで歩いてみたり。測定したサイズにあわせて木型を調整するのですが、その時は「あなたのベースの木型は踵に合わせると22.5cmです」と言われたんです。それと、市販のパンプスは絶対に合わないことを知り、びっくりでした(笑)。
――その驚きが『靴の向くまま』のストーリーの土台なのですね。
根底にあるのは、「私でもこんなに快適に履ける靴があるんだ!」という感動と、「みんな自分の生き方で良いんだよ」という想いですね。でも最初からそういうことが描きたかったわけではなく、靴についてとにかく調べて調べて…を繰り返していくうちにまとまりが出て、描きながら私の中でストーリーが生まれたという感じです。描きたかったのは靴の種類の話ではなく、靴を履いた時の高揚感や、その靴を履くことで起きる些細な変化が、人生を左右する大きな変化に繋がっていく…そんな物語。今も「靴を自分に合わせて、自分を認めて歩いていくってどういうことだろう?」と常に考えながら描いています。
「あなたの絵ではダメだ」と言われ続けて
――絵を描き始めたきっかけは?
幼い頃から絵を描くのが好きで、兄の影響でRPGゲームが好きだったこともあり、小学校の卒業文集には「将来はゲームクリエイターになりたい」と書いていました。その頃はファンタジー寄りの絵もたくさん描いていて、同人がきっかけでゲームのイラストやゲーム内漫画を描かせていただいたりしたこともあります。作家として独立する前はライトノベルの挿絵を描きたくて、色々な出版社へ持ち込みをしたのですが、全くうまくいきませんでした。「あなたの絵ではダメだ」と言われ続けて…。
――具体的にどういったところが「ダメ」と言われたのでしょうか。
私の絵は中性的なんだそうです。ライトノベルなどのコンテンツは、男性向けと女性向けでターゲットが明確に分かれていて、私の絵はそのどちらにも所属できない絵柄だと。だからどの編集部に持ち込んでも「うちじゃないね」と言われてしまう。ただ、漫画を描くようになってから、それまでの「可愛い」や「綺麗」だけではない感想をいただくようになりました。個性のない私のイラストでも、ストーリーの力を借りることで格別可愛く見えたり、特別悲しく見えたり、自分の絵が一番生き生きとする瞬間を自らの手で作り出せるということがとても面白くて。また、ある時モーニング編集部のパーティーで、上の方に「一般受けする絵だね。誰も不快感を持たない絵柄だよ」と言っていただけたんです。私の絵に価値があると思えて嬉しかったです。
――いつから漫画をメインに描くように?
大学生の時に、漫画コンテストで賞金1万円の奨励賞をいただいたんです。それまでは自分には漫画は描けないと思っていたんですが、そんなこともないのかも…と。その後も同人やアンソロジーで少しずつ描いてはいましたが、ネームを切るのがとにかく辛くて…自分は何かを伝えたいというよりも、絵が描きたいから漫画を描いているんだなと思っていました。でも、別の方の原作を元に漫画を描く機会をいただいた時に、もちろん自分じゃないところから生まれてきたお話に絵を入れる楽しさはあったのですが、「もっとこんな風に描きたいなあ…」というモヤモヤする気持ちも生まれたんです。それから「自分が本当に描きたいものってなんだろう?」と考えるようになりました。それは生きていく中で変わっていくものなんですが、自分が感じたものを言語化するためにずっと闘っているような感覚です。
才能や適性は、「やる気」以外にあり得ない
――仕事として漫画家の道を選んだきっかけは?
漫画でしか成功しなかったからです(笑)。絵を描いて生きていきたいと子どもの頃から思っていましたが、同人イベントがきっかけで、作品を見てくださる方と交流した経験が本当に楽しくて、他の選択肢はありませんでした。ただ、大学在学中に漫画家・イラストレーターとして独立はできなかったので、一度就職をして働きながら持ち込みを続けました。新卒で入った会社では営業だったこともありとても忙しく、絵を描く時間は全く取れないし、夜中に描く生活をしていたら倒れてしまいました。7ヵ月で正社員を辞め、そのあとは派遣社員として勤務時間を一定に保ちながら絵を描く時間を確保することに。会社に所属して働くこと自体は苦痛ではなかったのですが、自分の中での最優先事項は絵を描くことだったので、営業として重要なお客様ファーストを頑張ることができなかったんです。
――正社員でなくなることへの不安はなかったのでしょうか。
不安はもちろんありました。でも本当に全く絵を描く時間がなかったあの時期を知っているからこそ、まず絵を描けるということ自体が私にとって幸せなことなんです。収入が減るのは怖いことだし、実際お金のために、絵の仕事ならなんでも受けて失敗したこともあります。それでも絵を全く描けなかった時期の方が苦しかったので、その経験を忘れないようにしています。実は辞めた会社では主席入社だったらしく、新入社員代表の挨拶までしていたので、周囲からは「よく辞めたね」と言われました。でも、逃げるために辞めたのではなく、進むために辞めたので、後悔はありませんでしたね。
――漫画家としてデビューして、いかがですか?
とにかく描き続けて、気付いたらデビューして13年目になっていました。私は就職活動の時に行う適性検査などで「クリエイターへの適性」の数値がとても低く、周りからも「本当に漫画家になれると思わなかった」と言われるほどで、おそらく「向いてなかった」んです。自分でも、本当に叶うとは思っていませんでしたし…。周りの作家さんと自分を比べたり、打ち切りがあったり、辛いことも沢山ありました。私は今でも、自分の才能は疑っています(笑)。
――「適性」がなくても夢を叶えられたのは、なぜだと思いますか?
デビュー作の『はぢがーる』がありがたいことに沢山の方に読んでいただけたようで、スタートは恵まれたと思います。作品を出す度に、読者の方から宝物みたいな温かな感想をいただけて、小さな成功体験の積み重ねに支えられてここまできました。才能は、「やる気」以外にあり得ないと思っています。本人がやりたいと思って続けられるかどうかだけ。もちろんその業界で上に上り詰めることができるかどうかはまた別ですし、適性と才能が噛み合っていたら強いと思いますが、この差に苦しむ人も多いと思います。私は「やめられなかった」ただそれだけだと思っています。
みやびあきの
2011年に『まんがタイムきららフォワード(芳文社)』にて『はぢがーる』で漫画家デビュー。著書に『おにまん』、『なでしこドレミソラ』、『珈琲をしづかに』など。現在『モーニング・ツー(講談社)』で『靴の向くまま』を連載中。
『靴の向くまま』(モーニングKC)
「いい靴はいい場所に連れていってくれる」――靴職人だった亡き母に教わった言葉を胸に、工房を継いだ歩純結彩。“履き主がいい場所に行けるように”とおまじないをかけながら作られる結彩の靴は、今日も誰かの一歩をやさしく包んでいく――。まだ未熟、されどあたたかい靴職人の物語。
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