「ジェネラティブアート」という言葉をご存知だろうか?
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端的に説明すると「コンピューターのプログラムを使って自動的に作られるアート」のことを指していて、NFT(代替不可能なデジタルデータ)の生成方法のひとつとしても用いられている。
このジェネラティブアートとファッションを組み合わせた商品を展開しているブランドが「Tribute Brand(トリビュートブランド)」だ。
Tribute Brandは、ジェネラティブアート×ファッションという先進性を追い求めるだけでなく、サステナビリティにも配慮した商品製作を行っている。特に海外において注目を集めており、2022年7月にシードラウンドにて450万ドルの資金を調達した。
そこで今回は、Tribute BrandのCEOであるGala Marija Vrbanicに、商品製作の背景や特徴、今後の展望を伺った。
PROFILE|プロフィール
Gala Marija Vrbanic
Tribute Brand 創業者兼CEO2020年4月にTribute Brandを設立。デジタルファッション分野における初期のパイオニアのひとりとして市場の方向性を示し、彼女の比類なき創造性とアプローチは、ファッション、アイデンティティ、自己表現の創造的可能性を無限に広げている。Carolina HerreraやJean Paul Gaultierなど世界的に尊敬されるデザイナーたちとコラボレートし、その活動は一流メディアやファッション関係者にも認められている。
先進性とサステナビリティを兼ね備える「ODDS」
Tribute Brandは、2023年5月に「ODDS」と呼ばれるプロジェクトを発表した。
ODDSは、NFTアートプロジェクト「Chromie Squiggle」と、廃棄物ゼロのニットウエアを生産している「Waste Yarn Project」とのコラボレーションにより商品を展開している。
Tribute Brandはどのような背景で、これらのプロジェクトと協業して商品開発に至ったのだろうか。
「私たちは、現状のファッション生産システムや、すでに世の中に多くの服が出回っているにも関わらず、さらに多くの服が生産されている事実にうんざりしていました。
そのため、余った糸でゼロ・ウェイスト・ニットウェアを生産するWaste Yarn Projectと一緒に、環境に配慮した商品を生産することにしました。ODDSは、Waste Yarn Projectによって手作りで生産されていて、オンデマンド生産のため在庫が残ることはありません。
また、もう一つのコラボレーション先であるジェネラティブアートプロジェクトのChromie Squiggleと協業することにより、Chromie Squiggleのソースコードを活用して、世界に一つしかないセーターを生成することを可能にしました」とはGalaは語る。
Chromie Squiggleとは、Art Blocksと呼ばれるNFTプラットフォームの作品のひとつで、生成時にランダムな情報を取得し、その情報を基に色やグラデーション、波線の形などを決めるジェネラティブアートだ。情報はブロックチェーンにて記録されるため、一度決まったアートの形や色は変わることはない。
このChromie Squiggleのデータをセーターの設計図に変換し、ユニークなセーターを製作するのが「ODDS」の仕組みだ。
ブロックチェーンを活用して唯一無二の商品を一瞬で生成
ODDSは、Chromie Squiggleの情報に応じて、色の配置だけでなく、セーターの糸、編み目などが決定される。「ジェネラティブアートをフィジカルな衣服に変換させる」という、これまでになかった新たな試みはどのように実現したのか。
「私たちは、コンピューターによって生成されたデジタルの設計図に基づき、それぞれの衣服が唯一無二のものとなることを意味する『ジェネラティブ・ファッション』を構想し、実現するにあたって、ブロックチェーンベースのジェネラティブアートプロジェクトと協業する必要があると考えました。
そこで、ジェネラティブアートの中でも特に価値の高い「Chromie Squiggle」を生み出したアーティストであるErick Calderon氏に連絡を取ると、彼はすぐにこのアイディアを気に入りました。
特に彼が気に入ってくれたのが、単に唯一無二のデザインを衣服にプリントアウトするだけでなく、実際にChromie Squiggleのコードを使い、それを直接ニットウェアに埋め込むことで、コードによって生成されたデジタルの設計図が商品によってどのように違って見えるかを紹介するというアイディアでした。
今回の協業プロジェクトは1年以上かけて進められ、最終的にはTribute Brand独自のジェネレーターを開発し、Chromie Squiggleのソースコードをデジタル設計図に変換し、その設計図に基づいてユニークなセーターを製作する仕組みを完成させました」
NFTのIPやデザインを活用したアパレル製品は散見されるが、NFTの“データ(ソースコード)”を活用した商品はあまり見受けられない。
Tribute Brandは、NFTの唯一無二性と、ジェネラティブアートの技術を活用し、瞬時に世界で一つだけの商品を作ることに成功した。
ODDSは0.33ETH(約10万円)限定999個で販売され、現在は完売している。
Galaが見据えるファッションの未来
Tribute Brandを立ち上げ、業界に革命を起こしているGalaは、今後どのようなファッションの未来を見据えているのだろうか。
「今後は、一過性のトレンドではなく、良い職人技と長く使える素材に焦点が当てられると思います。物理的な衣服は、人体を保護するための機能的な役割となり、自己表現はデジタルファッションによって代替されるでしょう。
テクノロジーと人間が進化し、社会生活の大半をバーチャル空間で過ごすようになるにつれて、この傾向はさらに大きくなると考えています。
例としてオンラインゲームやソーシャルメディアが挙げられ、それを裏付けるように、大手のゲームの中には、仮想空間における自己表現のツールであり、ファッション・オブジェクトであるスキンの販売によって利益の大半を得ているものもあります。
私は、このシフトが今後より明白になると見ています」
最新のテクノロジーを活用して、デジタルファッションの最前線を走る彼女が見ている未来は、バーチャル空間でのファッションだ。
今後、スマートフォンが登場した時のように、新たなデバイスによって生活様式が一変し、バーチャル空間上での生活が現実世界よりも長くなれば、ありうる未来だろう。
その未来がいつになるかは分からないが、新たなデバイスの開発はGAFAMを中心に着実に進められている。
私たち日本の事業者も、新たなビジネスチャンスを逃さないように、海外の最先端の取り組みを知っておく必要があるだろう。Fashion Tech Newsでは、今後も海外の新興ブランドの情報を配信していく。
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