今まで2,000人以上の販売員を取材してきたファッションライターの苫米地 香織さん。専門学校卒業後に、販売・商品開発・マーケティングなどアパレルの様々な仕事を経験し独立。現在はWebメディア「Fashion Commune(ファッションコミューン)」を立ち上げ、販売員の地位向上・価値向上・スキル向上を目指し情報を発信している。数多くの販売員の取材を通してわかった、活躍する販売員の共通点をメインに語っていただいた。
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苫米地 香織さん/合同会社FCRlab.代表・ファッションライター・グラフィックデザイナー
少女まんが、魔女っ娘アニメで育ち、C-C-B、ヴィジュアル系の影響でファッションに興味を持つ。専門学校卒業後、販売員になるが1年で挫折してアパレル企画会社へ転職。量販店向け商品企画、マーケティング、トレンド調査、グラフィックデザインなど、幅広い業務に従事する。その後、フリーで衣装制作、グラフィックデザイナー、フォトグラファー、ライターとして活動。ファッション業界誌を中心に執筆し、日本で一番アパレル販売員を取材。これまで取材してきたアパレル販売員は2000人を超える。その経験を活かし、現在はファッションでコミュニケーションするWEBメディア『Fashion Commune』を運営する。
会社員時代、販売・マーケティング・デザインなど幅広く経験
― まず苫米地さんのキャリアについてお伺いします。最初はアパレル販売員になられたようですが、その経緯について教えていただけますか。
小さい頃からファッションが大好きで服飾専門学校に入学しました。学生時代は雑誌『CUTiE(キューティ)』の影響を受けていろんなファッションに挑戦していました。卒業後は、デザイナーになるための足がかりとして販売員として働き始めました。
当時流行っていたインディーズブランドに入社し、その年に開業したストリートブランドを集積したファッションビルで勤務することになりました。入社した会社は規模が小さくギリギリの人数で店頭を回していたため、新人でも積極的にお客様にお声がけをして売上を上げないといけない状況でした。休憩時間もまともに取れないようなハードな労働環境だったため一年で退社し、転職しました。
― それは大変でしたね。次の会社では夢だったデザイン関係のお仕事をされたのでしょうか。
アパレルの企画会社に入社し、デザインを含めた色々な業務に携わりました。商品企画やマーケティングから、グラフィックデザイン、トレンドマップの作成、ストリートリサーチなど本当にたくさんの経験をさせてもらいました。
売れる商品を企画提案しなくてはいけないという大きなプレッシャーはありましたが、独立後に必要なスキルはそこで培われました。その会社には約10年勤めました。
― なるほど。その後、どのような経緯で独立されたのでしょうか。
企画会社時代にパソコンやデザインのスキルを養えたので、友人からチラシやポスターのデザインをよく依頼されていたんです。そのうち個人のデザインの仕事も増えてきたので、徐々に独立していきました。
雑誌「ファッション販売」での執筆は、独立してからも継続して依頼をいただきました。企画会社時代はマーケティング系の調査が中心でしたが、独立してからは販売員への取材を依頼されるようになり、いまに至ります。約20年で2,000人以上の販売員の取材をしてきました。
― 2,000人の販売員を取材されてお感じになっているのはどんなことでしょうか?
販売はクリエイティブで奥深い職種だ、と取材を重ねるごとに思いますね。トップセールスの販売員や実績をお持ちの優秀な販売員を取材する機会が多いので、「販売ってこんなに素晴らしい仕事なんだ」と気づかされました。接客スキル、トレンドやお客様を観察する洞察力、売上への意識などいろいろな能力が必要な職業なのだと。恥ずかしながら、自分が販売員をしていた頃は全然気づきませんでした。
デザイナーは0から1をつくる人で、販売は1から100の答えを出す人だと思っています。デザイナーがつくった商品をお客様につなげるのが販売の仕事かな、と。お店に来るさまざまなお客様に対し、それぞれにあった洋服をご提案していく。100名のお客さまがいらしたら、100通りの答えがあるわけです。そう考えると販売ってクリエイティブな仕事だと思います。
― 苫米地さんが思う、活躍する販売員たちが持つ共通点とは?
“会話が弾むような引き出しをたくさん持っていること”だと思います。それはファッションのことに限りません。例えば、たまたま買い物に行った店で洋服とは関係のない自分の好きな音楽の話で販売員さんと盛り上がると楽しいじゃないですか。
私はよく地方取材の際、販売員さんに「何をお土産に買ったらいいかな?」「この辺で美味しいご飯屋さんはどこ?」などと聞くのですが、こういった地元ネタも会話のきっかけになりますよね。音楽、時事ネタ、今日あったこと、自分のライフスタイル、趣味、好きなことなど何でも引き出しになり得るので、販売員さんには色んなことに興味を持ち、知識や情報の引き出しを作っていってほしいです。
そのためには想像力もカギです。お客様の格好や会話から暮らしを想像して、好きそうなものを提案してみる。もし自分がお客様で、自分の好みのものを提案してくれたら嬉しいですよね。
― よく“販売員はコミュニケーション力が大切”と言われますが、苫米地さんもそう考えますか?
私はコミュニケーション力よりも、好きなものに対する愛情やその方の個性のほうが大切だと感じています。どんな人も好きなものに対しては饒舌になるじゃないですか。好きかどうかが先にあり、コミュニケーション力は後からついてくるのではないかと思います。
販売員さんに取材すると、多くの方が「人が好き」「洋服が好き」と答えます。人が好きと答える方はコミュニケーション力に長けている方が多いですが、洋服が好きと答える方はコミュニケーションが苦手と言う方が多い印象があります。苦手でも服への愛情や作り手の思いを伝えたいという気持ちがあれば、自然に想いが口に出てきて、それに共感するお客さまへつながっていき、やがて売上になっていくのだと思います。
ロールプレイングコンテストの取材によく行くのですが、まれに新人の販売員が好成績を残すことがあります。それって、その販売員のブランド愛やファッションが好きだという気持ちが起因しているのではないかと思うのです。好きなことに対してはそれだけ爆発力があるのです。
― 好きなことを突き詰めていくと、自然とコミュニケーション力にもつながっていくのですね。
AIが発達してきていますが、AIには好きを突き詰めたり、個性を発揮することはまだできません。町の八百屋や精肉店が減っていく中、洋服屋は対面販売の最後の砦になっています。食品はスーパーやオンラインで気軽に買えても、洋服はオンラインショップではなく、実店舗で買いたいという需要がまだあります。いくらテクノロジーが進化しても、人が実体として存在する限り、リアルなコミュニケーションは大事だと思うのです。
― そう考えると、さらに販売員の重要性が高まってきますね。これから販売員として活躍するためには何が必要でしょうか?
販売員は好きなことを活かせる仕事だから、その気持ちがあれば「そのままでいいよ」と伝えたいです(笑)。しかし、しいて言えば、伝える力でしょうか。よくなんにでも対し「可愛い」という言葉を使いがちになりますが、「どこが可愛いのか?」「どんな風に可愛いのか?」、そこまで明確に表現できたら強いと思います。
販売員の魅力を届けるWebメディア「Fashion Commune」
― 苫米地さんは今年、Webメディア「Fashion Commune」をローンチされましたね。なぜ立ち上げられたのでしょうか。
一番の目的は魅力的な販売員を紹介して、販売職の楽しさや奥深さを知ってもらいたい。何よりも現役販売員の方たちに“すごい仕事をしているんだよ!”と伝えることです。邪な理由で販売員をやっていた私が取材を通して、販売はとても価値のある職種だと感じたので、まずはこれを伝えていこうとやっています。店長・マネージャークラスの方からも「販売員が自身の仕事の価値に気づいていない」という声をよく聞くので、そういった方々に役立つような、仕事に活かせる学びの記事や販売職のキャリア形成を考えるきっかけになるような取材記事なども発信しています。
― 販売員の魅力に気づく人が増えるといいですね。今後の展望はどのように考えていらっしゃいますか?
「Fashion Commune」で取り上げたい内容は3つあります。1つは、販売員出身でそのスキルを活かしてキャリアを広げた方を紹介すること。販売員の将来の選択肢がたくさんあることを示していきたいです。
2つ目は現役で販売員をされている方を取り上げること。学びやスキルアップにつなげていってほしいと思います。3つ目はお客様にも販売員について知ってもらうこと。販売員ってこんなに面白い仕事なんだよと魅力を届けたいです。
― とても有意義で魅力的なWebメディアになりそうですね。
今後は、販売員のコミュニティをつくろうかと検討中です。私が販売員をしていた時、販売員は横のつながりがほとんどなく、お昼休憩中も休憩室でひとりで黙々とご飯を食べていました。他の店舗の販売員とも交流する時間がありませんでした。
いまの販売員も横のつながりが少ないと聞きます。横のつながりができたらひとりで悩まずに済むことがたくさんあると思うので、これからコミュニティをつくっていけたらと思います。
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