ファッションブランド「MIDDLA(ミドラ)」「Ohal(オーハル)」などのデザイナーを務める安藤大春さん。専門学生の時にイラストレーターとしてキャリアをスタートさせ、優れたデザイン力と行動力、人とのつながりを活かして、TOKYO新人デザイナーファッション大賞をはじめとする様々な快挙を成し遂げてきた。特に、文具ブランド「MONO」とのアパレルブランドの立ち上げや「モスバーガー」の制服デザインなど、異業種とのコラボには目を見張るものがある。異業種コラボを生み出すクリエイティビティについてお伺いした。
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安藤 大春さん/ファッションデザイナー・イラストレーター
「MIDDLA」のほかに、株式会社トンボ鉛筆との協業による「MONOxMIDDLA」ブランディング、株式会社COX「IKKA」内のライン「√M( ルートエム)」ディレクション、株式会社ヤギとの協業で上質な素材に拘ったユニセックスブランド「Ohal」のブランディングやデザインを行っている。最近では、上野樹里さんが手がけるブランド「TuiKauri」のファシリテーターも務める。そのほか、企業の制服、アーティスト衣装・グッズのデザインなど幅広く手がける。イラストレーターとしても活動中。
人との繋がりと行動力でデザイナーのキャリアを切り拓く
― まず安藤さんのキャリアについてお伺いします。デザイナーになられた経緯を教えていただけますか。
大学時代までアイスホッケーに熱中していたのですが、いとこがアパレルのデザイナーをしていた影響で私も同じ道を意識するようになりました。将来を模索していた時に、留学先のカナダで学校の先生に「少しでもやりたいと思ったことを貫き通してみればいい」とアドバイスをもらったため、帰国後に大学とダブルスクールで服飾専門学校に通い始めました。
専門学生の時に、はじめてデザイナーとしての仕事をもらいました。服のデザインではなく、新しくデビューするロックバンド「TRICERATOPS」のロゴデザインでした。担任の先生が、ミュージシャンのスタイリストをしており、その関係でコンペをご紹介いただいたのです。当初はイラストを描けるスペックのパソコンを持っていなかったですし、使ったことのない安い3Dデザインソフトを買いに行って基礎を勉強しながら球や円すいをくっつけたりして、何日もかけて、ピンクのトリケラトプスを完成させて応募しました。結果、私のデザインしたものが選ばれ、CDジャケットやグッズに使用されることに。
それを機に多くの業界の方と知り合い、テレビ番組のロゴやキャラクターのデザインなどを頼まれるようになりました。
― 最初はイラストのデザインを手がけていたのですね。ファッションデザイナーになられたきっかけを教えていただけますか。
専門学校の仲間と一緒にアパレルブランド「DOPPELGANGER(ドッペルゲンガー)」を立ち上げたのがきっかけです。当時始まったばかりのデザインフェスタに出店したところ、思いのほか好評を得ることができました。そのデザインフェスタで、アタッシェドプレスの方からお声がけをいただき契約しました。その時はプレスというものが何なのかも知りませんでしたが。そして勢いのまま渋谷区神宮前2丁目の裏の方に小さなショップ兼アトリエを構えました。
― 「東京コレクション」でデビューを果たしたのもその頃でしょうか?
そうです。当時の「東京コレクション」には夢があって、いつかは出たいと思っていました。ただ、当時はネットもない時代でしたので、電話帳やプレスの情報を元に運営しているCFDという団体の住所を調べ、ダメ元で行ってインターホンを押しました。いきなり来る人たちは初めてだと、当時の代表の方に言われましたが、逆に面白がってくれてラフォーレミュージアムの会場とスケジュールを与えてくれたのです。そして夢の「東京コレクション」へデビューすることができました。
― 直談判に行くとは素晴らしい行動力です。
数年後、JFW(ジャパンファッションウィーク)が発足し、参加できることになり、ちょうどデザインの気分が変わってきた時期だったので、ブランド名を「lessthan*(レスザン)」に変えました。よりコンセプチュアルな服になったからか、海外からオファーが来るようになり、フランスやドイツの展示会に出店したりしましたが、海外ビジネスがよくわかっていなかったので、かなり苦労しました(笑)。
― まさにとんとん拍子ですね。
数年後、株式会社ワールド(以下、ワールド)から新ブランド立ち上げの話があり、チーフデザイナーとして携わることになりました。大手企業の服づくりのシステムを勉強でき、デザイナーとしてかなりスキルアップできたと思います。
ワールドでは素材重視のベーシックな服を中心にデザインしていました。いろいろ素材や付属の重要性を学ぶにつれ、私もベーシックやトラッドを軸としたデザインをしたくなり、2015年にレディースブランド「MIDDLA」を立ち上げました。ありがたいことに、翌年にTOKYO新人デザイナーファッション大賞プロ部門で入賞させていただきました。デザイナーとしては、まったく新人じゃないのに(笑)。
― デザイナーとして着々と実績を積み上げていますね。安藤さんのもうひとつのブランド「Ohal」を立ち上げた経緯を教えていただけますか。
2019年ころ、知人を介して素材メーカーの株式会社ヤギ(以下、ヤギ)をご紹介いただいたのがきっかけです。上質な素材を使ったTシャツや裏毛をメインとしたメンズベーシックブランドをつくる予定だったのですが、ベーシックラインを装飾するコレクションラインも加えてシーズンで発表するブランディングを提案したところ採用されたのです。自分が着たいと思える服を作りたかったので、ブランド名を「Ohal」と名付けました。
「MONO」コラボや「モスバーガー」ユニフォームデザインを手がける
― 安藤さんは2020年に「MONO」とコラボした「MONO×MIDDLA」を発表されました。異業種とのコラボですが、どのように誕生したのでしょうか。
「MIDDLA」の服のデザインを考えている時に、ふと手元にあったMONO消しゴムを見て、「この青・白・黒のトリコロールを使いたい!」と直感的に思ったのがきっかけです。「MIDDLA」のコンセプトのひとつに”トラッド”というキーワードがあり、伝統的なストライプを用いたいと常々思っていましたが、どれもどこかで使われてるものばかりでした。
その時、たまたま近くにあったMONO消しゴムを見て、この青・白・黒のトリコロールは自分が子供の時からあるから日本の伝統的なストライプなのではないかと思い、ぜひを使いたいなと。
― 文具業界は異なる業界ですが、どのようにコラボを提案されたのでしょうか。
最初にホームページの問い合わせフォームからメールを送りましたが返事は来ず。そこで手紙だったら読んでくれるに違いない、と直筆で手紙を書きました。しばらくしてメールでお返事をいただき、トンボ鉛筆のオフィスでプレゼンする機会を得ることができました。
「単発のコラボではなく、先へと続くブランドとしてコラボしたい」という想いを熱く語ったのを覚えています。結果、共感してくれた担当者が、社内に掛け合ってくれてコラボが決定。「MONO×MIDDLA」をスタートすることになりました。
クラウドファンディングを皮切りに、百貨店でのポップアップ、トンボ社内での社販、ウェブショップ等でアイテムごとに販売してきましたが、コロナ禍に入ってペースダウンしていました。でもストップすることはないです。実はつい先日、トンボ鉛筆で打ち合わせをしてきて、次のステップについて企画中です。
― 持ち前の行動力を発揮されましたね。「モスバーガー」のユニフォームのデザインも手がけられましたが、きっかけを教えていただけますか。
あるアパレル関連企業からお話を頂いたのがきっかけです。それまでユニフォームを手がけたいという気持ちはあったのですが、なかなかご縁がなく実現しませんでした。チャンスがあるなら、と今回も飛び込みました。
― 提案では、どのようにアピールされたのでしょうか。
たまたま「モスバーガー」を展開する株式会社モスフードサービス様と私の誕生日が同じであることを知り、勝手に運命を感じ、ここぞとばかりにアピールしました。月日だけでなく年まで同じというのは、なかなか出会わないです。
また、過去にユニフォームデザインを手がけた経験値が少ないからこその視点や発想を活かして新鮮なデザインができるとアピールしました。例えば、「モスバーガー」と言えば赤・緑・白のイメージが先行しますし、過去のユニフォームには取り入れられてきたカラーだと思いますが、私はその3色を使わずにネイビーやサックスを基調としたクリーンなイメージに仕上げました。
2020年の最初のご提案から、デザイン面や機能面において、打ち合わせを重ね、修正を繰り返し、2023年6月から店舗で導入されました。
― 最近では、俳優の上野樹里さんがデザインするブランド「TuiKauri(トゥイカウリ)」のファシリテーターを務められていますね。
上野さんのご主人である和田唱君ともともと仲が良く、「TRICERATOPS」のデビューまで遡ると25年以上のつきあいになります。昨年、2人と食事をしている時に、上野さんから服を作りたいというご相談があり、ブランドを作ることになりました。上野さんが希望するのは、人にも地球にもやさしいインナーウェアでした。ただ、自分的には、俳優・上野樹里が立ち上げるブランドが下着ブランドというのはイメージが違うと思い、ルームウェア、ワンマイルウェアまで広げようと提案して、ファッションブランド「TuiKauri」が誕生しました。
― 具体的には、どのようなものづくりをされましたか。
特に素材と染色の2つにこだわりました。まず素材についてですが、アンダーウェアの素材は肌が弱い人でも身につけられるようにシルク100%でつくっています。シルクは家庭で洗濯可能なウォッシャブルシルクです。
染色は日本企業が開発した「ボタニカルダイ」を採用しました。一般的な草木染めと違い、ボタニカルダイは様々な植物からいろんな色を再現できるのが特徴で、草木染めとは思えないほど発色も鮮やか。他企業では断られることが多々あるという噂を聞いていましたが、上野さんと一緒に伺って思いの丈を伝えて、ボタニカルダイを使用できるようになりました。
― こだわりと熱意を感じます。
こだわったものづくりをしたため、少々高めの値段設定になっていますが、トークショーで経緯をお話するとお客様に納得いただけることが多いです。
コラボの秘訣は「連想ゲーム」と「人とのつながり」
― 多くのコラボを生み出されていますが、コラボ成功の秘訣は何でしょうか。
「連想ゲーム」と「人とのつながり」が大切だと考えます。
私は小学生の頃から「これとこれをくっつけたら面白いだろう」ということをよく考えていましたね。好きなミュージシャン同士がコラボしていると、とてもテンションが上がりました。今でもその連想ゲームをしているイメージです。
また、人とのつながりも大切です。仕事でお願いしたいことがあったら、直接会った方が成功確率が上がると思います。それと、少しでも可能性や疑問があれば問い合わせるようにしています。
― 今後、どのようなコラボを仕掛けていきたいですか。
まず、私たちが素材からこだわってものづくりをしていることを知っていただき、そういう本気のものづくりを必要としてくれる企業とつながりたいですね。また、デザイン性と機能性のバランスを考えるようなユニフォームのデザインもしていきたいです。実際に「TuiKauri」として、コンセプトに親和性があることから、コスメブランド「NEMOHAMO(ネモハモ)」のディレクターよりお声がけいただき新店舗オープンに合わせユニフォームデザイン製作をやらせていただきました。そういう親和性があると相乗効果が生まれやすいですよね。
― 実現させたい夢はありますか。
今まで新しいブランド立ち上げやディレクションに携わってきたので、チームでものづくりするようなこと、ブランディングなのかイベントなのか分かりませんが、そういったことはやっていきたいです。
あとは、異業種間でコラボして服以外のものづくり、ユニフォームデザインなど日常に溶け込んでいるものを違う角度から見てプロデュースするような仕事をしてみたいですね。
安藤大春さんによる衣装・グッズ・ユニフォーム等のデザインや、ブランド「Ohal」「TuiKauri」「MONO×MIDDLA」それぞれにご興味のある異業種の企業様とのコラボレーションを考えております。可能性を感じいただける方はこちらからお問い合わせください。
文:吉田櫻子
撮影:船場拓真
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