アダストリア木村治社長(左)とウェルカム横川正紀社長(右)
Image by: FASHIONSNAP
アダストリアが、ウェルカムが手掛けるブランド事業「トゥデイズスペシャル(TODAY'S SPECIAL)」と「ジョージズ(GEORGE'S)」を買収すると発表した。アダストリアは、両事業を取得するためにウェルカムが新設した100%子会社「トゥデイズスペシャル」の全株式を7月1日付で取得。これにより、トゥデイズスペシャルとジョージズはアダストリアグループ傘下となる。買収額は非公表ながら両事業の売上規模は29億円規模だと言われているが、なぜアダストリアは2ブランドを迎え入れる決断をしたのか。
ウェルカムは2000年に創業し、食とデザインを軸に、良質なライフスタイルを提案する事業を展開。現在はトゥデイズスペシャルやジョージズ、売上規模としては社内で最大となる食のセレクトショップ「ディーン アンド デルーカ(DEAN & DELUCA)」、インテリアショップ「シボネ(CIBONE)」、インテリアプロダクトブランド「ヘイ(HAY)」といったブランド事業のほか、おみやげもの屋「トーキョー みっつ(TOKYO!!!)」やホテル「sequence MIYASHITA PARK」の総合プロデュースなどクリエイティブ事業も手掛けている。
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トゥデイズスペシャルは、2012年春に「シボネ(CIBONE)」から派生する形で誕生。「今日を特別にする発見に出会える、ふだんに寄り添えるお店」をテーマに生活道具や食材、衣料品、ヘルスケア、インテリアなどを扱っている。取り扱い商品の特性上、商業施設の一等地でなくとも集客が見込め、賃料を比較的安価に抑えられることなどから「ウェルカムの中で最も収益性が高く、可能性を感じる事業」(ウェルカム横川正紀社長)であるという。ジョージズは、1989年に京都・修学院で創業したインテリアショップ「GEORGE'S FURNITURE」を原点にプロジェクトがスタート。「WELCOME TO OUR HOMESTEAD みんなが集う場所 ようこそ我が家へ」をコンセプトに、心を豊かにするキッチン用品や食品、キッズ雑貨、服、植物、家具などを展開している。
アダストリアが両事業を買収した目的は大きく3つある。1つ目は、同社の雑貨事業においてリーチしきれていなかった領域までマーケットを拡大すること。コロナ禍を経て、日本国内の雑貨市場は約3兆5000億円規模まで成長。同社では「ニコアンド(niko and ...)」や「ラコレ(LAKOLE)」といったブランドで服飾雑貨を展開しており、現在同社の売上の1/4程度を占めるまでになっているが、「ニコアンド」「ラコレ」より高価格帯のマーケットには進出しきれていない。トゥデイズスペシャルを迎えることで、よりハイエンドな雑貨領域まで手を広げることができるようになる。ジョージズは客単価で言えばトゥデイズスペシャルより低いが、アダストリアグループでは提案できていなかったファミリー向け雑貨の分野に訴求することができる。アダストリア木村治社長は「雑貨事業はまだまだ強化していく」と話す。
2つ目は、公式オンラインストア「ドットエスティ(.st)」の強化。ウェルカム横川社長が「限られたリソースの中でリアル店舗に集中して展開してきた」と語る両ブランドのEC化率はともに10%未満。アダストリア木村社長は「ここまでECで展開してこなかった分、伸び代は大きい」と分析する。同氏は2ブランドを取り扱うことでドットエスティの大幅強化に繋がるとみており、事業を移管する7月1日以降、半年以内を目処にEC展開を開始する予定。今後はウェルカムの主力事業 ディーン アンド デルーカのドットエスティ誘致も検討しているという。
3つ目は、木村、横川両社長がポテンシャルを高く評価する2ブランドを更に飛躍させること。「コロナ禍以降、インテリア・雑貨業態は追い風にある」と話すウェルカム横川社長が今回2ブランドの売却を決めたのは「全ての事業を同等に成長させるための社内リソースがない」ため。「2ブランドの魅力をより多くの人に届けるには、アダストリアのリソースを活かした方が良い」と判断し、今回の事業売却に至った。近しい例を挙げると、アダストリアは、2009年にライフスタイルブランド「スタディオクリップ(studio CLIP)」を買収。「当時は36店舗、売上高30億円前後だった」というが、2024年2月期には店舗数179、売上高220億円とアダストリアの中心ブランドまでに成長した。雑貨の生産背景やシステムを共通化するほか、同社の店舗運営のノウハウを活かすことで2ブランドの更なる事業拡大を目指す。
今回の事業買収により、これまでウェルカムで両ブランドの運営に携わってきた社員80人がアダストリアに移籍。ウェルカム横川社長はこれまでブランドを手掛けてきた立場から適宜アドバイスを送るなど、アダストリア顧問としてグループに加わることも視野に関わりを続けていく。「ライフスタイルの重要性が高まっている」(アダストリア木村社長)といった状況の中で新たな2ブランドをグループに迎え入れ、アダストリアの成長は続く。
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