


サステナビリティを事業戦略に組み込む動きは、今や世界の大企業にとって不可欠なものとなっている。ファッション業界でもその動きは加速し、COACHでは新たなブランド「Coachtopia」がその最前線に立つ。「Coachtopia」はイノベーションに向かって共創するブランドだ。新しいアイテムやプロセス、アイデアの素早いプロトタイピングによって、ファッション界における循環型エコノミーへの移行を加速させたい。そんなミッションとともに出発したという。廃材で製品をつくりだす「アップクラフト」や、ひとつの素材のみでつくられた「ループ」など、循環型の仕組みを探る具体的な挑戦が続いている。そんなサステナビリティ戦略の最前線を担うCOACHのサステナビリティ ディレクターのキム・マツォカスさんにインタビュー。「Coachtopia」の誕生秘話から、循環型への挑戦、そしてZ世代の声をきく「ベータコミュニティ」を大切にする真意を聞いた。
Coachtopia「循環型プロジェクト」誕生秘話
─ まずは、これまでのキャリアと、COACHでの役割について教えてください。
私は約20年にわたって企業のサステナビリティに携わってきました。社会人としてのキャリアの始まりは2000年代初め。工場の廃棄物削減の支援からでした。そして2012年からファッション業界に移り、サステナビリティを軸に、どんな価値を生み出せるかを考えながら活動してきました。COACHには2021年にジョインし、循環型プログラムを立ち上げに加わることになったのです。
COACHでは、新たなブランド「Coachtopia」にも関わりながら、ブランド全体の方向性を具体的なプロジェクトに落とし込む役割を担っています。
─ Coachtopiaは、どのようにして始まったのでしょうか。
最初は、本当に何も決まっていない状態でした。名前もないし、仕組みだってありません。ただ、廃棄物を減らすというアイデアから出発し、それが「循環型の仕組みをブランドとしてどう確立するか」という問いへと発展していったのです。会議室に集まって、ゼロから議論を重ねていったのを覚えています。
そして何より、Coachtopiaは、まさにパーフェクトストーム(複数の問題によって引き起こされる最悪の状況を指す)の中で誕生したものでした。いろいろな悪条件が一気に重なったのです。例えばコロナ禍によって、出荷できなくなった商品や返品された製品が倉庫に積み上がり、「これらをどう活かすべきか」という課題が一気に可視化されました。
また世界全体でも、サステナビリティはもはや大企業の戦略に欠かせないものと見なされるようになっていて、ファッション業界も例外ではありません。
加えて、消費者からももっと環境に配慮した商品を求める声が高まり、さらには社内のメンバーからも循環型についての興味や関心の声が増えていました。そうした背景が重なり、Coachtopiaの循環型プロジェクトが本格的に動き出したのです。

長年にわたり企業のサステイナビリティプロジェクトに携わってきたキムさん。COACHではゼロからプロジェクトの立ち上げを行ってきたと語る
“修理を前提にしたデザイン”が大きなカギに
─ 循環型とはそもそもどういう考え方なのか、簡単に教えてください。
循環型経済は、資源を使い捨てるのではなく、再利用や再生を繰り返して活かす仕組みのことです。従来のファッション業界は、地球の資源を採掘し、製品を大量生産しては廃棄するリニア型の仕組みで成り立ってきました。しかし、Coachtopiaでは、その当たり前を変え、廃棄物さえも資源に変えられるという新しい仕組みを目指しています。
そこで出た考えのひとつが、“修理されることを前提にしたデザイン”ですね。例えば、修理の依頼で一番多いのは金具の部分です。だからこそ「金具を取り外し可能にすれば、修理が格段に簡単で速くなる」と考え、最初からそういう仕様にすることを決めました。
別のアイデアとしては、素材をなるべく一種類にするという考え方です。素材が複雑に混ざっているとリサイクルがとても難しくなりますが、一種類の素材だけで作ると、分別の技術もいらず、そのまま新しい繊維に生まれ変わらせることができます。
つまり、製品が最終的に修理工房に戻ることを想定して、最初の設計段階から作るという視点です。これがCoachtopiaの循環型の挑戦を支える大きなカギになりました。
─ 実際に、Coachtopiaではどのような形で循環型を具体化しているのですか。
循環型経済の考え方をベースに、2つの大きな柱で取り組んでいます。ひとつは「アップクラフト」と呼ばれる、廃材から新しい商品を生み出す試みです。工場で出るレザーのはぎれや不要になった素材を集め、デザイナーが新しいバッグや小物に生まれ変わらせています。もうひとつは、単一素材で作られた「ループ」という仕組みです。すべて同じ素材で作ることで、リサイクルの工程を簡単にし、より効率的に循環を実現できるようにしています。
─ 実際に取り組む中で、大変だったことは何ですか。
たくさんあります。例えば「ループ」の場合は、素材を一種類に限定することで、強度やデザイン性をどう維持するかが大きな課題でした。お客様が求める耐久性や機能性を損なわないよう、何度も試行錯誤を重ねました。
「アップクラフト」でも、多くの困難がありました。工場に「廃棄物を捨てずに取っておいてほしい」と頼む必要があったのですが、最初はなかなか理解してもらえなかったのです。通常は廃棄されるものですから、そもそも保管スペースがないとか、「なんでそんなことをするの?」という反応も多かったです。しかも、廃棄物は色や素材ごとに異なり、保管のルールを工場内で変えてもらわなければいけません。そのために何度も工場を訪ねて説明し、理解を得るまでに時間がかかりました。結果として、工場のスタッフも一緒に取り組んでくれるようになり、やっと新しい循環型の仕組みが動き出せたと思います。

「アップクラフト」で作られた商品オルター/エゴ ショルダー バッグ

「ループ」で作られた商品ループ トート
Z世代の声を反映した商品づくり
─ Coachtopiaは「ベータコミュニティ」を立ち上げ、世界中から約200名のZ世代の声を積極的に取り入れていると聞きました。
「ベータコミュニティ」を通じて、彼らと直接対話しながら、一緒にプロジェクトをつくり上げています。製品の開発からブランドの方向性まで、お客様の声を積極的に取り入れることが、何より大切だと考えています。
なぜなら、サステナビリティの取り組みにおいて、一方的に価値観を押し付けられるよりも、「自分たちもプロジェクトに関わっている」「共創している」という感覚に、大きな価値を見出しているからです。ただ与えられるのではなく、一緒に考え、一緒につくり上げること。それが、特別な意味を持つのです。だからこそ、Coachtopiaでも最初の段階から、ネーミングやロゴ、商品デザイン、マーケティングまで、あらゆる面でみなさまの声を反映させてきました。
こうした取り組みは、単なるマーケティング戦略ではありません。若い世代の多くは、ブランドの言うことをそのまま信じるわけではなく、本当に共感できるかどうかを見極めようとしています。だからこそ、「自分たちもこのブランドの一部である」と感じてもらえるよう、共につくり上げるプロセスにこだわっています。彼らと一緒に考え、取り組むことで初めて、深い信頼関係が生まれるのだと思います。
─ コミュニティメンバーの反応で、特に印象に残っていることはありますか。
実は、日本のベータコミュニティの熱心さが印象に残っています。質問の質が非常に高く、「自分たちが本当に信頼できるブランドとは何か」を真剣に考えているのが伝わってきます。日本の参加者の深い視点にはいつも驚かされます。
─ サステナビリティに興味を持つ人は増えていますが、一方でウルトラファッションのように、ファッションを気軽に楽しみたいという気持ちもあると思います。
私たちは、「環境に配慮したい」という思いと「おしゃれを楽しみたい」という気持ち、どちらかを諦めるのではなく、両方を選べる仕組みをつくることが大切だと考えています。ファッションは自己表現のひとつですし、楽しむことを否定したくはありません。だからこそ、環境に優しい選択肢を増やし、「好きなファッションを楽しむ中で、自然とサステナブルな行動につながる仕組み」をつくることを目指しています。そうすることで、最終的にはサステナブルな選択をしてもらえると信じています。

「ベータコミュニティ」には、業界で活躍するZ世代のメンバーが参画している
ファッション業界全体を変えていくきっかけに
─ Coachtopiaの取り組みは、タペストリーやCOACH全体にどんな影響を与えているのでしょうか。
タペストリーとしてもサステナビリティへの取り組みはもちろん進めていますが、Coachtopiaがあることで、循環型という考え方をさらに前進させる推進力になっています。Coachtopiaは新しい仕組みを小さく実験できる場でもあります。そこで得た学びやノウハウは、最終的にCOACHやタペストリー全体に波及し、サステナビリティ戦略に深く根付いていくでしょう。
─ Coachtopiaを通して、これからのビジョンをどう描いていますか。
Coachtopiaの取り組みをきっかけに、ファッション業界全体の価値観を変えていけると信じています。ファッションは、人々に喜びをもたらすものですが、同時に環境に大きな負担をかけているのも事実です。だからこそ、循環型の仕組みを業界全体で共有することが大切です。
もちろん、この道のりは簡単ではありません。ですが、挑戦を積み重ねることで、環境に配慮した新しい価値を生み出し続ける世界が見えてくるはずです。20年後に振り返ったとき、「Coachtopiaの挑戦があったからこそだね」と言われるように、これからも挑戦を続けていきたいと思います。
キム・マツォカスさん/COACH サステナビリティ・ディレクター
カリフォルニア大学で環境科学・マネジメントの修士号、ボストン大学で生物学・スペイン語文学の学士号を取得。これまで、「Vans」や「Interface」で、サステナビリティ戦略の立案・実行、ブランドポジショニング、サステナブル製品やコミュニケーションに関するリーダーシップを担う。現在は「COACH」のサステナビリティ・ディレクターとして、循環型ビジネスモデルの拡大や、ライフサイクルアセスメントを通じたカーボンインパクトの測定、カーボン削減目標に向けた取り組みに注力。コロンビア大学のサステナビリティ・マネジメントプログラムにおいて、ライフサイクルアセスメントの講師も務める。サステナビリティ分野において20年の経験を持つプロフェッショナル。
文:金井みほ
撮影:船場拓真
最終更新日:
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