

新しい解釈で表現する"ゴスカルチャー"
「スーパーマーケットがゴスになったみたいなノリを出したかった。」(Ido Kyo)
原宿のはずれに突如出現した GOTH MALL(ゴスモール)。ミュージシャンやDJとしても活動する若い世代のクリエイターたちが立ち上げたポップアップイベントだ。
グラフィックデザイナーでDJのOmega(オメガ)、ラッパーの Ido Kyo(イドキョー)、バンドAcrosome(アクロサム)の Yusuke Takamoto と Hirotaka Kuwayama、Sorry No Camisole(ソーリー ノー キャミソール)のquietgrrrl(クワイエットガール)、モデルのセレーナ美花──もともと友人関係にあった6人が中心となり、それぞれがオンラインで展開しているセレクトアイテムを一堂に集めた。テーマは“ゴス”。
そもそもゴスとは、1980年代のイギリスで誕生したと言われており、黒を基調にした退廃的なファッションや暗く幻想的な音楽を好み、孤独や死の中にも美しさを見出す世界観を特徴とするサブカルチャーを指す。しかし今、Y2Kやサイバー、ロリータといった要素を取り込みながら、ゴスはより軽やかで多様な姿へと変化している。
会場には、映画のワンシーンのような、ゴスで、パンクで、キュートな空気が漂っていた。

「僕みたいにがっつりゴスじゃない人もいれば、思いっきりゴスの人もいるけど、みんな“それぞれのゴス”を通ってきてる感じがしました」(Omega)。
「特にリーダーがいるとかではなくて、みんながメイン。アイディアを出し合って、得意なところを担当してもらって、補い合って作りあげています。」(Ido Kyo)
それぞれの感覚で咀嚼した“ゴスカルチャー”への愛をアイテムに落とし込んだ今回のイベント。
Omega が手がける AS(アズ) では、 Tシャツやフーディ、パッチにパンクスの精神を感じさせるグラフィックをプリント。一方 Ido Kyo の GOTH CLUB(ゴスクラブ) は、レザーチョーカーやチェーンアクセサリーなど、ポップで遊び心あるゴスアイテムを展開する。
その隣には、学芸大学前の古物店 SHIBERIA(シベリア) のYusuke Takamotoがセレクトするロマンティックなヴィンテージ雑貨や、quietgrrrl のブランド Quiet(クワイエット)によるかわいらしくもフェティッシュで棘のあるイラストが目を惹く古着リメイクが並ぶ。
さらにHirotaka KuwayamaによるOnyxx(オニキス) はサイバーゴスと Y2Kトレンドを融合させた古着をセレクトしクールなゴススタイルを提案、対照的にセレーナ美花のSUGAR HIGH(シュガーハイ)はキュートなパステル調でありながらゴスパンクを感じさせるセレクトを展開。それぞれの対比が、空間全体のバランスを軽やかに、ゴスの感覚をアップデートしていた。

奥のラックにはquietgrrrlのイラスト入り古着リメイク、Ido Kyoの古着セレクトコーナー、Onyxxの商品が並ぶ。

世界中から集められたロマンティックなSHIBERIAの雑貨。
Y2Kブームとともに浮上する“モールゴス”
Y2Kトレンドが再燃する今、新たなマイクロトレンドとして注目されているのが “モールゴス”。この言葉のルーツを辿るには、アメリカの音楽とショッピングモール文化を思い出す必要がある。
1990年初頭、バンドTシャツやロック系アイテムを扱う小売チェーン HOT TOPIC(ホットトピック) が全米のショッピングモールに登場。大衆的なショッピングモールの中で、アウトサイダーな若者たちが自分の居場所を見つける場所として人気を集めた。90年代にはグランジやオルタナティブロック、2000年代にはエモやゴスが一気にメインストリーム化したのに伴い、HOT TOPICは全米〜カナダへと出店を加速。都会から離れた地方のショッピングモールでもこういった音楽系カルチャーアイテムの入手を可能にしたHOT TOPICは若者たちのオアシスとなり、また象徴となった。こうしてゴスカルチャーがアメリカのショッピングモール文化に結びつきメインストリーム化したものを”モールゴス”と呼ぶようになった。
「Ido Kyoから送られてきたリストの中でいちばん目を惹いたのが『ゴスモール』でした。パッと聞いただけでどんなイベントか想像できるし、響きもかっこよさとダサさが同居していて絶妙なバランス感だなって。ダサいって思ってても振り切ってやるとそれがカッコいいに昇華されることもあるし。肩に力が入りすぎてる方が逆に格好悪いみたいな感覚がありますね。最近のゴスってどうなんだろうって調べてたらモールゴスっていうスタイルがあるって知って凄く今のムードを感じました。好きなものと楽な服装全部盛り的な、気張ってない感じがしますね。ゴスだから尖るところは尖るけどでも、モールに行く格好だから楽、みたいな相反するミックス感がいい。」(Omega)

SUGAR HIGHによるキュートでカラフルなゴスパンクな古着セレクト。

quietgrrrlは自身のイラストをまとめたZINEも販売していた。
V系カルチャーの存在と日本における“ゴス”の大衆化
アメリカでHOT TOPICを介してゴスファッションがマス化した一方で、日本におけるゴスカルチャーの大衆化を語るとき、ヴィジュアル系(V系) の存在を抜きにすることはできない。今回もゴスカルチャーへの入り口としてV系をあげる来場者もいた。
1980〜90年代、V系と呼ばれるBUCK-TICK(バクチク)、MALICE MIZER(マリスミゼル)、LUNA SEA(ルナシー) 、L’Arc ~en~Ciel(ラルクアンシエル)といったハードロックやゴシックロックの要素を取り入れたバンドたちが生み出したのは、退廃と耽美、そしてジェンダーレスな美学を融合させた独自の“日本的ゴス”。彼らの爆発的人気によりゴス的ファッションや感覚が世間に知れ渡ったとも言えるだろう。
特に、MALICE MIZER の Mana が提唱した少女的=ロリータと貴族的=アリストクラットをミックスしたスタイルは、後の「ゴシック&ロリータ(ゴスロリ)」文化へと波及し、原宿という街そのもののイメージを変えていった。

インスタの広告を見て名古屋から来たという2人。「このあとV系バンドkein(カイン)のライブを観に、高円寺へ向かいます。」(写真右)

GOTH CLUBのチェーンアクセサリーとASのオリジナルパッチ。
GOTH MALLが照らす、ゴスの現在地
しかし、今回の GOTH MALL はそういったアメリカ発の“モールゴス”や”日本的ゴス文化”とは少し違う。彼らが目指すのは、単なるリバイバルではなく、ゴスの精神を現代的に再解釈する場所だ。
「The Smashing Pumpkins(スマッシング パンプキンズ) のビリー・コーガンのインタビューに衝撃を受けたんです。『セックスに最適な曲は?』と聞かれて、『ゴスの世界ではセックスはしない。ただ黒い窓から黒い太陽を見つめているだけだ。』と答えていて。フレーズとしてもすごく格好いい。今回集まったメンバーは、まさにそういった“美学”をそれぞれの形で表現している気がします。それに、6人中4人が男性ですが、みんなフェミニズム的な考えを持っている。服の着方も、世界観も、性別にとらわれないという共通点があるんです。」(Omega)
「古典的でクラシックなゴスよりはユースカルチャーとの結びつきがあるゴスがいいですね。こてこてはしんどいから。渋すぎないっていうかアップデートされたゴスみたいなスタイルが好きです。ポップで突き抜けてる感じでいたい。」(Ido Kyo)
それぞれの感覚やムードの中に存在する“ゴス”。解釈や表現は違っても、その根底に流れるのは「自分の内側を見つめる」姿勢だろう。かつてのように反骨や退廃だけを叫ぶのではなく、自分の美意識を肯定するためのカルチャーとして、ゴスは今、再び息づいている。
「イベントに来てくれた人にスナップをお願いすると、喜んでくれることが多いんです。今後は2〜3ヶ月に1回のペースで定期化したいし、これからもお洒落して行こうという場になると嬉しいです。最終的には“本物のモール”でやりたい。本当に“ゴスがモールに来る”現象を、自分たちの手で作りたいんです。もちろんゴスだけのためじゃなく、いろんな人に来てほしい。人と人とが繋がる場所にできたらいいなって思います。」(Omega)
黒をまとうことが、単なる悲しみの表現ではなく「自分らしさの証」に変化を遂げている時代。DIYで服をカスタムしたり、小さなブランドやクリエイター同士が繋がったりと、ゴスは今「共創」へと進化している。GOTH MALL は、その感性を映す鏡のように、新しい世代の“ゴス”を、そして新しいコミュニティを広げていくかもしれない。

GOTH MALLを立ち上げたチーム。左から順にセレーナ美花、quietgrrrl、Omega、Yusuke Takamoto、Ido Kyo、Hirotaka Kuwayama。
【取材・文・撮影:須賀麻結・中矢あゆみ(『ACROSS』編集室)】
最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【ACROSS】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

1万円未満のダウン入りアウターが国内市場からほぼ消滅 中綿入りアウターが台頭











