T.T × アルパ、香り・空間・儀礼・感覚を横断する複合的な展覧会を京都・両足院で開催
香水・お香「SENKO NO KU」発売を記念

(左)「VACIO Senko no Ku」の会場に佇むバーナべ・フィリオン、(右)インスタレーション「月面の光」
Image by: Daisuke Shima

(左)「VACIO Senko no Ku」の会場に佇むバーナべ・フィリオン、(右)インスタレーション「月面の光」
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(左)「VACIO Senko no Ku」の会場に佇むバーナべ・フィリオン、(右)インスタレーション「月面の光」
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「T.T」が、フランスのフレグランスブランド「アルパ(Arpa)」とコラボレーションした香水と、両足院を加えた三者協業のお香「SENKO NO KU(閃光の空)」を4月2日に発売した。同コラボを記念して、京都・両足院で香り・空間・儀礼・身体・感覚を横断する複合的な展覧会「VACIO Senko no Ku」がスタート。会期は4月17日まで。また、京都・祇園の総合芸術空間「T.T」では、同展に呼応したインスタレーション「月面の光(こう)」を4月19日まで展開している。
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アルパは、2020年に調香師のバーナベ・フィリオン(Barnabé Fillion)によって設立された、知覚を探求するラボラトリー。写真、デザイン、植物学の背景をもつ同氏は、香水作りを「視覚・触覚・聴覚の体験を融合させた共感覚的な芸術」として捉え、伝統的な香水作りの枠を超えた活動を行っている。日本には、昨年12月に行われた総合芸術空間「T.T」の4周年記念イベントの際に初上陸。現在は、京都・西陣の古い町屋にもスタジオを構えている。

展覧会に合わせて来日したバーナべ・フィリオン
Image by: Daisuke Shima
同展の会場である両足院は、1358年に創建された臨済宗建仁寺派の寺院。江戸時代にかけては長谷川等伯や伊藤若冲といった絵師が出入りする文化交流のサロン的な役割を担っていたほか、近年では同院から着想を得て制作を行った国内外の現代美術家による展覧会を多く開催するなど、芸術・文化的にも豊かな歴史をもつ。さらに、T.Tの創業デザイナーであり現代美術家の髙橋大雅は、両足院の伊藤東凌 副住職と生前親交があり、髙橋の遺作となった初個展「不在のなかの存在」の舞台にもなった、ブランドにとってゆかりの深い場所でもある。またバーナべ自身も、以前瞑想のために両足院を訪れたことがあるという。
失われた記憶や感覚を喚起する 展覧会「VACIO Senko no Ku」
「VACIO Senko no Ku」は、アルパ、T.T、両足院の三者による共同プロジェクトの一環として企画された、香り・空間・儀礼・身体・感覚を横断する複合的な展覧会。香りという不可視のメディアを通して記憶を喚起しようとするアルパの試みと、「過去のものを甦らせることで、未来の考古物を発掘する」をコンセプトに、時間を生き延びた布地や縫製、ディテールを考古学的に研究し、新たな解釈を重ねて現代に甦らせる服作りを行ってきたT.T。その両者が「時間」を共通のテーマに重ねてきた探求や対話、香水とお香の共同制作を通じて生み出された空間を展開している。

Image by: Daisuke Shima
展覧会タイトル「VACIO」は、スペイン語で「余白」や「空所」を意味する言葉。単なる「空虚」や「無」ではなく、あらゆるものへと分化しうる可能性を内包した未分化の状態を指す。バーナべは、展示空間を幾層にも重なった経験が痕跡を残し、「消去された記憶のアーカイヴ」を形成する感覚の場として構想。たとえ物質が失われつつあるように見えても、それは完全に消滅するわけではなく、不可視の形で空間にアーカイヴされ続けており、その不可視の記憶を「香り」という知覚の“引き金”を通じて再び立ち現れさせることを目指している。

Image by: Daisuke Shima
これは、T.Tが掲げる「応用考古学(Applied Archaeology)」、すなわち過去を保存・再現することではなく、時間の層に刻み込まれた構造や気配を読み取り、衣服という媒体を通して現在へと呼び戻す実践とも共鳴している。
また副題であり、香水とお香の名でもある「Senko no Ku(閃光の空)」は、月面に時折現れる原因不明の光の現象「閃光(Senko)」と、瞑想における「空(Ku)」を組み合わせた言葉。バーナベは「空」を不在や空虚ではなく“生成の可能性を宿す場”として捉えている。

香水「SENKO NO KU(閃光の空)」
Image by: T.T
共感覚へと誘う5つの作品群
同展を貫く視覚的なテクスチャーは、最も反射率の高い金属であり、星の生成と消滅から着想を得たという「銀(シルバー)」だ。バーナベは「銀は自らの光を持たず、太陽の光を映し出すだけ。空間の異なる位相を示す反射の揺らぎを感じてほしい」と語る。また全体を通して、夜の都市の動きを長時間露光で捉えた写真シリーズ「Fragments of Light(光の断片)」が、銀のプレートや布に姿を変えて偏在し、多様な知覚の変容を促していく。
この物理的な仕掛けの先にあるのが、禅における「魔境」という概念だ。修行の過程で生じる強烈な感覚体験を指すこの状態を、バーナベは「断片的なイメージや音が脳内で結びつき、爆発的に跳躍する豊かな体験」と捉える。香りやイメージ、衣服、光といった無数の要素の断片が交錯する空間で「共感覚」を刺激し、数値化できない身体感覚を取り戻す。それが、両足院の本堂「方丈」から「大書院」へと続く5つの作品群に込められた意図だ。




夜の都市の動きや光を長時間露光で撮影した写真シリーズ「Fragments of Light(光の断片)」
Image by: T.T
◆古代的未来への訪問


Image by: Daisuke Shima
「方丈」の1つ目の部屋では、アルミニウム製のボックスと、「Fragments of Light(光の断片)」のグラフィックプリントを施した銀色の板が設置されている。視点の移動によって変化する反射を観察することで、出現と消失の間にある状態を体感できる。
◆共感覚の瞑想




Image by: Daisuke Shima
2つ目の部屋では、アルミニウム・アクリル・ガラス繊維板を組み合わせた5つの彫刻的インスタレーションを展開。15世紀後半に誕生した日本の伝統文化「香道(こうどう)」の一つである「源氏香*」の図形から5つを参照し、聴覚・嗅覚・触覚・視覚・共感覚という異なる感覚を喚起する作品として表現している。
*源氏香:香道における和歌や古典文学を主題に香りを組む「組香(くみこう)」の主題の一つ。香を聞き分けその同異を判定する遊びであり、源氏香では、結果を表す52通りの図形にそれぞれ「源氏物語」の物語の名が付けられている。
◆記憶のアーカイヴ(実験室)


Image by: Daisuke Shima
3つ目の作品では、バーナべの共感覚的探求の「抽出・分類・検証」というプロセスを可視化。内部照明を備えたアルミニウム製テーブルとアクリルパネル、グラフィックプレートを用い、「見るという行為そのもの」を客観視する視点を提示している。
◆時間の知覚と色の希釈



Image by: Daisuke Shima
アルミニウム製の構造体と6枚の透過性のある布で構成された4つ目の作品は、香料を重ねて香水を形成するプロセスや、香水の香りの構造を物理的に表現。1枚1枚の布には異なるグラフィックがプリントされており、正面から見ると全てが重なり一つの像として見えるほか、今回のために制作した香りを分解した香料をそれぞれ纏っている。
◆消失の観察

Image by: Daisuke Shima
「大書院」では、オーガンジー素材にメタルプリントを施した銀色の布を貼ったパネルが襖のように連続的に配置されている。鑑賞者がその間を移動する際、布の表面は光や鑑賞者の身体の動きに応じて変化するとともに、布には今回のコラボで制作した香りが焚きしめられている。嗅覚を通じて“かつて存在した煙の痕跡”を感じることで、「存在」と「不在」の関係性や立ち現れ方を体感することができる。
また展覧会の会期中、両足院では茶頭・中山福太朗による茶と、京都を拠点に活動する和菓子屋「御菓子丸」が同展のために製作した和菓子による茶席や、点出し茶を振る舞う呈茶席を予約制で実施。敷地内にある2つの茶室「水月亭」「臨池亭」にも、それぞれ「銀の砂景の反映」「星の崩壊に生まれる銀のフレア」と題したインスタレーションが展開されており、茶席・呈茶席の予約者のみが鑑賞することができる。
両足院の“古布”の匂いと記憶を再現、香水とお香
香水とお香は、それぞれ「出現と消滅」をテーマに香りを制作。両足院からメキシコにいたバーナベの元へ届けられた一枚の「古いテキスタイルの端切れ」を出発点に、その布に染み付いた匂いを丁寧に嗅ぎ、“記憶”を解読していったという。
香水「SENKO NO KU」(5万8300円)のトップノートには、嗅覚を目覚めさせるピンクペッパーと、古布を思わせるパウダリーで古びた香りのあるアイリス。香りの中心には神聖な空間を思わせるフランキンセンスと、鉱物的でドライなミルラ、ベースノートには香道やT.Tの建築的要素とも共鳴するシダーウッドやサンダルウッドが重なる。あえて「未完成」の感触を残すことで、まとう人が自分のものにできる余白を生み出している。
ボトルにも「閃光」や「空(くう)」の概念を反映し、透明のガラスの中に銀の閃きを感じるデザインに仕上げている。

香水「SENKO NO KU」
Image by: Daisuke Shima
お香「SENKO NO KU」(6600円)は、アルパとT.T、両足院との対話から誕生。最高級の香木である「伽羅」をベースに、ジャスミンやクミン、ラブダナム、ムスクを重ね、古代的で繊細な香りを表現した。
バーナべは香水とお香について、「ただ肌につけたり香りを楽しんだりするためのものではなく、空(くう)と銀の閃きについて思索するためのものであることを、展覧会やインスタレーションを通じて感じていただけたら」と話した。

お香「SENKO NO KU」
Image by: Daisuke Shima
光の反射と空虚を表現 インスタレーション「月面の光」
祇園の総合芸術空間「T.T」では、両足院での展覧会に呼応するガラスと鏡を用いたインスタレーション「月面の光(こう)」を同時開催。三保谷硝子店が手掛けた、極限まで薄く作られたガラス什器の上に香水とお香が設置されている。光の反射によっては何も見えない中に香りだけが存在し漂う様子は、月面の閃光現象と同様、ただ反射し漂い、消えていくという「空虚」を体現したものとなっている。なお、香水とお香は現在同店で販売している。








Image by: Daisuke Shima
最終更新日:
■展覧会「VACIO Senko no Ku」
会期:2026年4月4日(土)〜 4月17日(金)
会場:両足院
所在地:京都府京都市東山区小松町591
営業時間:13:00〜17:00(最終入場 16:30)
入場料(拝観料):一般 1000円/中高生 500円/小学生以下無料(現金のみ)
両足院・茶席/呈茶席 予約サイト
■インスタレーション「月面の光」
会期:2026年4月2日(木)〜4月19日(日)
会場:総合芸術空間 T.T
所在地:京都市東山区祇園町南側570-120
営業時間:12:00〜19:00
入場料:無料
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