

展覧会「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」が、渋谷ヒカリエ9階のヒカリエホールで開幕した。同展は、日本の女性写真家を特集した書籍「I'm So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now」の刊行に合わせてフランスや各国で開催された展覧会の凱旋記念展として企画。石内都や長島有里枝、野村佐紀子、川内倫子、ヒロミックス、蜷川実花といった日本を代表する30人の女性写真家の作品が集結した。これまで男性中心的かつ男女の二元論で語られることが多かった日本の写真表現を、新たな“まなざし”で捉え直し、拡張していくような展示内容となっている。
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展覧会の起点となっている書籍は2024年に刊行。ブルックリン美術館の写真キュレーターであるポリーヌ・ヴェルマール(Pauline Vermare)と、ニューヨークでアートブックを専門に出版等を行う非営利団体のプリンテッド・マター(Printed Matter)でエグゼクティブディレクターを務めるレスリー・A・マーティン(Lesley A. Martin)が編集を手掛け、1950年代から活躍する日本の女性写真家を特集した。同名の関連展示はフランス・アルル国際写真祭を皮切りに、オランダ・ハーグやフランクフルトなど世界を巡回。日本の写真表現の歴史を新たな視点で見直す取り組みとして評価されている。
待望の日本展のキュレーションは、同書への寄稿および海外展の共同キュレーターである竹内万里子が担当。竹内は開催に際して、「日本の女性写真家が、これほどの規模で紹介されたことはありません。その実現の発端にあるのは、日本において素晴らしい写真家がたくさんいて、その多くが女性でもあるということへの気づきです。とはいえ、作家一人ひとりの思考や写真へのアプローチは異なるもので、“女性”であることはそれぞれの複雑なアイデンティティにおいてはひとつの要素にすぎません。だからこそ、彼らの作家としての独自性、異なる世界観、奥深さに迫りたいと思いました。これほどの作家の方が一堂に集まることも、まさに奇跡です」とコメントした。
日本展では、海外での展覧会に参加した26人に加え、今井壽惠、岩根愛、藤岡亜弥、米田知子を新たに迎えた。ヒカリエホールの空間を生かしたインスタレーションや観客参加型作品、映像プロジェクションなど、既存展から内容の一部を変更・拡張し、日本展限定の作品も展示。会場は4章立てで構成し、記憶や身体、日常、ジェンダーなどさまざまなテーマにおよぶ約200点の作品が一挙に揃う。

Image by: FASHIONSNAP
第1章「『写真』をめぐる冒険―想像力を解き放て!」では、写真そのもの、“見る”行為をめぐる価値観を揺さぶる作品を紹介。フォトグラムやコラージュ、モンタージュ、スライドプロジェクション、インスタレーションといった従来の写真表現に捉われない、作家たちのまなざしに迫る。「LIFE」や「VOGUE」といった雑誌のコラージュにより才能を開花した岡上淑子をはじめ、魚や野菜や衣類を用いたオブジェを撮影する今道子、服飾デザイン業のかたわらで写真を始め、代表作「古着のポートレート」で知られるオノデラユキらの作品が並ぶ。蜷川実花は自身初となる水中撮影のシリーズを展示している。












第1章の展示の様子
Image by: FASHIONSNAP
第2章「『記録と記憶』をめぐる冒険−目に見えないものに向かって」では、カメラが“今・ここ”を記録する媒体であることを起点に、むしろ“不在”や“不可視”を内包するものと捉え、個人の小さな記録の集積によって立ち上がる記憶や気配に接触する作品を展示。同章での注目は、“写真界のノーベル賞”と称される「ハッセルブラッド国際写真賞」をアジア女性として初めて受賞した石内都の作品だ。亡き母の遺品を撮影した「Mother's」や、画家のフリーダ・カーロ(Frida Kahlo)の力強さと痛みが滲み出るような「Frida」など、衣服が人間の痛みや生きた証をいかに物語るかという問いを投げかける作品から、ファッション業界にもファンが多い写真家の一人。今回は、4つのシリーズから選出された14点が、石内本人のレイアウトで展示されている。同章ではそのほか、日本における女性写真家の草分けの一人として知られ、夜の街で働く女性たちを女性写真家の視点で撮影したことが評価された記録写真集「危険な毒花」を出版した常盤とよ子や、志賀理江子、藤岡亜弥などの作品が並ぶ。



第2章の展示の様子
Image by: FASHIONSNAP
第3章「『女性』をめぐる冒険−ジェンダー、身体、セクシュアリティ」は、ジェンダーや身体をめぐる問題をさまざまな角度から探っていく。ジェンダーの規範、美醜の基準、障がいに対するスティグマを問い直す片山真理や、“見られ、消費される”女性の社会的立場を風刺した作品で知られるやなぎみわ、ジェンダーや親密さ、身体の傷つきやすさを鮮烈な作品に落とし込み、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」のカルチュラルプロジェクト「EMBODIED」に日本人で初めて参加した岡部桃などの作品を紹介。活動初期からジェンダーや家族にまつわる社会規範を再考する作品を発表し、1990年代の“ガーリーフォトブーム”に対して毅然とした態度で応答した長島有里枝の立体作品も見どころの一つだ。制作に自身の母とパートナーの母を迎え、母娘の関係性と女性の労働へのまなざしを揺さぶるような作品となっている。






第3章の展示の様子
Image by: FASHIONSNAP
第4章「『日常』をめぐる冒険−見過ごされた風景の中で」は、日常に散りばめられた“冒険”に目を向け、新たな価値を見出す作品が並ぶ。「Purple」などのモード誌、ラグジュアリーブランドのモデルへの起用、映画「ロスト・イン・トランスレーション」への出演など、ファッション・音楽・カルチャーといった幅広いジャンルで活躍するヒロミックスや、生と死、光と影といった表裏一体のテーマを詩的に浮かび上がらせる川内倫子のほか、潮田登久子や楢橋朝子などの作品を紹介している。


第4章の展示の様子
Image by: FASHIONSNAP
4つの章の後には、1926年から2025年に至るまでの100年間の写真史年表を掲示。「社会」「美術・文化・世相」「写真」の視点から、出展作家たちの動き、日本の女性写真家を取り巻く状況を辿ることができる。また、出展作家の過去のインタビューなどから、写真や表現に対する“まなざし”が滲む言葉を抜粋して紹介している。





日本展の図録(3850円)は特別編集版として刊行。出展作家の紹介や年表、論考のほか、小林エリカ、上白石萌歌、大島育宙らの寄稿、石内都のインタビューを収録している。展覧会グッズからは、「アニエスベー(agnès b.)」、やなぎみわ、Bunkamura ザ・ミュージアムのコラボレーションTシャツ(8800円)が登場。オリジナルグッズとして、トートバッグ(2750円)やロンT(6380円)、A4クリアファイル(550円)もラインナップしている。
なお、展覧会の連動イベントとして、さまざまな作家のクロストークやワークショップを実施するほか、Bunkamuraとme and youの共同企画「わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND」を開催。トークイベントやライブ、フォトブックフェア、ブックサイニングイベントなどを行う。





アニエスべー × やなぎみわ × Bunkamuraザ・ミュージアムのコラボTシャツ(8800円)
Image by: 東急文化村
最終更新日:
◾️まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険
会期:2026年7月4日(土)〜8月26日(水)
会場:渋谷ヒカリエ 9階 ヒカリエホール
開場時間:10:00〜19:00(最終入場は18:30まで)
所在地:東京都渋谷区渋谷2-21−1
出展作家(50音順):石内都、石川真生、今井壽惠、岩根愛、潮田登久子、岡上淑子、岡部桃、オノデラユキ、片山真理、川内倫子、小松浩子、今道子、澤田知子、志賀理江子、杉浦邦恵、多和田有希、常盤とよ子、長島有里枝、楢橋朝子、西村多美子、蜷川実花、野口里佳、野村佐紀子、原美樹子、ヒロミックス、藤岡亜弥、やなぎみわ、山沢栄子、米田知子、渡辺眸、島隆(特別出品)
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