
出光真子《Still Life》1993–2000年 東京都写真美術館蔵/撮影:FASHIONSNAP

出光真子《Still Life》1993–2000年 東京都写真美術館蔵/撮影:FASHIONSNAP
東京都写真美術館で、「出光真子 おんなのさくひん──ある映像作家の自伝」展がスタートした。開催期間は6月18日から9月21日まで。出光は、日本における実験映画およびビデオアートの先駆的な作家であり、「フェミニズム」という言葉が浸透する前から、女性として他者から浴びせられるまなざしを表現。「至極個人的なこと」の記録によって、家父長制やジェンダーロールといった社会にはびこる課題を炙り出してきた。
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父親は出光興産 創業者
出光は1940年、出光興産創業者である出光佐三の四女として生まれる。早稲田大学第一文学部卒業後、ニューヨークに留学。帰国後は執筆活動を行っていたが、再びカリフォルニアに渡米し、美術家のサム・フランシス(Sam Francis)と結婚。母国語と第二外国語の間でフラストレーションを燻らせ、結婚、育児によって与えられた母や妻の役割に耐えかねた出光は、自己を取り戻すプロセスとして1960年代末期から映像作品の制作を始めた。女性や家庭の主婦の視点を映し出す映像表現と、その独創的な手法を含め国内外で評価を高めていき、近年は特にジェンダーや身体をめぐる国際的な議論の高まりの中で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されるなど改めて注目を集めている。
出光は30年以上の制作活動で約50点を制作しており、東京都写真美術館ではそのうち43点を所蔵。今回の展覧会では、所蔵品に出光本人の所蔵品を加え、約45点の作品を紹介している(上映会を含む)。会場では初期のフィルム作品から、ビデオアートの黎明期を担った映像作品、そしてインスタレーションという多様な映像形式を横断的に展示。出光の創作活動の全体像を体系的に捉えながら、自身と他者のまなざしが交錯することで浮かび上がる役割を問い直す契機を与える。
制作初期は子育て期間中と重なっていたが、夫からは「妻と母の仕事が果たせるなら、制作を許す」と言われていたという。そのため制作時間は育児や家事の合間に“細切れ”で存在し、そこで起こる“至極個人的な出来事”が作品のヒントになっている。集中的な撮影が行えない環境から、アーティストのブルース・コナー(Bruce Conner)の実験映画に見られる“映像のコラージュ”に着想し、断片的なカットを多層的に編集する技法にたどり着いた。

出光真子《祖母・母・娘》1976年 作家蔵(展示風景)
他者と自身のまなざしが交差する「マコ・スタイル」
現存する出光の最初期のビデオ作品「Woman's House」(1972年)は、美術家のジュディ・シカゴとミリアム・シャピロや学生たちによって企画されたプロジェクトの「ウーマンハウス」を訪れ、その衝撃的な体験を記録する衝動に駆られて制作。映像編集に約1年をかけ、初の16ミリフィルム作品として完成させた。同展の題名の由来となった、初のビデオ作品「おんなのさくひん」(1973年)では、トイレに浮かぶ使用済みのタンポンを撮影。16mmフィルムで捉えた「At Santa Monica 1」(1973年)では、顔の整形手術を受けた友人の映像に、幾何学的なグラフィックを重ねることで、画一的な美への固定観念を浮き彫りにした。

出光真子《主婦の一日》1977年 東京都写真美術館蔵(展示風景)
カラービデオ作品「主婦の一日」(1977年)には出光本人が出演しており、映像内の別のモニターに自分の目を映し、主婦の日課をこなす出光自身を監視するように見つめる。世間の目によって形成される主婦像を、自身の内なる目によっても内面化されていく様子を描いた作品で、ユング心理学を学び、無意識や深層心理に関心を持っていた出光の視点が盛り込まれている。このように、作品の画面(主画面)内に、さらに別のテレビモニターを置きいて映像を流すというメタ的な表現手法を、「マコ・スタイル」として確立していった。

出光真子《Make Up》1978年 東京都写真美術館蔵(展示風景)
「個人的なことは政治的なこと」
「男尊女卑の姿勢が洋服を着ているような人だった」という父親の元で生まれ育った出光。女性の抑圧、主婦の孤独、母娘の確執といったテーマに取り組み、その実践が近代、フィメール・ゲイズ論の中で再評価を得た理由のひとつだが、本人はそれほどフェミニズム作家であることに自覚的ではないという。当時の女性たちにとって慣習的でありふれた出来事、内面化した精神を表出させることで、社会規範のグロテスクさを露呈させ、「個人的なことは政治的なこと」を図らずも体現してきた。
ビデオ作品「英雄ちゃん、ママよ」(1983年)や「加恵、女の子でしょ!」(1996年)では、メロドラマのように誇張したキャラクターを登場させ、母親による男児の過剰なケア、家族制度による男尊女卑の再生産を表現。こうした内面の叫びを、ユーモアを交えて提示したのも出光の功績だ。



出光真子《英雄ちゃん、ママよ》1983年 東京都写真美術館蔵(展示風景)
また、インスタレーション「直前の過去」(2004年)は、2つのスクリーンに赤ん坊の出光の写真と戦争時のニュースやフィルムの記録写真を重ねて投影。支配的な家父長制が、暴力によって他者をコントロールする戦争の原理につながることを、個人的な記憶と社会的な記録を交差させて描いている。



出光真子《Real? Motherhood》2000年 東京都写真美術館蔵(展示風景)
上映やトークプログラム、シスターとコラボしたグッズ販売も
そのほか、1階ホールでは出光作品40点を9つのプログラムで上映。一部の作品はニュープリントによる16mmフィルム(原版からの焼き増し)での上映を予定している。ゲストトークも企画し、写真評論家で長野県立美術館館長の笠原美智子と、美術批評家の小勝禮子、小説家の柚木麻子と文筆家の伊藤春奈などが登壇する。
展示会グッズでは、シスター(Sister)とのコラボレーションアイテムが登場。トートバッグ(5280円)と、Tシャツ4種類(各6050円)を揃える。同館ミュージアム・ショップ「ナディッフ バイテン(NADiff BAITEN)」のほか、シスターのオンラインショップで取り扱っている。


シスターとのコラボレーショングッズ
Image by: FASHIONSNAP
最終更新日:
■出光真子 おんなのさくひん──ある映像作家の自伝
開催期間:2026年6月18日(木)〜9月21日(月・祝)
会場:東京都写真美術館 2階 展示室
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
入館料:一般 700(560)円/学生 560(440)円/高校生・65歳以上 350(280)円 ※中学生以下および障害者手帳所持者とその介護者(2人まで)は無料/第3水曜日は65歳以上無料/TOPMUSEUM PASSPORT 2026 提示者は無料/8月6日(木)~28日(金)の木・金曜日17:00~21:00 は夜間特別開館による割引料金(学生・高校生は無料、一般・65歳以上は団体料金)
■上映プログラム
上映日:6月18日(木)~6月20日(土)、7月9日(木)~7月12日(日)、8月27日(木)~6月30日(日)、9月17日(木)~9月20日(日)
料金(1プログラム):一般・シニア500円、学生・高校生以下無料
※本展チケット持参の場合、1プログラム 400円で鑑賞可能(1枚につき1回限り)
会場:東京都写真美術館 1階ホール
※上映スケジュールやプログラムの詳細は、決定次第公式ウェブサイトで発表
■ゲストトーク
・6月20日(土) 16:00~:笠原美智子(写真評論家、長野県立美術館館長)× 小勝禮子(美術史、美術批評)
・7月11日(土) 16:00~:斉藤綾子(映画研究者、明治学院大学名誉教授)× 菅野優香(映画研究者、同志社大学大学院教授)
・9月19日(土) 16:00~:柚木麻子(小説家)× 伊藤春奈(編集者・文筆家)
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