トレーダージョーズの新CIOがDX戦略で店舗拡大へ

宅配も店頭受取も行わず、買物代行サービスとも提携しないトレーダージョーズ。それでも新CIOを迎え、2026年には20店超の出店を計画する。顧客には人間味のある売場を提供し、発注・在庫・物流などの舞台裏を「見せないDX」で強くする。

宅配も店頭受取も行わず、買物代行サービスとも提携しないトレーダージョーズ。それでも新CIOを迎え、2026年には20店超の出店を計画する。顧客には人間味のある売場を提供し、発注・在庫・物流などの舞台裏を「見せないDX」で強くする。

宅配も店頭受取も行わず、買物代行サービスとも提携しないトレーダージョーズ。それでも新CIOを迎え、2026年には20店超の出店を計画する。顧客には人間味のある売場を提供し、発注・在庫・物流などの舞台裏を「見せないDX」で強くする。

ネットスーパーを拒むスーパーがCIOを採用
ネットスーパーもカーブサイド・ピックアップも行わず、第三者による買物代行とも提携しないトレーダージョーズが、新たな最高情報責任者を迎えた。
就任したのはプラバシュ・コスワッテ(Prabash Coswatte)氏である。
顧客にデジタル機能を見せないスーパーが、なぜ今、IT部門のトップを必要とするのか。
この人事は、同社がネットスーパーへ転向する兆候というより、独自の店頭体験を守りながら急速な出店を支える「見せないDX」と読むべきである。
ITと店舗運営を知る異色の人材
コスワッテは、ヒスパニック系スーパーを傘下に持つヘリテージ・グローサーズ・グループ(Heritage Grocers Group)で、最高管理責任者を経てCOOを務めた。
店舗運営とITの双方を監督し、傘下のカーデナス・マーケット(Cardenas Markets)ではCIO、以前にはヴァラルタ・スーパーマーケット(Vallarta Supermarkets)でもCIOを経験している。
さらに99センツ・オンリー・ストア(99 Cents Only Stores)では全社改革プログラムを担当した。
パソコンだけを知るIT幹部ではなく、レジ、棚、物流、従業員まで理解する店舗オペレーターなのである。
宅配だけでなく買物代行まで断る
トレーダージョーズは公式に、宅配も店頭受取も提供していないと明記している。
インスタカートをはじめ、第三者の買物代行サービスとも提携しない。理由は、それらが自社の価格価値と店内体験を再現できないからである。
ドアダッシュなどが食品スーパーとの提携を広げる時代に、同社は商品を玄関まで運ぶ利便性より、顧客自身が店へ来ることを選んだ。
ネットスーパーに乗り遅れたのではない。店舗という主戦場を守るため、意図して参戦していないのである。
アプリでは再現できない発見
約4,000SKUに絞った品ぞろえ、頻繁に入れ替わる季節商品、手描きのプライスカード、試食、スタッフとの会話、宝探しのような売場回遊がトレーダージョーズの商品である。
ネット注文では顧客は検索欄へ目的の商品名を入力し、最短距離で決済する。
しかし同社が生み出したいのは、買う予定のなかった冷凍食品や菓子を見つけ、スタッフの勧めで試す偶然だ。フェアレス・フライヤー(Fearless Flyer)も単なるチラシではなく、商品の物語を読ませて来店を促す半世紀以上続くリテールメディアである。
画面上の効率化は、同社にとって売場の発見を失う危険も伴う。
非デジタルとDXは矛盾しない
顧客にアプリを使わせないことと、企業がテクノロジーを使わないことは別である。
レジにセルフチェックアウトを置かなくても、販売予測、店舗発注、倉庫在庫、配送計画、食品安全、労務管理、サイバーセキュリティは高度化できる。
むしろ約4,000SKUという限定商品を高回転させるには、「何を、どの店へ、いつ、何ケース送るか」の精度が生命線となる。
顧客の目に映るアナログな温かさは、裏側のデジタル精度によって守られるのである。
20店超の出店を支える見えない土台
トレーダージョーズは2024年に34店、2025年には43店を開業し、2026年も20店超の出店を計画している。
店舗が増えれば、商圏分析、物件開発、採用、教育、発注、物流ルート、温度管理を同じ品質で再現しなければならない。
限定商品が突然SNSで拡散すれば、店頭では即座に欠品が起きる。
ネット在庫を表示しない企業だからこそ、需要予測を外せば顧客は店舗まで来て初めて商品がないと知る。
ネットスーパーがないからITが不要なのではない。ネットで欠品を知らせられないから、店頭在庫の精度がさらに重要になる。
ウォルマートとは逆方向のDX
ウォルマートはアプリ、即配、スパーキー、会員サービス、セルフレジを通じ、顧客自身をデジタル網へ取り込む。
トレーダージョーズは顧客に会員番号を求めず、購買履歴に基づく個別クーポンも送らない。
ウォルマートのDXが「顧客に使わせる技術」なら、トレーダージョーズのDXは「顧客に意識させない技術」である。
両社は反対に見えるが、目的は同じだ。買物の摩擦を減らし、もう一度利用したくなる体験をつくる。ただし一方は画面で、もう一方は売場で実現する。
新CIOはネットスーパー開始の合図ではない
現時点で、トレーダージョーズはコスワッテの担当範囲や具体的な投資計画を公表していない。
したがって、新CIO就任をネットスーパー参入や会員アプリ導入の予告と断定することはできない。
むしろ店舗運営まで経験した人物を選んだ事実からは、テクノロジーを独立した部署に閉じ込めず、発注、物流、人員配置、出店へ埋め込む意図が読み取れる。
デジタル化するのは顧客との関係ではなく、顧客との関係を支える仕事なのである。
見えないDXほど経営思想が表れる
小売DXは、アプリの機能数や店内ロボットの台数だけでは測れない。
トレーダージョーズが守ろうとしているのは古い店舗ではなく、顧客が店へ来て商品と人に出会う時間だ。
その価値を壊さず、20店超の新店でも同じ体験を再現するために、ITと店舗運営を知るCIOを置いた。
テクノロジーを見せることより、テクノロジーを感じさせずに店を強くするほうが難しい。新CIOに託されたのは、DXを導入する仕事ではなく、トレーダージョーズらしさをDXで消さない仕事である。
本日のレート:1ドル=160円
ドラッカーは「企業の目的は顧客の創造である」と説きました。ウォルマートは、その顧客を店舗の外にも創造しています。
ネットスーパーや即配、スパーキーなどを拡充し、EC売上は全体の4分の1近くに達しています。スマホの中にもう1店のウォルマートを建て、時間のない顧客まで取り込んでいるのです。
一方、トレーダージョーズは宅配も店頭受取も行わず、インスタカートなどの買物代行とも提携しません。来店して新商品を発見し、スタッフと会話する人を顧客として創造するからです。
ウォルマートが「来られない人」まで顧客にするなら、トレーダージョーズは「わざわざ来たい人」を増やしています。
新CIOのプラバシュ・コスワッテ氏は、ネットスーパー開始のためではなく、20店超の出店を発注、在庫、物流、人員配置などの見えないDXで支える人材なのでしょう。
企業の目的はアプリを作ることでも、アナログを守ることでもありません。自社にしか創造できない顧客を増やすことです。
ただ、トレーダージョーズで新商品を見つけすぎると、創造されるのは顧客だけでなく予定外の買物まで増えてしまいます。
最終更新日:
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