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サミュエル・ロスが語るZARAとの協業──「日本文化の影響は計り知れない」

サミュエル・ロス

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サミュエル・ロスが語るZARAとの協業──「日本文化の影響は計り知れない」

サミュエル・ロス

 ファッション、アート、インダストリアルデザインの境界を自在に行き来するサミュエル・ロス(Samuel Ross)。故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の初代アシスタントとしてキャリアをスタートさせ、独立後は自身のブランド「ア コールド ウォール(A-COLD-WALL*)」を年商約2000万ドル(約30億円)規模に成長させた。イギリスの階級社会やカルチャーを手がかりにストリートウェアを再解釈する一方で、アーティストとしても活動。手掛けた作品はメトロポリタン美術館やV&Aミュージアムの永久コレクションに収蔵され、領域を横断しながら高い評価を獲得している。

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 2023年にア コールド ウォールを離れる決断をし、2019年に設立した自身のクリエイティブスタジオ「SR_A」での活動に完全にシフト。これまでに「ウブロ(HUBLOT)」や「ナイキ(NIKE)」とのコラボレーションを重ね、今年は「ザラ(ZARA)」との協業ライン「SR_A engineered by ZARA」を発表。第1弾はヨーロッパ・アメリカ限定での販売だったが、10月23日には第2弾を日本でもローンチ。都市と自然、機能性と美学を融合させたコレクションで、新たな“民主的”デザインの形を示している。

「SR_A engineered by ZARA」シーズン2

Image by: Willy Vandeperre

 ロンドン郊外を拠点にしつつ、このインタビュー後はベルリン、ニューヨークへ出張を控え、世界中を飛び回る。SR_Aの哲学やザラとの協業、そして今後の展望について聞いた。

ア コールド ウォールからSR_Aへ
―新たな挑戦の始まり

──まずSR_Aについて、教えてください。ア コールド ウォールを離れ、SR_Aにフォーカスした理由は?

 振り返れば、私の人生の根幹にはずっとアートがありました。学生時代の専攻はグラフィックデザインとプロダクトデザインでしたし、キャリアにおいても、ファッションだけでなくデザインやアートを横断する“ハイブリッド”な働き方を自然と続けてきました。

 ア コールド ウォールを離れたのは、パンデミック後に4〜5店舗をオープンし、年商が約2000万ドル(約30億円)規模までブランドが成長したタイミング。そこで次のステップを見据え、本当にフォーカスしたいことを明確にしました。一つは、素材のクオリティを深く追求するアートとクラフト。作品を通して知的で学術的なストーリーを語りたいと考えました。もう一つは民主的で、幅広い人々の手に届くプロダクトを手掛けるということです。

2025年1月24日〜7月6日に、ジョージア州サバンナのSCAD美術館で開催された個展「サミュエル・ロス:HEAVE」。

──SR_Aの成り立ちは?

 始動したきっかけは、2019年に「ウブロ デザイン プライズ(Hublot Design Prize)」を受賞したことでした。12万スイスフラン(約2340万円)の賞金をいただき、チームを立ち上げるための資金となったんです。これまでにウブロとは4つのトゥールビヨン(機械式時計)をリリースし、フレグランスブランド「アクア・ディ・パルマ(ACQUA DI PARMA)」やオーディオブランド「ビーツ・バイ・ドクタードレ(Beats by Dr. Dre)」とも協業してきました。そしてザラは、SR_Aとして初めて“民主的なポジション”にあるパートナーです。より多くの人々に届く価格帯でプロダクトを展開できることを、とても嬉しく思っています。

ウブロとの協業モデル「ビッグ・バン トゥールビヨン カーボン SR_A by サミュエル・ロス」

──デザインやアート制作にとどまらず、アーティストの支援活動にも取り組まれていますね。現在のクリエイティブの軸はどこにあるのでしょうか?

 SR_Aという名前は「Studio Research and Atelier」の略です。私個人としてはアーティストとしても活動しており、ギャラリーでの展示や、ブラック・ブリティッシュ・アーティスト助成金(Black British Artists Grants Programme)を通じた慈善活動にも取り組んでいます。このプログラムでは、私のルーツであるアフリカ系コミュニティに加え、ビジネスパートナーでありSR_AのCEOであるイ・ン(Yi Ng)がシンガポール出身という縁から、アジア系ルーツのアーティストコミュニティへの支援も行っています。

 特に現在は、SR_Aが目に見えて動き出しているフェーズです。11月には初のオンラインストアをオープンし、さらにニューヨークでのポップアップも控えています。非常にワクワクするタイミングを迎えています。

ザラとの協働で見えた
“エンジニアード”というアプローチ

──ザラとの協業ではライン名で「SR_A engineered by ZARA」と、「エンジニアード(設計された)」と表現している意図とは?

 「エンジニアード」とは、構造や設計を意味しているほか、今回の協業が従来のコラボレーションよりも一段進んだ関係にあることを示す意図もあります。このラインでは、ザラの強力なサプライチェーンを活かし、日本製のセルビッジデニムやイタリア、韓国の高品質ナイロンを、手の届きやすい価格帯(2990円〜3万9990円)で提供できるのが特徴です。私たちが服を“デザインオブジェクト”として捉える姿勢を、ザラもしっかりと理解していると感じます。

──シーズン1(日本未発売)を経て、今回のシーズン2の制作で変化を感じた点は?

 シーズン2では、素材のコントラストや形状、フォルムが格段に豊かで深みを増しました。非対称のデザインを強調し、色使いも増やしています。キャンペーンヴィジュアルでは、「プラダ(PRADA)」や「ディオール(DIOR)」の広告でも知られる写真家のウィリー・ヴァンダーピエール(Willy Vanderperre)ら業界のレジェンドに依頼しました。また、モデルの年齢層を広げ、年配のモデルも起用することで、よりリアリティのある表現ができたと感じています。

──今回のコレクションの「冒険者の原型」というコンセプトについて教えてください。

 今の私自身がまさにそうですが、密集した都市と豊かな自然に囲まれた田舎という、まったく異なる2つの環境を行き来する生活は、現代人がいかに近代を生き抜いているかを象徴していると思います。そこで、どちらの環境にも対応でき、見た目も感覚も洗練された“ユニフォームのようなシステム”を作りたいと考えました。

 田舎にいるときには自由や静けさを感じる一方で、自然との接触には粗野な荒々しさもあります。その美しさを特にカラーパレットを通じて表現しました。特に個人的にも魅力を感じるミリタリーウェアやアメリカのヴィンテージもヒントにしています。

待望の日本でのローンチと
日本文化へのリスペクト

──今回のシーズン2は、日本での初展開となりましたね。

 本当に嬉しいことです。ア コールド ウォールを売却して以来、日本のお客さまに再び自分のデザインを届けられる日をずっと待っていました。そして、今がその“適切なタイミング”だと感じています。価格と品質のバランスがとれ、新しい視点を示すため準備が整ったので。

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──今回のコレクションには、着物にインスピレーションを得た「NIWAジャケット」や、日本の植物タンニンなめし革を使用したアイテムがありますね。

 日本の文化が私のキャリアに与えた影響は計り知れません。歴史的にも現代的にも、常にインスピレーションを受けています。クオリティへのこだわり、クラフトマンシップへの姿勢、素材の扱い方……何度訪れても学ぶことばかりです。実は今、日本で物件を探しているほどで(笑)。アートやデザイン、ファッションを通じて、日本で長期的に過ごす方法を真剣に考えています。

 今日私が着ている再構築的な「NIWAキモノパーカ」はもちろん日本文化に影響を受けながらも、これまでにヴィンテージを集めてきた経験、思い描いてきた世界観を具現化したものです。

──お客さまからの反応はいかがですか?

 昨夜、YouTubeでシーズン2のコレクションについてのレビュー動画を見ていたのですが、日本に住む男性による投稿がありました。彼はSR_Aのウェブサイトもチェックしていて、「ZARAでも、SR_Aアトリエラインのような世界観をしっかり感じられる」と話していたんです。

 こうした反応から、SR_Aのエフォートレスでシックなイメージをきちんと届けられたと実感しています。「ラルフ ローレン(Ralph Lauren)」や「ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)」と一緒のラックに並んでも見劣りしないと思いますし、テーラリング、スポーツウェア、ヴィンテージ、レジャーウェアが融合した新しい魅力を表現できたのではないかと感じています。

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──今回のコレクションの中で、特に思い入れのあるアイテムはありますか?

 ちょうど今、出張のために荷造りをしながらコレクションを改めて見返していましたが、たくさんありますね。そこから1着を選ぶのは悩みますが、個人的には、「テクスチャードボンバージャケット」がお気に入りですかね。生地の落ち感が美しくエレガントなんです。

今後の展望は”メゾンの構築”

──今後、SR_Aとして挑戦したいことはありますか?

 ア コールド ウォールを立ち上げたときと似た状況で、今はSR_Aを英国発のアトリエ・メゾンとして確立するために、自分の時間の全てを注いでいます。SR_Aのアクセサリー、アイウェア、レディ・トゥ・ウェアの制作に集中しており、来週には次のプロジェクトのルックブック撮影も予定しています。また、アーティストとしても少なくとも年に一度は、展覧会や美術館で新作を発表していきたい。まだまだやるべきこと、見せたいものがたくさんあるので、これからも走り続けていきたいですね。

サミュエル・ロス(Samuel Ross)
1991年ロンドン生まれ。現在もロンドンを拠点に活動するデザイナー・アーティスト。故ヴァージル・アブローの初代アシスタントとしてキャリアをスタートし、2015年に自身のブランド「ア コールド ウォール(A-COLD-WALL*)」を設立。ストリートウェアと社会構造を結びつけた独自の視点で注目を集め、2023年にブランドを売却。現在は、2019年に設立したクリエイティブスタジオ「SR_A」を通じて、ファッション、アート、プロダクトデザイン、慈善活動を横断する。作品はメトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、ホワイトキューブ、フリードマン・ベンダなどに収蔵される。2019年にウブロ・デザイン・プライズを受賞し、2024年にはMBE(大英帝国勲章)を授与された。ウブロ、ナイキなどとの協業を通じて、機能性と美学を融合させた“ウェアラブル・オブジェクト”を提案。2025年に「ザラ(ZARA)」との協業ライン「SR_A engineered by ZARA」を発表。

ファッションジャーナリスト

大杉真心

Mami Osugi

文化女子大学(現文化学園大学)でファッションジャーナリズムを専攻、ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学ぶ。「WWD JAPAN」記者として海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当。2019年、フェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家を取材。2021年8月に独立後、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。2022年4月より文化学園大学非常勤講師。

最終更新日:

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