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アダストリアが新体制でマルチブランド戦略加速 中核事業会社 北村嘉輝新社長に求められること

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アダストリアが新体制でマルチブランド戦略加速 中核事業会社 北村嘉輝新社長に求められること

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 アダストリアが、変革期を迎えている。ホールディングス体制への移行に伴い、社名を「アンドエスティHD」に変更。「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」「ニコアンド(niko and ...)」「スタディオクリップ(studio CLIP)」「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」といった主力ブランドに関わるブランドリテール事業を承継する新会社「アダストリア」の社長には、前専務取締役 北村嘉輝氏が就任した。北村氏は、「ラコレ(LAKOLE)」「ベイフロー(BAYFLOW)」といったブランドを立ち上げたほか、海外事業を黒字転換させるなど、旧アダストリア 木村治社長のもとで数々の功績をあげてきたグループのキーマン。新会社の舵取りを任せられた北村社長は、どのようにしてグループを発展させていくのか。「生活そのものがファッション」だと語る新社長は、爽やかな笑顔で答えてくれた。

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アダストリアの新体制
9月1日をもってホールディングス体制に移行。社名を「アダストリア」から「アンドエスティHD」に変更し、新たな子会社「アダストリア」を始動した。アダストリアは、「グローバルワーク」をはじめとする小売事業の全てをアンドエスティHDから承継し、アンドエスティHDはグループ運営のみに注力する。旧アダストリアの木村社長はアンドエスティHDのトップに就任し、新会社 アダストリアの社長に北村氏が就任した。

■北村嘉輝
1976年生まれ。京都府出身。大学卒業後、1999年に新卒でファイブフォックス入社。店舗スタッフ、店長、マネジャーなどを経て、2007年にトリニティアーツ(現アダストリア)の前身であるドロップ入社。2010年にスタディオクリップ事業部長、2012年ニコアンド事業部長、2015年アダストリアホールディングス執行役員営業第2本部長を経て、2018年にはAdastria Asia Co., Ltd.董事となり海外事業を一任される。2019年アダストリア取締役、2021年常務、2024年専務就任。2025年から現職。

ホールディングス体制に移行、北村新社長に求められること

⎯⎯アダストリアの社長に就任。今の率直なお気持ちは?

 アンドエスティHDでは大きくブランドリテール事業、グローバル事業、プラットフォーム事業といった3つの柱を掲げています。その中で現状最も規模が大きいのがブランドリテール事業。アダストリアは一部グローバル事業も手掛けながら、ブランドリテール事業を主に担います。アンドエスティHDの中でも最大の事業体になり、ここの舵取りを任されたということで、プレッシャーは感じています。とはいえ、自分はこれまでもブランド事業の責任者として営業をしてきましたし、やってきたことを進化・発展させていけば自然と結果に繋がるとも思っているのでワクワクが大きいですね。

北村社長

アダストリア 北村嘉輝社長

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⎯⎯北村社長は海外事業の第一人者でもありますよね。

 2019年から上海を拠点に、半分以上向こうで暮らしながら5年ほど海外の全事業を担当していました。特に大きな課題だったのが赤字体質だった海外事業を立て直すこと。特に中国は同じアジアといえど日本とは全くカルチャーが違う上、広いのでエリアごとに客層やライフスタイルが異なり、細かなローカライズが必要でした。なんとか2021年に海外事業全体の黒字化を達成することができたので、自分の仕事は全うできたかなと思っています。

⎯⎯9月からホールディングス体制に移行。体制変更の意図は?

 これまでは旧アダストリアが事業体と組織のトップを兼ねていたので、どうしてもSPA(製造小売業)としてのファッションリテール事業がメインになっていました。しかし、我々が目指すのは「アンドエスティ」というプラットフォームを用いて様々な手法で業界全体にアプローチする「ファッションプラットフォーマー」です。そのためには、リテール事業を中心とした事業体が親会社でいるよりも、ホールディングス体制にして各事業体を統括し、目指す姿に向かう方法を考えた方が効率的だという判断になりました。また、各事業会社がホールディングス(アンドエスティHD)にぶら下がり、それぞれの意思決定のもとビジネスを展開する形にすることでより多くの経営人材を育てることができることや、各事業会社の利益を一度ホールディングスに集約し、必要に応じて再分配するといった投資の効率化も期待できます。

⎯⎯新会社 アダストリアの社長として、ご自身に求められていることは何だと考えていますか?

 先ほどもお話した通り、アダストリアはブランドリテール事業を担う会社なので、新たなブランドをもっともっと増やし、マルチブランド戦略をさらに深く濃いものにしていくことが自分に課せられた役目だと思っています。振り返ると、7年前の「ラコレ(LAKOLE)」を最後にオリジナルブランドを作れていません。M&Aやライセンスといった手法も使いながらブランドを増やし、海外でも通用する事業の柱を育てていきます。

北村社長の手元

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⎯⎯北村社長はこれまでベイフローなども手掛けてきましたよね。ブランドはどのようにして作るんですか?

 僕の場合は、大抵「こういうものがあったらいいな」という、抽象的なところからスタートします。そこから細部を詰めて、輪郭を鮮明にしていくイメージですね。データ分析して作ったものって、案外成功しないんですよ。

 ラコレの場合は、雑貨が主力のライフスタイルブランドを作ろうと思って始めました。当時、ライフスタイルで服と雑貨を扱うブランドと言えば、「無印良品」さんの一強でした。ただ、無印良品さんはナチュラルで素敵なブランドですが、世の中の人全員がナチュラルな暮らしをしているわけではない。そこで「もう少しシックでモダンなブランドがあったらいいな」と思ったのがきっかけです。

⎯⎯日常での気づきを形にしていくんですね。

 構想している時はすごく楽しいです。でも、そこからが大変。実際に物を作り、展示会をして、店舗を開いても、すぐに売れるわけではありません。そこから成長させるのがすごく大変なんです。 

 我々が展開しているブランドの大半は、このようなプロセスを経てオリジナルで一から作ったものです。そういうブランドは会社としても思い入れが強いですし、長く続けていけるのかなと思います。だからこそ、最近作れていなかったことを反省し、これから積極的に増やしていこうと思います。

⎯⎯ブランドリテール事業をまとめる立場として、木村社長の時代から変えようと思っていることはありますか?

 特別意識して変えようと思っていることはありません。どちらかと言うと深掘りしていくイメージです。これまで木村はグループ全体の社長として全体を見ていましたが、僕は100%アダストリアに集中できる。この立場を活かして、これまでやりきれていなかった部分を深掘りしていきます。ブランドは今よりも尖ったものにしていきたいし、海外で通用するブランドも作りたい。そういう意味では、これまでの木村以上に深く切り込めることはたくさんあるかなと思っています。

「変わることは成長すること」アダストリアの強み

⎯⎯新規ブランド創出の一環として、ブランド内に新ラインを作り成長させ、育ったら単一事業としてスピンアウトする「ブランド内ブランド」の取り組みをトライアルで行っていると聞きました。

 数年前から取り組んできたのですが、実は方針転換するつもりです。ブランド内の1カテゴリーとして始めるとある程度までは成長させやすいんですが、親ブランドはその「ブランド内ブランド」を売り上げの一部としてカウントしているので、社内的な事情でスピンアウトさせづらいといった問題点が浮上してきました。今後は、ブランドの中にブランドを作るよりも、最初から完全に独立した新規ブランドの開発に注力します。

北村社長

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⎯⎯「やってみてダメだったらすぐ変えられるのがアダストリアの強みだ」と伺ったことがありますが、今お話しされた新ブランドの件はまさしくその通りですね。

 それが全てと言っても過言ではないです。「朝令暮改」じゃないですけど、やってみてダメだと思ったことを続けていく意味はないと思うんです。目的とゴールがあるわけですから、それに近づくよう臨機応変に対応していくのは当然だと考えています。

⎯⎯とはいえ、アダストリア(アンドエスティHD)の規模でその柔軟性と俊敏性を保ち続けるのは大変なようにも思えますが。

 会社自体が元々紳士服店から始まって、カジュアルチェーン店になり、ストアブランドを作り、SPA体制になり、と変革を続けてきました。だから、変わることに対してネガティブなイメージは全くないんです。みんなが変わることが成長することだと認識している。だからどんな時もクイックに対応できるんだと思います。

⎯⎯2025年2月期の実績をブランド別に見ると、ほとんどのブランドが増収。中でも、先ほど話題にも出たラコレの伸びが際立っています。

 ラコレは元々グローバルで戦えるブランドとして考えてきましたが、事業の新たな主力としてしっかり育ってくれましたね。今年出店した台湾の4店舗もとても好調です。台湾国内では、日本製の食器など「ジャパンクオリティ」のアイテムが手頃な価格で購入できることが高く評価されているようです。

⎯⎯今後もアジアを中心に展開を広げていく?

 そうですね。この次は中国大陸か東南アジアに出店することになると思います。また、実は以前アメリカでテスト的に卸売をしてみたんですが、食器などの雑貨はかなり感触が良かったんです。アイテムカテゴリーを絞り込んで、欧米進出する可能性も十分にありますね。

⎯⎯自身が立ち上げたブランドが海外で好評だというのは、感慨深いものがありそうですね。

 正直めちゃくちゃ嬉しいですよ。でも、まだまだです。今ラコレはようやく年商200億円が見えてきたかなという感じですが、更に大きく成長できると考えています。とはいえ、伸びる時は一気に伸びますから、チャンスのポイントを見極めて、適切に市場にプッシュしていくのが僕たちの仕事だと思っています。

北村社長

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⎯⎯ラコレのほかに、好調なブランドは?

 「レプシィム(LEPSIM)」ですね。2019年に40代女性をターゲットにする方向にリブランディングしてから、前年比2桁増で推移し続けています。現在アダストリアには年商200億を超えるブランドが4つ(グローバルワーク、ニコアンド、スタディオクリップ、ローリーズファーム)ありますが、ここに近々加わるであろうブランドがラコレとレプシィムです。

⎯⎯マルチブランド企業と言っても、大きな柱が複数あると心強いですね。

 小ぶりなブランドばかりだとやはり運営が大変ですからね。ある程度の大きな柱を複数作っておくと、次のブランドを育てる余裕が生まれます。それに50億円のブランドを4つ持つより、200億円のブランドが1つあった方が収益性は圧倒的に高い。マルチブランド企業を謳ってはいますが、事業の核となる人気ブランドを育てていくことは、とても重要なことだと考えています。

2030年までに年商400億円 海外事業の進捗

⎯⎯海外事業全体の進捗を教えてください。

 先ほどラコレのところでも話しましたが、台湾はマルチブランド戦略が上手くいった好例で、非常に好調です。そのモデルケースを今、香港に移植して試しているところで、こちらも成果が出始めています。

 グレーターチャイナで進めているのは、OMOのクロスチャネル戦略です。ECを展開している地域に実店舗を出店することで、そのエリアのEC売上が平均約1.4倍に伸びるといったシナジーを確認しています。コロナ禍で計画より3年ほど遅れてしまいましたが、2026年にはようやく中国大陸単体での黒字化がみえてきました。

北村社長

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⎯⎯ラコレだけでなく、アダストリア全体で見ても台湾は好調なんですね。

 台湾が親日だというベースがある上で、マルチブランドの特性を活かした出店戦略が奏功しています。例えば、ららぽーと様が新しく商業施設をオープンする際、僕たちは「10ブランド出します」とまとめて交渉できる。これは双方にとって効率がいいですし、家賃交渉もしやすくなります。

 個々のブランドで多様なニーズに応えられるのも強みです。「このエリアではグローバルワークは響かないけど、ローリーズファームは売れる」というように、ブランドの選択肢が多い分、取りこぼしが少ない。日本と同じように「and ST TAIWAN」というECプラットフォームを設けて会員数をしっかりと獲得できており、ECとリアルの買い回りが上手く循環し始めています。2024年10月からはショップスタッフのスタイリング発信「スタッフボード」も始めました。

⎯⎯グローバル展開の最終的なゴールはどこに設定していますか?

 中期的な目標で言うと、2030年までに年商400億円を目指しています。本当のグローバル企業になるためには、グループ全体の売上の半分近くは海外で稼がないといけない。2025年2月期の売上高が2931億円なのでまだまだ道のりは遠いですが、ゴールはそこかなと思っています。

家もサウナもファッション、アダストリアの未来予想図

⎯⎯月単位では前年同月割れも見られますが、足元の商況をどのように分析していますか?

 マルチブランドで戦っているので、どうしても調子の良いブランド、悪いブランドが分かれてしまうんですよね。上期はグローバルワークがちょっと落ち込んでしまっているので月単位では前年割れもあったりはするんですが、そのほかのブランドは非常に好調なので悲観はしていないです。ブランドが多い分、不調なブランドを抱えるリスクが高いことがマルチブランド戦略のデメリットだとするなら、メリットは1つのブランドが落ち込んでも他のブランドでカバーでき、全体として大きな落ち込みがないこと。会社全体で支え合っている現状です。とはいえ、売上構成比の20%以上を占める主力ブランドの調子が良くないと全体への影響も大きいので、グローバルワークについてはこうした状況が続くことがないよう一層売れ行きを注視していきます。

⎯⎯現在の国内ファッション業界をどのように見ていますか?

 市場自体は縮小傾向にあり、消費者の購買行動も多様化している。我々も柔軟に変化していかなければと感じています。

シューズ写真


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⎯⎯今はインターネット上ですぐにオンラインショップを開設できる時代。リアル店舗の存在意義に疑問の声もあります。

 これからは逆にリアル店舗の価値が高まっていくと見ています。生成AIの進歩で画像はいくらでも綺麗に作れるようになり、ネット上の情報だけでは本当に良いものかどうかの判断が難しくなってきています。「届いてみたら写真と全然違った」という経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。だからこそ、生で見られる、体験できる、経験できるリアルの価値が高まっていく。僕たちが持つ約1600の店舗と、そこで接客するスタッフが今後ますます強みに変わっていくと信じています。

⎯⎯最後に、新生アダストリアが目指していく企業像を教えてください。

 我々の企業ミッションは「Play fashion!」です。ファッションと聞くと服だけのイメージかもしれませんが、僕たちは生活そのものをファッションと捉えています。ニコアンドがプロデュースする住宅「ニコアンド エディットハウス(niko and ... EDIT HOUSE)」もそうですし、来年水戸でスタートさせる予定のサウナやスポーツ施設も含まれます。服という「モノ」に限定せず、体験という「コト」も売っていく。日常に関わる全てのことをファッション的な視点で解釈して提案できる企業を目指していきます。

村田太一

Taichi Murata

群馬県出身。男子校時代の恩師の影響で大学では教員免許を取得するも、ファッション業界への憧れを捨てきれず上京。某衣料品メーカーを経て、2021年にレコオーランドに入社。主にビジネスとメンズファッションの領域で記事執筆を担当する。「ジョジョ」は人生のバイブル。幼少期、地元の少年野球チームで柄にもなくキャプテンを任せられた経歴を持ち、今もプロ野球やWBCを現地観戦するほどの野球ファン。実家が伊香保温泉の近くという縁から、温泉巡りが趣味。

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