Fashion あがりの服と、あがる服

【コラム連載:あがりの服と、あがる服】シャツの極致 シャルベ / 15歳の僕を変えたマーガレット・ハウエル

 僕ら服好きが最終的に行きつくところって、多分2つある。例えば、オシャレで上質な暮らしを送る(イメージのある)フランス人は10着しか服を持たないと言われるように、ベーシックなトップスやボトムス、アウターなど、数を多く持つのではなく、どこでも戦える究極の一着をワードローブに揃えていく。そんな「あがりの服」の追求も服好きの一つの成れの果てだ。でも、時には誰とも被らないようなエッジの効いた暴れ馬の様な服を乗りこなして、自分を奮い立たせたい。オンリーワンの「あがる服」に焦点を置くことだって、服の究極の楽しみ方の一つだ。けど悲しきかな、どちらかなんて到底選べない――そんな悩める服好き達に「どちらか一方に盲目にならなくたっていい」とせめてもの肯定のために、一流の「あがりの服」と、僕にとっての「あがる服」の両方の魅力を記していきたい。

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 「あがりの服と、あがる服」のトップバッターとして思い至ったのが、「シャツ」だ。

 シャツは、古代ローマのチュニックに歴史を遡る。現在の折り襟の姿になったのは、およそ19世紀ごろらしい。それまではセレブが着るものとされてきたが、襟元のフリルの廃止などにより見た目がシンプルなものに移り変わり、一般階級にも広く普及し戦後はアジアのアメリカ化が進んだことで、日本でも広く受け入れられることになった。

 シャツを身に着けたことがない人は多分、いないだろう。シャツは最も身近な衣服の一つであるが故に、クラシックで上質を極めた場合はまさに青天井だ。一方、その普遍性のおかげで多くのデザイナーたちが再解釈を試み、"クラシックな上質さ"とは別の"こんなモノがあったのか!"という方向でオンリーワンの名作を残してきたこともまた事実だ。そこが広く人々に愛されるシャツの魅力だと思う。

 

世界の大統領が愛したシャルベ

 「あがりの服」でいえば、ここに紹介したいモノは沢山ある。例えばあまりにもベタだけれど、世の中で初めてシャツを作ったといわれる「シャルベ(Charvet)」は、シャツ好きなら一度は夢に見るシロモノ。その上質さだけで「あがりの一着」とするには十分だろう。ストライプの線上に沿いあしらわれたボタンホールの美しい柄合わせや、均一な縫製幅......さすがセレブリティのためのシャツ。職人芸が細部まで落とし込まれている"Classic of Classic"ながら、今ではむしろシャツの王道からは少し外れたディテールであるスクエアカットの裾に気持ちよく切り込まれたスリットなど唯一無二さも備えている。創業以来ビスポークを続け、現代のシャツをシャツたらしめるシャルベを一着仕立てるということは、僕らのワードローブの歴史に大きな自信を与えてくれるはず。「あがりのシャツ」を目指すなら、初代フランス大統領のシャルル・ド・ゴールや、アメリカ大統領ジョン・F・ケネディなどのセレブリティも魅せられたシャルベ以上のものを見つけるのは不可能、そう言っても不思議な顔をされないだろう。

 

15歳の僕を変えたマーガレット・ハウエル

 「あがる服」の定義はきっと人によって様々な形がある。ある人にとってはそこらへんで買える500円くらいのTシャツかもしれないし、またある人には「キャロルクリスチャンポエル(CAROL CHRISTIAN POELL)」の変態的なパターンのシャツかもしれない。他の人や社会通念的な価値観を物差しに"なぜあがるのか"を測れない故に、そのオンリーワンに出会うことは容易くないが、巡り合えた時の喜びはひとしおだ。

 一つの「あがるシャツ」の例として、「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」のシャツが僕にとってのそれだ。

 マーガレット・ハウエルその人は英国人女性でありながら、哲学が息づくのはメンズのシャツ。蚤の市で出会った古着のシャツに感銘を受け、ブランドは産声を上げた。

 僕がハウエルのシャツに出会ったのは服にまだ無頓着な15歳の時。地方から東京の叔母のところに遊びに行った際、姉の付き添いで神南の店に入った。どこのかもわからないギンガムチェックのシャツを着て行ったことをよく覚えている。そこで自分のシャツと同じ柄というだけで手に取ったシャツが、運命だった。ポケットの生地の柄が、身頃の生地の柄と寸分のズレなく縫製され、縫製の白い糸はギンガムチェックの白と黒の境目からほんの少しだけ白側に寄り、目立たないように針が落とされていた。ハウエルのシャツは一着3万円程で15歳には高すぎる買い物だった。それでも、僕とそのシャツとの出会いは、一着のシャツにそれほどの値付けがされる理由を初めて理解した瞬間だった。気付くと当時ハマっていたバンドのグッズをタワレコで買うための3万円は無くなっていた。このシャツをきっかけに僕も晴れて"悩める服好き"の仲間入りを果たした訳だが、あれから何年たってもハウエルのシャツに袖を通すとその心地良さに自然と気分が高揚してしまう。もっと見た目が美しかったり質がいいシャツはこの世にあるが、僕にとってはハウエルが一番の「あがるシャツ」なのだ。全員ではないと思うが、きっと同じ気持ちになれる人は多いと思う。機会があるなら袖を通して欲しい。 

■sushi(Twitter
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。

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