新宿・歌舞伎町の街を舞台にした回遊型の新たなオールナイトアートイベント「BENTEN 2024」が、11月2日、3日、4日の3夜にわたって開催されます。芸術監督を務めるのは、現代社会に介入したメッセージ性の強い作品を世界中で発表し続けながら、長年歌舞伎町でも活動してきたアーティストコレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group」。
17プログラム・延べ65組のアーティストが展示や音楽イベント、演劇、パフォーマンスなどを縦横無尽に繰り広げる同イベントでは、話題のNetflixドラマシリーズ「地面師たち」の監督 大根仁や、テクノユニット「電気グルーヴ」のピエール瀧、小山田圭吾 × 砂原良徳 × 中原昌也が出演する注目コンテンツも用意。溢れんばかりの盛りだくさんなイベントの中から、この記事では歌舞伎町の街に点在する個性豊かでディープな会場の魅力とともに、会期中常設で見られる主要なプログラムにフォーカスしてご紹介します。
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バーや飲食店、ホストクラブなどがひしめき合う東京最大の歓楽街である歌舞伎町は、戦後の復興期から多様性に溢れ、前衛芸術家たちが活動する大衆文化のるつぼとして魅力を持ち続けてきた街。街中のバーや路上では、ゲリラ的に行われた伝説的なアートも数多くあったといいます。今回のイベントでは、そんな歌舞伎町の奥深い歴史を感じる場所から近年登場したアートスペースまで、町内の計13ヶ所が会場に。まずはメイン会場となる「王城ビル」からスタート。
王城ビル
王城ビルは、1964年の竣工以来名曲喫茶やキャバレーなどへと変遷してきた、歌舞伎町の中でも古い歴史のあるビル。歌舞伎町弁財天の隣に位置し、城を模したデザインで親しまれてきました。夜の歌舞伎町の鮮やかなネオンに仄暗く照らされた様子は、さながら“ホーンテッドマンション”のよう。
1F:アー横
ビルの中に足を踏み入れると、そこには昭和の懐かしさを感じるような赤提灯が並ぶ、アンダーグラウンドな光景が広がります。1階では「アー横」と題し、再開発ブームで増え続ける東京の横丁に対するオルタナティブとして、アーティストやアートコミュニティが集まり、22時から朝5時まで飲食やパフォーマンス、物販を“ゆるく”展開する横丁イベントを実施。11月2日には会田誠が重慶の友人からもらった火鍋を日本人向けにマイルドにアレンジした「特製火鍋」を提供するほか、3日には山下陽光が手掛ける「途中でやめる」が、服を通じた金儲けをお題に客のマッチングを図る「即実験ランド」を開店します。ちなみに、緑のネオンに照らされた「アー横」の文字は、会田誠の手によるものだそうです。
1階の奥には、期間中さまざまなアーティストがパフォーマンスやライブを開催するスペースが設けられているほか、Chim↑Pom from Smappa!Groupの「金三昧」が、歌舞伎町最奥地のセレクトショップ「THE FOUR-EYED」とコラボレーションして作った“FAKE商品”の物販コーナーも登場。SNS上で高い人気を集めるアーティスト「ぼく脳」の特製ドリンクや、墨田区の社会実装型アートスペース「京島駅」によるタンドール窯で焼いた「宇宙のパワーナン」、松戸のオフラインサロン・ノーウェアによる「ノイズカレー」と「コンドームおにぎり」などのフードやドリンクも楽しめます。
Image by: FASHIONSNAP
2〜3F:ソロ・エキシビション by チェン・ティエンジュオ
王城ビルの2階と3階では、“Asian Dope Boys”として知られる中国・北京出身のアーティスト チェン・ティエンジュオが、2フロアを使った大規模なインスタレーションを展開。フロア内に設置された複数の大きなスクリーン上では、インドネシア・ラマレラ村の伝統捕鯨から着想を得て、チェンとダンサーのシコ・スティヤントが公演として儀式を行った映像を展示という形で再構成して披露しています。薄暗いフロアに存在感たっぷりに佇む、空間に収まりきらないほど巨大な鯨のオブジェにも注目です。
Image by: FASHIONSNAP
4F:地獄の使者 by 増山士郎、八谷和彦、会田誠、岸本清子
4階では、BENTENがキュレーションした新宿にまつわる4人のアーティストたちによるグループ展「地獄の使者」を開催。展示タイトルは、1983年に参議院選へ立候補した日本の前衛芸術グループ ネオダダ・オルガナイザーズの岸本清子が、人々の苦しみを背負う覚悟を表現すべく「地獄の使者」を自称したことに由来しているそうです。
会場では、当時の岸本による印象的な政見放送演説の音声や、1994年に約84組の若手作家が歌舞伎町をジャックして開催した「新宿少年アート」の記録映像の上映、会田誠による1994年当時のパフォーマンス「St. DNA Church」の再現、2004年に増山士郎が王城ビル横で行き交う人々に自らの姿を覗かせる実験的な作品を設置した「新宿歌舞伎町プロジェクト」の作品などを展示。これまで歌舞伎町の路上でゲリラ的に行われてきたアートや活動の歴史と意味を改めて考えさせられます。
八谷和彦 1994年 新宿少年アート記録映像
Image by: FASHIONSNAP
5F:オメガとアルファのリチュアル by 遠藤麻衣
王城ビル最上階の5階では、アーティストの遠藤麻衣が、2024年に国立西洋美術館で開催された展覧会「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」のために、エドヴァルド・ムンクの「アルファとオメガ」に触発されて制作した映像作品を上映。国立西洋美術館でのヌードパフォーマンスと日本のストリップ劇場の歴史を重ね合わせた内容で、作品では現役ストリッパーの宇佐美なつと遠藤自身が共演しています。
同作品は、西洋美術史と日本の戦後ストリップ文化をフェミニズムの視点から批評し、女性の身体性に焦点を当てたもの。けれども、新宿・帝都座の額縁ショウを起源とする戦後のストリップ文化や、遊郭から広まった歌舞伎など、新宿という場所特有の歴史的文脈を踏まえることで、改めて「芸術」と「芸能」の境界を考えさせられるような内容になっています。
この作品は撮影が一切NGのため、残念ながら写真はなし。ぜひ会場に足を運んで直接作品を楽しんでみてください。
■王城ビル
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1丁目13-2
新宿歌舞伎町能舞台
「入間」「おほやけ」by 渡辺志桜里
ネオンと喧騒ひしめく歌舞伎町のとあるビルの中にひっそりと佇む「新宿歌舞伎町能舞台」は、一歩足を踏み入れると全くの別世界が広がっている場所。伝統的で本格的な能舞台では、渡辺志桜里と安田登、加藤眞悟、ドミニク・チェンによる新作能「射留魔川」が、映像インスタレーションとして上映されています。
Image by: FASHIONSNAP
■新宿歌舞伎町能舞台
所在地:東京都新宿区歌舞伎町2丁目9-18 ライオンズプラザ新宿 2階
デカメロン
プライベート・スーパー・スターリー・ナイト by ゆっきゅん、君島大空、須藤絢乃
グリーンのカラーがトレードマークのアートギャラリー併設ガールズバー「デカメロン」では、誇り高く自分らしく生きること=心の中に眠るDIVAの目覚めを呼びかけるポップアイコン・ゆっきゅんと、性別を超えた変身願望や理想像を写真に収めてきた写真家の須藤絢乃がタッグを組んで制作したヴィジュアルを展示。これまでも度々協働し美意識を共有してきた2人が、ゆっきゅんのシングル「プライベート・スーパースター」で共演した君島大空を招き、矛盾だらけでも互いを尊重し祝福する関係を歌った世界観を表現したヴィジュアルを、印象的な歌詞の言葉とともに披露しています。
展示作品の中で、2人は繊細なディテールが美しい「タナカ ダイスケ(tanakadaisuke)」の淡いピンクと黒の衣装を着用。11月4日の夜18時と20時に王城ビルで実施予定のスペシャルライブでは、実際に同衣装を着てのパフォーマンスを予定しています。予約者優先エリアでの観覧予約は既に満席となっているものの、エリア外からの鑑賞も可能。一夜限りのスペシャルなパフォーマンスは必見です。
Image by: FASHIONSNAP
■デカメロン
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1丁目12-4 2F
東京砂漠・とまり木・さくら通り沿い空き地
「おちる」「いのる」by 岡田裕子
美術家の岡田裕子は、歌舞伎町内にあるアートバー 東京砂漠や、居酒屋 とまり木の店内、さくら通り沿いにある空き地で「おちる」と「いのる」をテーマにしたインスタレーションを展開。作品の一部であるチラシにプリントされたQRコードを読み取ると、岡田がテーマに沿って制作した2種類の音の作品をダウンロードして聴くことができる、声で体験する作品になっています。視覚的には少し不穏なムードを感じる作品ながら、歌舞伎町という街とそこに生きる人たちに向けた岡田の願いや祈りのような思いがこもった声には、その場所を歩きながら聴くことでまた違う風景が見えるような仕掛けが施されているそうです。
さくら通り沿い空き地
Image by: FASHIONSNAP
■東京砂漠
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1丁目3-10
■とまり木
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1丁目12-14
■さくら通り沿い空き地
所在地:東京都新宿区歌舞伎町1丁目11-14付近
WHITEHOUSE
情(なさけ)の広場 by 篠田千明
メイン会場の最後として紹介するのは、Chim↑Pom from Smappa!Groupの卯城竜太とアーティストの涌井智仁、ナオ ナカムラの中村奈央が2021年にスタートしたアートスペース ホワイトハウス(WHITEHOUSE)。同建物は、1957年に建築家の礒崎新が初めて手掛け、1960年代にはネオ・ダダイズム・オルガナイザーズの活動拠点でもあったそうです。
今回の「BENTEN 2024」では、アーティストの篠田千明が「情の広場」という名の休憩所として運営。劇作家 唐十郎の戯曲「百人町」の中に出てくる“情けの汁”という言葉や主人公がラーメン屋の店主であることから着想を得て、カップラーメンを炊き出しとして提供したり、篠田が「黄昏」というパフォーマンスを定期的に行ったりする、ユニークな休憩所として開放しています。
Image by: FASHIONSNAP
■WHITEHOUSE
所在地:東京都新宿区百人町1丁目1-8
この記事で紹介した常設プログラム以外にも、「BENTEN 2024」では、各会場で多様なプログラムを盛りだくさんに開催予定。詳細は公式のタイムテーブルを確認しながら、ぜひディープでユニークな街・歌舞伎町でのオールナイトアートイベントを楽しんでみてください!
◾️BENTEN 2024
会期:2024年11月2日(土)〜11月4日(月・祝)
時間:11月2日・3日 15:00〜5:00、11月4日 15:00〜24:00
会場:歌舞伎町界隈一帯
公式サイト
公式インスタグラム
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