
Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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「バレエのエレガンスとパンクの生命力という相反するイメージの融合」という自ら掲げた哲学を重んじながら、予定調和を破る「チカ キサダ(Chika Kisada)」の幾左田千佳の仕事ぶりは、やはり眼を見張るべき心配りがある。軍服、労働着、アウトドア、ドレス、コスチュームなど、所謂、様子や形式が既に確立された過去の服(年式、国籍なども様々)を換骨脱退の素材としてきた。彼女はレプリカを作っているわけではない。ましてや、時流に流れされるような軽々しさも感じさせず、だからといって、技巧に走りすぎた難解さもない。埃の被った文献を掃いのけ、内省的なニュアンスをほんのりと匂わせながら、時代を現代に、そして舞台を日常に置き換えて「様式」を、幾左田が希求する強い服に翻案する。この手法はこのブランドの魅力のひとつである。
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「クリエイション」を羅列して、さも理解したような気になって書かれた記事こそ、我々の稼業に仕掛けられた落とし穴。理解した気にならない、と私は常々そう思っている。「モダンな」「可憐な」「ロマンチックな」、「ひとつに」「大胆に」、「協調」「調和」も然り、我々は言葉に明るいつもりでいるし、便利な言葉だから、ついと容易に使いがちだが、その言葉の持つ現代における微妙な意味合い、この業界に特有なニュアンスが暗示する核心を本当に突いているかは甚だ疑問の余地がある。

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ここでの真の題目は、チカ キサダの服作りに「クリエイション」の言葉は本当に相応しいのか、である。これまで水掛け論が成されるがまま、「クリエイション」の言葉が蔓延る現在の東京という土俵で、他のブランドと共にチカ キサダも語られてきたが、これに対して、私は素手で反論するつもりはない。


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過去の稿で彼女の服作りを「文体」として捉えてきたので、ここでも敢えて前述した「翻案」を「翻訳」と置き換えてみる。翻訳というのは外国作家の文章を自国語に直すことで、自ずから創作とは質が異なり、寧ろ批評の質に寄った仕事とも考えることができる。翻訳者は自国語を以って外国作家の思想の良回路となる。自国語を鍛えに鍛えれば、それだけ、思想の優れた良回路としての役割を果たすわけだ。思想に対する解釈と自国語(言葉)の鍛錬の度合いの差が、翻訳者の優劣に繋がるのである。的を得た隠喩かどうかはさて置き、チカ キサダの服作りに翻訳者の仕事を重ねてみるならば、怠惰な言葉には決して望み得ないような、鍛えられた言葉の力......バレエの歴史、文献やパンクの精神や動力の融合よりも、その前に様式を解釈する文脈の力強さには、まさに一流の翻訳者の資質が見て取れるのではないか。更に加えるならば、「きわどさ」を精製したものがやたらと幅を利かせている昨今の東京においても、その傾向に拍車が掛かっているようだが、そうしたモノを所謂「クリエイション」と語ってしまう時代ならば、却ってチカ キサダの服作りを「クリエイション」といわずにおく方が、一層のこと潔いのかもしれない。

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「プロテクト」の機能は身体の身を包む服の形、首回り、肩回り、腰回りに量感を分散させた設計に置き換えられ、そこ(身体と空間)にある普遍性ではなく不滅性にして既に滅びた存在ともいえる褪せたテクスチャーを縦横無尽に、生命や時間を超越した何かをイメージとして捉えようとしている。有機的な曲線、左右の均衡を崩した造形、爛れた皮膚のような布地、細胞質や神経繊維の断面のように精緻に考え抜かれたスタイル、ヘアメーク、そしてサロンのように一体ずつと聴衆が対話できるよう、さりげなく仕掛けられた演出。歴史服や衣装を作る感覚ではない、かといってストリートの服とも違う自分たちの確たる居場所がある。この「ほどよさ」という審美的感覚、なかなかに重要ではないだろうか。自らの立脚点をわきまえた上で、チカ キサダは、殊更に人に媚びを売るような服作りの曖昧さに一線を引く。彼女特有の拡大鏡越しに覗いてみた異境の世界が、小々波のように潤いを与え、滲むように現実世界を染め上げていく。

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