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IMAGE by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
デザイナーの幾左田千佳が手掛ける「チカ キサダ(Chika Kisada)」が、2024年秋冬コレクションを発表した。自身の「頭の中にあるメモリーが現れる」ような演出を目指したという今回のショーは、ブランドのキーワードでもある「バレエ」と「日常着」を軸に展開。幾左田自身が子ども時代から大人になるまでの姿と、これまでの歴史の中で生きてきたさまざまな女性たちの姿が、時代や国を越えて目の前で重なり交錯するような印象を見る者に与えるコレクションとなった。
今回のショーの舞台となったのは、青山骨董通りを少し入った閑静な場所にある、趣きと温かみのある板張りの床や白い壁が印象的なスタジオ「LIGHT BOX STUDIO 青山」。2階へと続く木の階段の前に広がるスペースを囲むようにして座っていた観客たちは、ピアノの伴奏音とともにレオタード姿の3人の少女たちが楽しげに階段を駆け降りてくる姿を見て、「ここはバレエ教室だったのか」と気づかされる。たわいもないおしゃべりをしながらトゥシューズを履き、のびのびと自由気ままにストレッチをする小さなバレリーナたちの様子をしばらくのあいだ微笑ましく眺めていると、レッスンの始まりを知らせるチャイムの音が鳴った。彼女たちが慌ただしく階段を駆け上っていくと、BGMが優雅で重厚感のあるオペラの歌声とチェロとバイオリンの演奏に切り替わり、ショーの本番が幕を開けた。
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Imaged by FASHIONSNAP(Koji Hirano)
今シーズンのテーマは「砂漠の花」。歴史や絵画などに出てくる象徴的なシルエットをベースに、19世紀のワーキングクラスから現代までのワークウェアが着想源になっているという今回のコレクションでは、クラシカルなAラインに襟元の詰まったブラックやネイビーの質素なデザインのドレスをはじめ、テーラードジャケットやワークコート、ワークベスト、デニムジャケット、MA-1、ダウンコート、膝下丈のタイトスカートなど、さまざまな時代の働く女性たちが「日常着」として身につけているアイテムが次々に登場する。
しかし、ブラックのジャケットとパンツのセットアップにショーツ型クリノリンを重ねたファーストルックから既に明らかなように、「クリノリン」や「チュール」といったチカ キサダを象徴するディテールやシルエット、素材をふんだんに取り入れることや、あるいはレオタードやタイツといった“バレエダンサーとしての日常着”と組み合わせて表現することで、元々はそれぞれ普遍的なアイテムでありながらも、チカ キサダらしい唯一無二のアイテムやスタイルに仕上がっている。
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“歴史の中のシルエット”を常に自分の中の課題としてきたという幾左田は、「クリノリン」というスカートを膨らませるための骨組み状の下着をモチーフとして継続的に用いているが、今シーズンのコレクションには、クリノリン以外にもさまざまな形や素材の“骨組”が登場。本来は内側に隠れているはずのものが外側に装飾として露出しているスタイルは、何よりも「型」や「シルエット」を重んじるバレエという芸術の美学や精神の表れでもあり、ダンサーや女性たちが持つ内面的な芯の強さを可視化しているようにも思えた。
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また、クリノリンと同じ19世紀ごろの女性たちがヒップラインを美しく見せるために着用していたという「バッスル」を思わせる特徴的なバックスタイルのシルエットも度々見受けられたが、よく見ると、それはチュールがドッキングされた「イーストパック(EASTPAK)」とのコラボウエストポーチによってもたらされたボリュームであったりと、その楽しい意外性にも驚かされた。
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ショーの前半では、ブラックやネイビー、ブラウンなどのダークトーンのベーシックカラーを中心とした日常着を中心に構成されていたものの、終盤にかけては従来のチカ キサダらしいやわらかなピンクやベージュを基調とした、ロマンティックでドラマティックなシルエットのルックも登場。今季の特徴的なパターンやシルエットとして、「ダンスの基本的な動作を始める前の基礎のポーズや背筋が伸びるようなポーズといった、踊りの動きや姿勢を落とし込んだ」と幾左田が語っていた通り、着た時のアームのシルエットや洋服自体のフォルムが、「アン・バー」や「アン・ナバン」と呼ばれるバレエの基本的な腕のポジションのように見えるドレスやブルゾンなどもあり、改めて、多様な形でバレエらしさを随所に感じるクリエイションとなっていることが窺えた。
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終演後、報道陣の取材に答えた幾左田は、「昨年バイアール(by R)を通じて東京でショーを開催したことで、自身のものづくりに対して非常に良いインスピレーションを得られた。これからも皆さまになるべくチカ キサダの世界観を感じていただけるよう、今後もルックブックではなくショーに挑んでいきたい」とショー開催への想いについて言及。多様なブランドの在り方や価値観が存在する今、全てのブランドにとってフィジカルショーの開催が必ずしも必要とは限らない。しかし、「バレエ」や「ダンス」という身体性を伴うモチーフをブランドの主軸に置いているからこそ、生身の人間の身体性とそれがもたらすエネルギーや美しさを直接感じられるフィジカルショーという形式は、チカ キサダというブランドにとって非常に適切で理に適っているのだと、今回のショーを見て強く感じた。
2023年秋冬シーズンのショー開催時から、音楽担当のチェロ・バイオリン奏者をはじめ、ヘアメイクやスタイリストも同じメンバーが担当しているといい、「私のバレエカンパニーがやっと出来上がったイメージです」と話す言葉が印象に残っている。実際、1点1点の洋服のみならず、ヘアメイクやスタイリング、音楽、空間、演出、それらすべてが美しく調和したショーは、とても完成度が高く満足感があった。これからも一観客として、“チカ キサダ・バレエカンパニー”が表現する世界を楽しみにしていたいと思う。
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