左)イン・チソン 右)鈴木親
Image by: FASHIONSNAP

Fashion ストーリー

【密着】鈴木親×北村道子×IHNN、コレクションヴィジュアルができるまで

左)イン・チソン 右)鈴木親
左)イン・チソン 右)鈴木親
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 服は「作る」だけではない。目に触れ、心に刻み、その手に届けるため、コンセプトやシーズンイメージからデザインの特徴まで、「伝える」ための手段が求められる。欧米のブランドではキャンペーンヴィジュアルが主流となっているが、日本のデザイナーズブランドで多いのはカタログ的なルックブックだ。その違いに着目し、ブランドイメージの訴求が必要だと考えた日本拠点の若手ブランド「イン(IHNN)」は、これまでとは異なるアプローチでヴィジュアル制作を試みた。稀代の写真家 鈴木親氏と日本を代表するスタイリスト 北村道子氏という、強力なサポーターを迎えて。

 

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イン・チソン
韓国出身。文化ファッション大学院大学(BFGU)を卒業後、2014年にブランド「IHNN」設立。繊細さと大胆さを併せ持った新しい感性を創造し、感度の高い女性へ向けたスタイルを提案する。カラーと実験的でユニークな素材を組み合わせ、上質で現代的なコレクションを発表している。

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鈴木親
1972年生まれ。96年渡仏し、雑誌「Purple」で写真家としてのキャリアをスタート。「i-D」や「Dazed & Confused」など国内外の雑誌で活動し、ISSEY MIYAKEやTOGAなどのワールドキャンペーンも手掛ける。主な作品集は「shapes of blooming」(treesaresospecial刊/2005年)、「Driving with Rinko Kikuchi」(THE international刊/08年)、「CITE」(G/P gallery刊、09年)など。

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北村道子
1949年石川県生まれ。1985年の森田芳光監督作「それから」で映画衣裳スタイリストとしてキャリアをスタート。以後、数々の映画で衣裳を務め、是枝裕和、黒沢清、三池崇史等の作品に参加。「スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ」(2007)の衣裳で第62回毎日映画コンクール技術賞を受賞。また、宇多田ヒカル、 UAのPVの衣裳など、さまざまなアーティストや俳優のスタイリングも行ってきた。作品集・著書に「Tribe」(1995)、「cocue」(1999)、「衣裳術」(2008)など。

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ファッションショーやインスタレーションとは別の見せ方をしたかった。(イン)

 ブランドの立ち上げから4年目。インが求めたのは、ブランドイメージをアップデートすることだった。スタッフ陣として望んだのは、その道のトップとも言えるクリエイターらだが、果たして若手のファッションデザイナーの仕事を引き受けてくれるのか。募る不安を、イン・チソン氏は熱意と運で払拭していったという。

「切手がない封筒がオフィスに届いて、最初はちょっと怖いなと思ったんです(笑)。封を切ったら、インくんからの撮影の依頼書で。これまでのコレクションルックを見ていいなとも思ったんですが、突き抜けるには才能ある人を巻き込む力が必要だと考えていて、そういう方に頼んでOKが出るのであればこの仕事を受けようと。それで北村さんにオファーしてみるよう提案したんです」(鈴木)

 「それでイン君からメールが届いて。親くんからの紹介でと書かれていたので、それは協力しますよとなったわけ。その時は、親くんが私の判断に委ねていたということは知りませんでしたから(笑)」(北村)


 イン氏にとって「日本で一番撮ってほしい人」だったのが鈴木氏。偶然にもオフィスが同じ建物だったため、切手も貼らずそのままマンションのポストに依頼書を投函したという。運も味方につけて北村氏に繋がり、2018−19年秋冬コレクションのヴィジュアル撮影が決定。プロジェクトが動きだした。

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「格好良いものをみてドキドキするという、ファッションにおいて一番大切な感覚を置き去りにしていたところがあったと気づいて。

印象に残るヴィジュアルを通して新しい見せ方で伝えたかった

」(イン)


 撮影前に2人と顔を合わせ打ち合わせを重ねたことで、ブランド立ち上げ当初の「純粋にクリエイションを追求していきたい」という情熱が蘇ってきたというイン氏。新作の2018-19年秋冬コレクションタイトルは「不協和音」で、モーツァルトの楽曲が着想源となっている。


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 これまでのルックとは違う日本人モデルを起用したらどうかという鈴木氏の提案を受け、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ミュウ ミュウ(MIU MIU)」などのショーモデルも務めてきた福士リナを起用。ヘアはamano氏、メイクはitsuki氏が担当し、都内にある日本家屋で撮り下ろした。


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 国内外で活動し、ファッションシューティングも多く経験している鈴木氏。日本のブランドもキャンペーンヴィジュアルを積極的に制作すべきという考えを持っている。なぜルックブックよりもヴィジュアルなのか?

日本のファッションブランドは、イメージを伝えるキャンペーンヴィジュアルと、シンプルに服を見せるルックブックを一緒にしていることが多い。今はInstagramを通じてコレクションルックを見る機会が増えているが、服のディティールまで見せることは難しいし、強いイメージも出せない。しっかり分けて考えないといけないが、「予算がないから」という理由で一緒にしてしまう。例えば

川久保さんが作るヴィジュアルには「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」の服を着ることで知的なイメージを、川久保さんのフィロソフィーをまと

えると思わせる何かがある。それがヴィジュアルの役目だと思う。(鈴木)


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 スタイリストとして北村氏を提案した理由も、鈴木氏のヴィジュアルに対する考えと一致している。

デザイナーはアイテムを沢山使ってアピールしたいと考えがちで、

今の日本のスタイリングは服を足していく手法がトレンド。でも北村さんは、平気でどんどん服を外していく。例えばシャツ一枚だけ羽織ったスタイリングでも、とてもインパクトが強い。抜いたらエッセンスがなくなると普通は考えるが、北村さんは服を抜くことで強く見せるヴィジュアルを作ることができる。(鈴木)

 撮影中、その場でスタイリングを組んでいくのが北村氏のスタイルだ。昨年、国立新美術館で発表した「トーガ(TOGA)」のショーでスタイリングを担当した際も、その場でどんどんルックを組み上げ、ショー全体で起承転結のスタイリングに仕上げることで、ブランドの20周年にふさわしいコレクションとなった。

 例えば、空間に人がいるストリートでの撮影は難しくはないと思う。でもたった1人だったら、その空間全体を支配しなければいけない。その場の空気感を踏まえて、モデルを見てスタイリングすることが作品の強度になっていくので、事前にコーデを組むことはしないようにしているんです。(北村)


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 日本のスタイリングは、独自の進化を遂げている。様々なブランドが揃う東京という都市の優位性から生み出された独自のレイヤードスタイルについては、一定の評価を得ていると言えるだろう。一方で鈴木氏は、西洋のフォーマットの中で日本人や東洋人としての強さを出していくことの重要性を指摘する。そういった意味でも、日本に10年住んでいるイン氏が熟考した「和とグラフィックの融合」という今回のコレクションテーマは興味深い。

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 撮り下ろしたのは10コーデ。鈴木氏は、スマートフォンを使って動画も撮影した。これらは6月1日から代官山で開催されるエキシビジョンで、グラフィックと共に空間を作り公開する予定だ。

携帯の小さな画面でインスタ等から簡単に服を見る今の流れに反して、見る人が少しでも服のことを考えるような機会を作りたくなりました。(イン)

 イベントの案内メールには、イン氏の言葉が添えられている。SNS依存により過剰性が強調された現代のファッションデザインから距離を取りながら、ブランドイメージをどう発信していくか。ヴィジュアルとエキシビジョンには、1人のデザイナーとクリエイターらの時代に対するアンチテーゼが込められている。

エキシビション開催概要
会期:2018年6月1日(金)18:00 - 22:00、6月2日(土) 10:00 - 19:00 ※6月2日のみ一般入場可
会場:SPEAK FOR SPACE 2F(東京都渋谷区代官山28-2)

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