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【連載ふくびと】第9話 N.ハリウッドと尾花大輔――20年目のフォーマルとは

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第8話からつづく――

 ひとつのテーマを深く追求するコンセプチュアルなデザインアプローチから刷新したことで、新しい価値観を導き出す「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」。尾花の元には様々なオファーが舞い込み、同時進行で動いていく。古着のルーツを踏襲した数々のコラボ、そして近年実現したビッグプロジェクトは、無印良品の「MUJI LABO」のディレクション、そして東京2020オリンピック・パラリンピック聖火ランナーのユニフォーム監修だ。――N.ハリの創業デザイナー尾花が半生を振り返る、連載「ふくびと」N.ハリウッドと尾花大輔・第9話

 

・「これがいい」ではなく「これでいい」MUJIの発想

 やっぱり僕は、モノと対峙することが好きなんだと思います。古着もそうですが、ディテールをよく観察して研究すると、見えてくることがある。歴史があるブランドは特にそう。協業する時に足りないものや共にやるべきことが明確になるので、「リー(Lee)」や「ラングラー(Wrangler)」などとN.ハリは20年近くもコラボが続いているんだと思います。

 声が掛かる仕事の幅が広がっていますが、まず僕はきちんと内容を聞いて話をします。お互いが納得できる意味を見出せなければ、ただ断るだけではなくてアイデアだけ渡したり、趣旨に合った人を紹介することもあります。

 ただ、以前から「無印良品とカルバン・クラインは、いつか一緒に仕事をしてみたい」とよく言っていたので、無印良品からお話を頂いた時には断る理由は一つもありませんでした。「MUJI LABO」のメンズウェアのディレクションを担当することになったんですが、蓋を開けてみたら服作りもマーケットも全然違いました。「これがいい」ではなく「これでいい」という作り方は、自分にとって発想の転換。理念や考え方を重視する姿勢も、ものすごく勉強になっています。客層も異なるので、相手にも僕らにも双方にプラスで返せる仕事ってこういうことなんだと実感しています。

 東京2020オリンピック・パラリンピックの仕事は、ありがたいことに突然のオファーでした。聖火ランナーのユニフォーム監修という大きな仕事です。とても優秀なデザインチームとジャッジするIOCのチームと共に、自分としては服のデザインというよりも先に理念を考えて、デザインを乗せていく作業をしました。復興五輪、日本古来のもの、そして1964年東京オリンピックの良い所を引き継ぐ、この3つを融合していきました。緊張する作業で限られた期間でしたが、納得のいくものができたと思っています。

尾花が監修したユニフォームは、2019年6月の「東京2020オリンピック聖火リレーイベント〜みんなのTokyo 2020 Olympic Torch Relay〜」にて披露された。 photo: FASHIONSNAP.COM

 

・20年の幕開けはフォーマル King Gnu常田と共に

 2020年の今年、アメリカのメディアが僕らのことを「ニューヨークコレクションで最も長く参加しているメンズブランド」と書いてくれて、そうなんだと気付きました。長ければ良いというわけではないけど、気が付いたらコレクション発表の場をアメリカに移してから10年です。しかし、その前年にニューヨークメンズコレクションの時期が早まった関係で、いつも行っていたインスピレーションの旅ができなくなってしまった。時期がズレれば、コレクション制作に影響が出てしまいます。

 ちょうどその頃、フォーマルラインの「コンパイル(COMPILE)」を刷新したタイミングでもありました。今のフォーマルやスーツの考え方はかなり変わってきていて、ネクタイをしめなくても出勤できるし、肩がカッチリしたジャケットでなくても立派な場に行ける。現代のフォーマルのあり方を、ゼロから考え直したんです。ブランドは今年20周年だからポジティブに頭を切り替えて、「コンパイル」を初めてショーで見せることにしました。「20年やってきた僕たちが作るフォーマルを見てください」という思いで。会場は、歴史あるメソニック協会のホール。過去から未来へ、フォーマルのあり方が移り変わっていくような構成をイメージしました。

 コンセプトと共鳴するように、音楽も新しい解釈のクラシックでいきたい。それで、普段からよく一緒に飲んでいる大希(King Gnu / millennium parade 常田大希)が5才からチェロを弾いていると話していたことを思い出し、即オファーしました。チェロというトラディショナルな楽器をコンテンポラリーに表現するという感覚は、彼の中にあるはずだと感じたんです。「マジでやりたいです!」と返事をもらうことができて、しばらくしてからデモ音源を送ってもらったら、聴いた瞬間に「俺らの想像を超えてるよ」というくらいスゴかった。映画音楽を聴いているようだと感じたんですが、「僕、映画の音楽とかも作っていたんですよ」と、後で本人から聞いて納得しました。

 いつものコレクションなら、演出、ヘア、スタイリストetc...、関係する皆が僕の向かっている方向性に寄せてくれる形ですが、今回は「コンパイル」すなわち「編集する」という意味を持つ名なので、もっと皆とコラボレーションしたい。だから音楽だけではなく、「皆のアイデアを出してほしい」と伝えました。

 始めて実践することだから実験でしたが、驚くほど熱量が生まれて、ピースは少なくてシンプルなのに強いコレクションになりました。全員が自画自賛できるショーができたことで得るものが多く、これからの自信にも繋がったと思います。――第10話(最終回)につづく

文:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP.COM

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