ディオールと協業した職人たち
Image by: DIOR
今年4月に京都で発表された「ディオール(DIOR)」の2025年フォールコレクション。世界遺産に登録されている東寺の美しい庭園がショー会場となり、日本の文化やモチーフを取り入れたデザイン、そして世界中から集ったゲストらの華やかな姿も相まって、話題と注目を集めた。その成功を支えたのは、日本の職人やクリエイターたち。西陣織、京友禅、引き染めといった京都の老舗の職人をはじめ、国内外で活躍する音楽家や華道家、帽子デザイナーといったコラボレーターらのサヴォアフェール(=匠の技、ノウハウ)に着目した。
西陣織─龍村美術織物
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龍村美術織物は1894年に創業した西陣織の名門で、ディオールとの出会いは72年前に遡る。初代 龍村平藏がディオールに提案した織物が1953年のコレクションに採用され、3体のルックが誕生。現クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)は、そのうちの2体「Utamaro(歌麿)」と「Rashomon(羅生門)」に用いられた織物「早雲寺文台裂(そううんじぶんだいぎれ)」と、「宗薫緞子(そうくんどんす)」を、再び採用した。




2025年フォールコレクションに向けたプロジェクトは約3年前から始まり、いずれも当時の織物を復元しつつ現代の感性で再解釈が加わった。龍村美術織物の烏丸工場では、72年前にディオールの生地制作に携わった西陣織の職人が、いまも現役で働いているという。


京友禅─田畑喜八
ショーの冒頭を飾ったバイオリニストLiliyo Tsujimuraが身につけていた着物風ジャケットのテキスタイルは、京友禅 五代・田畑喜八が手掛けた。「素描友禅」の技法で、藍をベースに珊瑚朱の赤を取り入れて桜を描き、日本の庭を表現したという。


江戸時代から200年にわたり受け継がれてきたのは匠の技だけではなく、顧客のことを表す「華主(かしゅ)」という言葉に込められた「お召しになる方が主人公。その方をより引き立て、より美しくするのが我々の仕事(田畑喜八)」という考え方。マリア・グラツィアが手掛ける女性のための服作りと共鳴し、特別な一体に仕上がった。

引き染め─福田喜
マリア・グラツィアが「色を通して着物の伝統を精緻に表現する、卓越した工房」と評した福田喜は、1927年の創業以来、刺繍、染め、箔加工の技術を受け継いでいる。


今回のコレクションルックに用いられた「引き染め」は、水で湿らせた布に刷毛を使って染料を染み込ませていく技法で、境目のないグラデーションがセットアップを引き立てた。


帽子─サワ ヴォーターズ
サワ ヴォーターズ(Sawa Vaughters)は、東京を拠点とする帽子デザイナー。ディオールのヘッドピースを長年にわたり担当している帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズ(Stephen Jones)に師事し、過去にもディオールのコレクションハットの制作に携わった経験を持つ。


今回はディオールとスティーブン・ジョーンズとのトリプルコラボレーションとして、日本の伝統文化へのリスペクトを込め、「笠」から着想を得た帽子を制作。透ける黒の編み紐でモダンに仕上げ、東洋と西洋のスタイルを融合した。


いけばな─Hiroyuki Morita
毎シーズン新作が発表されるディオールの「ブックトート」は今回、コレクションと連動し、藍染を連想させるグラデーションと東洋の花々が描かれたデザインに。ショーのランウェイでは、パリを拠点とするHiroyuki Moritaが、ブックトートを花器に見立てた生け花(いけばな)が彩りを添えた。



このほかにも、世界各地から招待された500人超のゲストへのギフトとして、香彩堂のお香、宮脇賣扇庵の扇子、そしてディオールのオードゥ パルファン「サクラ」、足袋型のロングソックス、桜柄のトートバッグとストールが用意された。

ディオールのクリエイティブ ディレクター マリア・ グラツィア・ キウリ
創設者クリスチャン・ディオールは、幼少期から浮世絵などを通じて日本文化に触れ、敬愛の念を抱いていたが、生涯において来日は叶わなかったという。ムッシュの想いを引き継ぐ歴代のクリエイティブ ディレクターらによって紡がれてきたメゾンと日本の絆が、伝統技と美意識が結集されたコレクションで花開いた。
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