DIOR メンズ 2021-22年ウィンターコレクション
Image by: Brett Lloyd
「ディオール(DIOR)」メンズの2021-22年ウィンターコレクションは、言うならば「アーカイヴとアートの融合」。旧き良き時代のユニフォームや軍服に宿る男らしさと、画家のピーター・ドイグのアート作品を融合させることで、新しいドレススタイル=「キム・ジョーンズのニュールック」を紡いでいる。
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
現代のファッションデザイナーに求められる必須の能力として"掘る力"がある。過去に生み出されてきた服の歴史を幅広く"ディグる"力。これからオリジナルが生まれてくる可能性はゼロではないが、自動車のデザインや音楽のメロディと同じように、ファッションデザインの大枠は出尽くしている。となると、過去のデザインを発掘して様々の要素と組み合わせたり、自身のシグネチャーと融合させ、新しさを生み出すことが重要になってくる。
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ディオールのメンズ・アーティスティック・ディレクターのキム・ジョーンズ(Kim Jones)は、現代のデザイナーの中でもこの能力が際立って高い。
①様々な年代の過去
②ディオールのアーカイヴ
③青春時代に体験したストリート・ファッションを中心としたカルチャー
④今興味があるアーティストの作品
この4つを自在に組み合わせることで最旬のモードを表現し、さらには4つのバランスに強弱をつけることで常に新鮮さを保ち続けている。その発掘力と編集力は、ルイ・ヴィトン時代と比較しても飛躍的に向上しているように見える。
今シーズンの組み合わせは①と④で、①の着想源は「儀式用の服装に宿る贅を尽くした男性らしさ」。刺繍や装飾があしらわれたユニフォームや軍服、とりわけフランス芸術アカデミー(アカデミー・デ・ボザール)のコスチュームからインスピレーションを得たという。そこに、現代を代表する画家の一人であるピーター・ドイグの作品を組み合わせることで、程よく肩の力が抜けた新しいメンズのドレススタイル=ニュールックを紡いでいる。
"ディグり"を代表するアイテムは、第一次世界大戦以前に主流だった詰襟型の式典用礼装を連想させるスタンドカラーのジャケット。とかくコスプレのようになりがちな型だが、ボタンをジャケットと同布のくるみボタンにしたり、金属の紋章部分を刺繍で表現することで、過剰になりがちな要素を中和させている。シルエットは体に沿う細身で、上下のセットアップスーツの提案もあれば、この手のジャケットにしては珍しくコートのインナーとして着る提案もある。色や素材のバリエーションも豊富で、このジャケットを取り入れたルックは45ルック中17ルックにも及ぶ。この力の入れようから想像するに、キムのディオールメンズを代表するジャケット「オブリーク」の次の提案としての役割を担うことになるのだろう。
軍服をモチーフとしたその他の要素としては、スケート用のワークパンツ的な側章パンツ、スニーカーソールと組み合わせたロングブーツ、帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズが手掛けたベレー帽、ゆったりとしたシルエットのパイピングのピーコート(恐らくスプレーペイントでパイピングを表現している)、そしてピーター・ドイグの作品をプリントしたアートな迷彩柄のセットアップなどが挙げられる。
ピーターの作品は、主張しすぎることなくコレクションに溶け込んでいる。部分的に肌が透ける白シャツの中央にピーターの絵を配置したり、1990年の作品「MILKY WAY」の夜空のモチーフをコートにプリントしたり、絵のモチーフをニットに投影させたり。なかでも印象的なのは、2017年の作品「TWO TREES」に描かれた人物が着ているセーターをそのまま形にしたもの。"着るアート"というと陳腐に聞こえるかもしれないが、こうしたアートとファッションが融合した服が、将来はアートピースとして国際的なオークションで扱われることになるかもしれない。2人の共演はショーの演出にも及び、ランウェイの中央に巨大なスピーカーが積み重ねられた演出は、2015年の作品「SPEAKER/GIRL」から取り入れている。
バブル花盛りし頃、メディアを賑わせた文化人の多くはスタンドカラーのジャケットを着ていた。2000年代中盤のモードを牽引したエディ・スリマンの「ディオール・オム」は、衣装的なナポレオンジャケットをミニマルにアレンジして、当時の若者たちを熱狂させた。この原稿を書きながら気が付いた、スタンドカラーのジャケットが15年周期で流行る説。今シーズンのディオールを見て、ミレニアルズがどういう反応をするのか楽しみでならない。
【動画】マルク・ボアンのオートクチュールドレスからインスパイアされたシャツとコートのサヴォワールフェール
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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