井野将之が手掛ける「ダブレット(doublet)」が、2022-23年秋冬コレクションをパリメンズファッションウィークの公式スケジュールで発表した。今季の舞台は、ドラマやCM撮影で使用される渋谷スクランブル交差点を再現した栃木の「足利スクランブルシティスタジオ」。ダブレットは今話題のメタバース(オンラインで構築された3次元の仮想空間)から着想を得て、アナログで“バーチャル渋谷”を表現することに挑戦した。
異なる特徴を持つ25人のバーチャルヒューマンimma
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モデルの顔は、バーチャルヒューマン(CGで作成された人物)であり、インスタグラマーとしても人気の高いimma。背丈や体型、性別も異なる25人のモデルたちがimmaの顔をかたどった3Dマスクを被って、渋谷駅の改札から交差点を力強く通行した。これはバーチャルヒューマンをマネジメントする「Aww」とのコラボレーションによるもの。オンライン上の架空の人物であるimmaが、アナログな世界に飛び出してくるという驚きの仕掛けだ。
既存の服の概念を再考したウェア
コレクションの出発点は「パラリンピックに感動し、多様性という言葉を改めて考えたこと」と井野デザイナー。コレクションテーマは「THIS IS ME(これが私です)」。今季は、既存の服のサイズや仕様の概念を再考してアイテムを製作している。例えば、テーラードアイテムはプラスサイズモデルで採寸し、そのサイズを”Mサイズ”として提案。また凹凸が特徴的なデニムジャケットやジーンズ、迷彩パンツ、フーディーなどは、伝統的な有松絞りの伸縮性を生かして、多様なサイズの人々が同じサイズで着用できる。また“アダプティブウェア”(障害のある人のために着脱しやすい機能を加えた服)の要素をデザインとして採用。車椅子を乗る際に肩がけしても落ちにくい仕様のライダースジャケットを製作したほか、ファスナーでスリットが入るトップスなどが揃い、車椅子は刺繍トップスのグラフィックとしても登場する。
コギャルからヒントを得た”少数派の強さ”
1990年代のギャルファッションの影響も濃厚だ。ファーストルックから、制服風のコーディネートに身を包んだギャルのようなimmaが登場。ビッグショルダーのブレザーにチェックのミニスカート、クロップド丈のニットベスト、300cmもあるルーズソックスのようなレギンスを、違和感を楽しむようにコーディネート。他にも、大量の携帯ストラップが付いたベルトや、ラインストーンで装飾された携帯電話”デコ電”のプリントを施したトップスなど、強いギャルのエッセンスが散りばめられている。井野デザイナーは「世の中の”普通”や”当たり前”は、大多数が正しいと思っていること。ただ少数派にも力はあるはず。少数派の中でもエネルギーがあると感じたのは、僕が高校生の時に流行っていたコギャルたち。彼女たちは日本を動かしていく力があった」とギャルからのアイデアを説明する。
ダブレット流、毛皮の再利用
ファッション業界では毛皮について、リアルと人工ではどちらがサステナブルなのか、専門家の中でも意見が分かれている。今季ダブレットでは、工場で眠っていた毛皮のパーツや廃棄予定の毛を、リサイクルウールとリサイクルナイロンと混ぜて、本物の毛皮入りの再生素材を開発。新たなファーコートとして提案するほか、その糸をメルトン生地へと加工してアウターに取り入れた。またアニマル柄のバッグやスカートは、ウール混の糸で刺繍することで、起毛させてファーのように見せたデザイン。引き続き、環境に配慮した素材も取り入れており、キノコレザーの「マイリー(Mylea)」とリサイクルカシミアのボアを用いたフライトジャケットなども登場している。
さらにサトウキビ由来で生分解性が高いPLA(ポリ乳酸) 100%を使ったアンダーウェアや靴下も新たに披露。「Made for Disposal(捨てるために作った)」とウィットを利かせて、有名な下着のパロディでロゴを入れている。
マスクを外し、現実世界に帰ってきたモデルたち
フィナーレではスタジオの渋谷駅前にモデルが集合し、一斉にimmaの3Dマスクを外して、交差点を駆けていった。“中の人”たちは個性あふれる顔ぶれで、僧侶・メイクアップアーティストの西村宏堂や義足モデルのGIMICO、車椅子に乗るファッションジャーナリストの徳永啓太らもいた。モデルたちがバーチャル空間から現実世界に戻ってきた姿を表現しているようだった。
ダブレットのアナログで最先端の“多様性”
このコレクションを通して、井野デザイナーは多様性という言葉に向き合った。メンズ・ウィメンズの垣根がないデザインはこれまでもブランドが続けてきたこと。今季は「人の数だけそれぞれの個性がある」という思いのもと、サイズや体型、障害までも線引きすることのないコレクションが出来上がった。ブランドらしい日本の職人技、見る人がクスッと笑えるウィットを詰めこんで。このアナログでかつ最先端、その両極を同居させるクリエイションこそが、ダブレットにしか表現できない強みなのだろう。
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