
DRIES VAN NOTEN 2026年秋冬メンズコレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

DRIES VAN NOTEN 2026年秋冬メンズコレクション
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パリの夜に響く浅川マキの歌声──その退廃的で、しかし芯のあるブルースが、会場の張り詰めた空気を震わせたとき、そこにいた誰もが予感したはずだ。これは単なる衣服の発表会ではなく、ある種の個人的な告白であり、同時に普遍的な記憶への旅路であることを。
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ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)が手掛ける「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の2026年秋冬メンズコレクションは、メゾンの通例であった真昼のショーから一転、夜の帳の中で幕を開けた。サウンドトラックに選ばれたのは、クロスナーが昨年10月に日本を旅した際に出会ったという浅川マキの楽曲「夜が明けたら」。歌詞の意味を知らずとも、その歌声に直感的な共鳴を覚えたという彼だが、翻訳を通じて知った「新しい朝」「出発」といった詞の世界観は、奇跡的にも今季のコレクションの精神性と合致していたという。それは、偉大なる創業者の美学を継承しながら、自らの足で歩み始めた彼自身の「巣立ち」と「成長」のメタファーとして、パリの闇夜に溶け込んでいった。
今季、クロスナーが掲げた人物像は「Studious(学究的)」な男性。インビテーションに添えられたパンジーの花(の写真)はフランス語で「思考(pensée)」を語源に持つ。その花が象徴するように、クリエイションの根底にあるのは、ダーウィンの進化論や公教育制度が確立されたヴィクトリア朝時代への憧憬だ。アカデミックな「学び」の象徴としてのヴィクトリアン・スタイルに加え、自然科学や生物学への関心が高まった当時の探検家のような好奇心がコレクションを貫いている。

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視線を奪ったのは、体を包み込むようなケープデザインのアウターウェアだ。肩から流れるような優雅なドレープと、構築的な切り替えが共存し、歩くたびに異なる表情を見せるそのフォルムは、まるで着用者を外界から守るシェルターのようでもある。また、過去と現在、記憶と現実を縫い合わせるような「パッチワーク」も同コレクションの核として存在する。それは物理的な継ぎ接ぎのみならず、デザイナー自身の個人的な記憶や家族の伝統といった精神的な要素の集積をも意味しているのだろう。

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クロスナーが「メゾンの重要な一部」と語るニットウェアも、豊かなバリエーションで披露された。今季のニットは、単なる防寒着の枠を超え、着用者を守護する「繭(コクーン)」のような役割を果たしている。チャンキーで肉厚なセーターから、繊細なハイゲージまで、その表現は多岐に渡る。特筆すべきは、ネイビーのリブニットで全身を統一したルックや、デザイナーが「フルーテラカラー」と呼ぶ、淡くナイーブなオレンジやピンクのパステルトーンを用いたルックだ。これらは、ヴィクトリアンの厳格さの中に、少年のような無垢な遊び心を滲ませる。スタイリングの妙も際立った。セーターの下にクロップドシャツを忍ばせ、取り外し可能なニットカラーや小さなスカーフをレイヤードすることで、首元に複雑な表情を生み出している。マフラーをリボン結びにするあしらいや、ニットのロングジョン(股引)をあえて見せる提案は、親密なプライベート空間のくつろぎを、公共の場へと大胆に持ち込む試みといえよう。

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足元を支えるのは、実用性と美学が融合したフットウェアだ。一見するとクラシックなボクシングシューズに見える新作スニーカーは、ソールが完全に折り畳めるほどの柔軟性を備えているという。これは、常に動き回り、探検を続けるアクティブな「学究者」のための道具であり、クロスナーが重視する「個人的な快適さ」の具現化でもある。

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クロスナーは語る。「愛着があって着続ける服こそが重要だ」と。トレンドが消費され、次々と使い捨てられる現代において、彼が提示したのは、何年もクローゼットに留まり、着る人の人生に寄り添う「相棒」としての衣服だ。そしてショーの終盤、浅川マキの歌声が止み、熱狂的な拍手が湧き起こったとき、そこには確かに「夜明け」があった。それは、ドリス ヴァン ノッテンという歴史あるメゾンにおいて、クロスナーが自身の感性を完全に開花させた瞬間である。その証拠に、バックステージではドリス・ヴァン・ノッテン本人が、終始嬉しそうな笑顔を見せていた。知性と快適さ、厳格さと遊び心。相反する要素をパッチワークのように繋ぎ合わせたその先に、男性服の新たなロマンティシズムが静かに、しかし力強く息づいている。
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