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アーティスト 江頭誠、"毛布アート"で花開いた人生の葛藤と希望に迫る

 花柄毛布を主として扱うアーティスト 江頭誠。個展や芸術祭への参加だけではなく、ファッション誌でのコラボレーションやセレクトショップでのポップアップなど活動は多岐に渡り、2022年8月には「グッチ(GUCCI)」が公開した「Kaguya by Gucci」で装飾を担当。毛布アートで強烈なインパクトを残した。

 江頭が初めて毛布の作品を制作したのは2011年まで遡る。そこから12年が経過した今も尚、一貫して花柄毛布を使い続けており、年々変化する表現で毛布の可能性を提示している。同じ素材に向き合った12年間にはどんな葛藤や挫折、そして希望を感じる瞬間があったのか。

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江頭誠
1986年三重県生まれ。戦後の日本で独自に普及してきた花柄の毛布を主な作品素材として、立体作品やインスタレーションを手掛ける。2015年に発泡スチロール製の霊柩車を毛布で装飾した「神宮寺宮型八棟造」で「第18回岡本太郎現代芸術賞」特別賞を受賞。その翌年、毛布で洋式トイレをつくった「お花畑」で「SICF17」のグランプリを受賞する。主な展覧会に「六本木アートナイト2017」、「BIWAKOビエンナーレ2020」など。展示以外にアーティストYUKIの「My lovely ghost」のMV にアートワークで参加。
公式インスタグラム

みかんの皮、バッタの格好...様々な素材に挑戦した美大時代

今回は江頭さんの作家活動について色々とお話しをお伺いしていきたいのですが、まずは「Kaguya by Gucci」、素晴らしいコラボレーションでしたね。

 ありがとうございます。以前から監督の長久允さんが作品を見てくれていて、今回オファーを頂きました。最終的に部屋一面を毛布で覆い尽くしたセットも作り込み、かなり大胆に作品を使って頂きました。完成した映像を見た時は、本当に嬉しかったですね。

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江頭さんといえば"花柄毛布"の印象が強いですが、以前は全く別の作品を作っていたとか。

 毛布を使った作品を初めて制作したのは、多摩美術大学4年生の卒業制作です。それまでは熊本産のみかんの皮で熊本城を作ったり、バッタの格好をしてパフォーマンスをしたり....今の作風とは大分かけ離れた作品を作っていました。多摩美では彫刻科に通っていたんですが、他の学生の子とやってることが被りたくない気持ちがあり、彫刻素材の主流となる4種(石、鉄、粘土、木)のどれにも属さない新しいジャンルでの作品制作に執着していました。大分捻くれた作風でしたね(笑)。

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当時、江頭さんの作品に対する周りの反応はどうでしたか? 

 笑われていたような気がします(笑)。ただ、その反応を全然ネガティブに捉えてはいなかったですね。関西近くの三重県出身という影響なのか、"人を笑わせたい"という感情が作品制作のベースにあります。笑うことでその場の空気が平和になる、そういう環境を自分の作品を通して作りたいので、真面目に褒められると少しくすぐったいんですよね。作品を見てズッコケてもらいたいんです。

そもそも彫刻科に進学を決めたきっかけは?

 予備校の体験授業で、野菜を紙粘土で作る授業がありました。胡桃をモチーフに作品を作ったところ、予備校の講師だった大巻伸嗣さんがすごく褒めてくれて、賞も頂けて。それがきっかけとなり、彫刻科への入学を決めました。正直、すごく強い気持ちで彫刻科へ進んだ訳ではなかったんですが、精密画のような丁寧な作業ができる性格ではないので、"荒さ"を許容してくれる彫刻は自分に合っていたんだと思います。目の前に現れるリアルな物と対峙できること、そして様々な素材を扱えることは彫刻ならではの面白さだと思うので。

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卒業制作として発表、駄洒落から生まれた初の毛布作品

学生生活の締めくりとなる卒業制作の構想はずっと前からあったんですか?

 実は提出の2ヶ月前になっても作るものは決まっていなくて(笑)。元々お城が好きだったことと、毛布を使いたいという構想は頭の中にあったので「毛布といえば冬、冬といえば大阪冬の陣」という駄洒落から作品を作り上げました。縫い合わせた毛布に綿を詰めて制作したんですが、綿の詰め方で予想だにしない形が生まれる"偶然性"にはすごく惹かれるものがありました。

毛布を使う構想は以前から持っていたものだったんですね。

 そうですね。一人暮らしの部屋に友人が来た時、実家から持ってきた毛布を「ダサい」と言われ、今まで気に留めていなかった花柄が急に恥ずかしく、意識せざるを得ないものになりました。特に花柄を好んで使用していたわけでもないのに、なぜあんな派手な花柄が見えていなかったのかと疑問に感じたところから毛布の作品はスタートしました。また上京する時に、母親がくれたのが花柄毛布だったので、同時に母親を否定されたような気持ちにもなり、友達の言葉をすぐに受け入れられなかった記憶があります。その場では笑っていましたが、不思議な感情でした。

「大阪冬の陣」(2011年・多摩美術大学)
「大阪冬の陣」(2011年・多摩美術大学)

完成した卒業制作の感想として挙げていた、"偶然性"に惹かれた理由は何でしょう?

 ある日父から「絵は上手くなったけど誠らしくない感じになったな」と何気なく言われたことがありました。予備校と浪人時代に学んでいたデッサンは石膏像を忠実に描くことを良しとしているので、オリジナル性を問われることはなく、技術だけが身に付いている状態だったんですよね。父の一言で技術に頼る作品にフラストレーションを感じるようになり、遊びや失敗を許容してくれるノリが作品に欲しかった。そこから偶然生まれてくる形や組み合わせなど大切にするようになり、"偶然性"に惹かれるようになったんだと思います。

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卒業制作の反響はどうでしたか?

 全くなかったです(笑)。元々卒業後は美術の道には進まず就職を考えていたので、一年間のバイトを経て家具屋に就職しました。

 家具の修理作業は楽しくもあったんですが、依頼されて制作するのではなく、やはり一から作りたいという思いが出てくるようになって。一緒に働いている先輩に「毛布で霊柩車つくったらかっこよくないですか」って話したことがあったんですが、初めて話したつもりが「それ何回も言ってるし、そんなに良いと思ってるなら作ったほうが良いよ」と。とりあえず書類だけでも出してみるかという気持ちで「第18回 岡本太郎現代美術賞」に応募したところ書類審査に通ったので、覚悟を決めて週2日の休みをすべて費やし作品制作に打ち込みました。

多摩美卒業後、4年ぶりの作品制作がスタートしたと。

 そうですね。作品制作の時間はとてつもなく楽しくて、ずっとハイな状態でした。満足のいく作品が出来たことだけでも十分嬉しかったんですが、特別賞を頂けたことが後押しとなり、働いていた家具屋を辞めて作家活動に専念することを決めました。

「神宮寺宮型八棟造」(2015年・川崎市岡本太郎美術館) Image by 川崎市岡本太郎美術館
「神宮寺宮型八棟造」(2015年・川崎市岡本太郎美術館) Image by 川崎市岡本太郎美術館

作家としての覚悟を決めて挑んだ、スパイラル「SICF」

そこからの作家活動は順調だったんですか?

 賞をもらい仕事を辞めて制作環境を整えたんですが、制作依頼は1件も来ない(笑)。どうすれば良いか分からず大学時代の教授に相談したら「作品を作っていないのに何を悩んでるんだ。まずは作れ」と喝を入れられました。

 とにかく作品を作るきっかけが欲しかったので、スパイラルで開催されている「SICF 17」に出展しました。これまで大きな作品を作ってきたんですが、SICFで作家に割り当てられるブースサイズは彫刻扱う自分にとってはすごく狭かった。それをどう活かすか考えた結果、ブースを様式トイレに見立て、便器はもちろん床から壁まですべて毛布で覆った作品を発表しました。その作品がグランプリを受賞し、副賞としてスパイラル1階のショーケースでの個展が決まりました。

『お花畑』 (2016年・スパイラル)
『お花畑』 (2016年・スパイラル)

SICFで初めて空間を意識した作品に挑戦したわけですね。江頭さんにとっての大きなターニングポイントになったのではないでしょうか。

 スパイラルは立地も良く、ファッションやアートに興味がある方が沢山来るので、僕の個展も本当に多くの方に見て頂くことができました。そこからようやくギャラリーでの展示や仕事に繋がっていきましたね。

スパイラルでの個展が2016年。そこから約7年ほど経ちますが、手法を変えることなく花柄毛布を使った作品を発表し続けています。同じ素材を使い続けることへの抵抗はなかったんですか?

 毛布の作品をやめたくなったことは、過去に何度もあります。一時期本当に毛布が嫌になってしまい、2018年に参加した「BIWAKOビエンナーレ」では、過去作品を供養する為に祭壇を作ったことがありました。形だけではありますが、自分の中でとにかく区切りをつけたかった。ただ、依頼が来るのはやはり毛布の作品なんですよね(笑)。

『ブランケットが薔薇でいっぱいⅢ』(2018年・近江八幡市街) Image by Mao Shibata
『ブランケットが薔薇でいっぱいⅢ』(2018年・近江八幡市街) Image by Mao Shibata

毛布への嫌悪を乗り越えて見つけた、新しい表現方法

期待に応えたい気持ちと、新しい表現にチャレンジしたいという葛藤の中で、嫌いになってしまった毛布を今も尚使い続けられているのは、気持ちの整理が出来たからでしょうか?

 毛布と良い距離感を見つけられたことが大きかったですね。2019年に静岡県島田市で開催された「UNMANNED 無人駅の芸術祭」で、お茶畑の集会所を使った展示依頼を頂きました。天井から床、小物に至るまですべて毛布で覆い作品を完成させたんですが、自分の作品で覆い尽くすことの意義を感じられず、すべての毛布を剥がし、元々その場所にあった物と自分の作品をミックスさせた内容に切り替えたところ、すごく納得感が生まれました。

 空間をすべてを覆い尽くすことは、一方的な主張を押し付けているようでずっと息苦しかった。その場所にある物や素材と自分の作品をミックスさせることで、双方にコミュニケーションが取れるようになり作品の風通しが良くなりました。そこからは毛布の可能性を多方面から探れるようになりましたね。色々と毛布に対して思うところはありますが、一周回って今では花柄がとても好きになったんですよ。

茶畑と機関車の間(UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2019) Image by 鈴木竜一朗
茶畑と機関車の間(UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2019) Image by 鈴木竜一朗

様々な柄の毛布がある中で、「花柄毛布」にこだわる理由は何でしょうか?

 毛布を扱う理由と同じになってしまいますが、「ダサい」と言われた毛布が花柄毛布だったという理由が大きいです。あとは装飾的なものにも興味があったという点も大きいですね。 昭和43年頃に花柄毛布が誕生し、当時日本はロココ調デザインの家電や雑貨が流行り、花柄毛布もその流れの一部だと言われています。西洋=高級感のイメージがあり毛布にもロココ調の装飾柄が施され、当時の日常生活の範囲で装飾や見立てを楽しんでいる点にもすごく惹かれました。現代では装飾的な物は排除され、無地のグレー、白、黒のデザインのものがほとんどで、フラットな当たり障りないものが多いですよね。確かにプライベートな寝具が派手である必要はないけれど、プライベートなものだからこそ自分のテンションが上がる装飾を選び楽しむことは素敵だし、豊かなことだと思います。

 逆に興味がない花柄が無意識のうちに日常生活に入り込んでいて、それに何の違和感や疑問を抱かないことも意識しないといけないのかもしれません。色々考えすぎて窮屈と思われるかもしれませんが、考えることは自由だし、楽しいですから。

毛布作品で広がる可能性と、これからの展望

毛布の作品は、モチーフを毛布で張り合わせたものとぬいぐるみのように縫い合わせたものがありますね。

 毛布と長く付き合っていく為にも、様々な手法を試しています。綿を詰めた作品は、"剥製"を意識して制作しているシリーズ。剥製から感じる本物と偽物の中間のような存在が気持ち悪くもあり魅力的で好きなんですが、この作品も立体だけど平面的で、別の何かに見える"余地"がある。その"余地"を楽しんで欲しいし、自分の作品を通して新しい価値観や気づきを感じてもらいたい。この犬の作品も、角度を変えるとハートに見えたりチキンに見えたりしませんか?

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『毛布の毛皮』 (2021年・西武渋谷)
『毛布の毛皮』 (2021年・西武渋谷)
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確かにそう言われると見えるような気がします(笑)。作家の中には小物やグッズは販売しない方も多くいますが、江頭さんは数千円のアイテムも作られています。また、ファッション撮影などへの作品提供も積極的ですよね。

 自分はアートのどのコミュニティにも属していないと思っていますし、作品が高価で崇高なものになってしまうことに抵抗があります。1人でも多くの人に手に取って楽しんでもらいたいので、作りたいものはあまり制限せず、"作品"と"商品"のどちらも作っています。"作品"と"商品"は自分の中で明確に分けていて、発表する場所に合わせて何を作るか考えています。作りたいものを作りたいしブレたくもない、欲張りなんです(笑)。自分がどこにも属していないからこそできることだと思うし、その方が自分の性にも合っているなと。そして何より自分自身が救われます。

 ファッション撮影の現場でも、カメラマンやスタイリストの方が自分と違う角度から作品を扱ってくれるので、そこから沢山の学びと発見があります。自分の見ている範囲はすごく狭いものだと思っているので、色んな方の意見を取り入れることで作品も成長していけば良いと考えています。

Silver magazine No6 Image by Fashion Editorial  「mojo」/Photo  Kadara Enyeasi / Styling  Dai Ishii/ Hair  Yuta Kitamura / Make-Up  Suzuki / Edit  Takuya Chiba  Takayasu Yamada
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Silver magazine No6
Silver magazine No6

最後に、今後の展望を教えて頂けますか。

 実は今考えている新作があって、昔服が破れてしまった時に母が別の生地で縫い合わせてくれていた経験を元に、それを立体作品として表現できないかなと。腕がない玩具や欠損してしまっている物を布で作ったパーツで修復し、新たな作品として蘇らせたいんです。家具屋で修理をしていた時、ひどく汚れている机や壊れた椅子を日々扱っていたんですが、磨けば絶対に綺麗になるし、修理すれば必ず直ることを体験してきました。元の状態に復元できなくても、新しいモノとして生まれ変わらせることはできる。その経験を活かした作品を作ってみたいですね。そしてまた愛でてあげたいですね。

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(聞き手 : 城光寺美那)

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