ファッションやアクセサリー感覚でフレグランスを取り入れる人も増えてきた昨今。とはいえフレグランスに関するアレコレは実はよく分からない...という人も少なくない。香りを楽しむために、必ずしも知識が必要なわけではないものの、香りを探したり、どんな香りが好きか表現するために、ある程度のボキャブラリーを持っておくと、より気軽にフレグランスに触れ、選ぶことができるはず。そこでFASHIONSNAPでは、“フレグランス トーク”で欠かせない「ノート」について特集。香りの説明で必ずと言って良いほど登場する「ノート」という言葉が表すものとは?そして、今回はフレグランスの王道のひとつ「フローラル ノート」について紹介。
教えてくれたのは?
フレグランスの「ノート」とは何を表すの?
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──店頭での接客や商品サイトで必ずと言って良いほど登場する「ノート」という言葉。フローラル ノートやウッディ ノート、マリン ノートなど、組み合わせられる単語でなんとな〜く分かるような、分からないような......。
まず、ノートは漢字で表すとすると、「香調」となります。よくノートと香調は違いますか?という質問もありますが、基本的には同じ意味なんです。ブランドや売り場によって採用されている言葉が異なる場合もありますが、どちらを使ってもほぼ一緒。そして字の如く、「香りの調べ」ということなんですが、「調べ」を音楽用語に則って考えると「香りの調子」となります。目に見えない香りが空気に広がり、どんな調子を醸し出すのか、といったイメージでしょうか。
(音楽の)調子:楽曲が特定の音(主音)を基に、長音階または短音階に基づいて構成されている状態
──なるほど。因みに、トップノート・ミドルノート・ラストノートのように使うこともありますよね?
トップ(ヘッド)ノート→ミドル(ハート)ノート→ラスト(ベース)ノートという表現は、香りの変化をわかりやすくするために、時間軸で香りの骨格を指したものです。ここでも「ノート」の意味合いは同じで、香りの調べがどう変わっていくのかを説明しているんですね。より視覚的に香りの構成と時間的な変化をわかりやすくするために、主にピラミッド型の画像で説明することもあります。
プチ・メモ
香りの表現は音楽用語を用いたものが多い。「アコード(和音)」は、テーマやコンセプトに対応する香りの核となる香料の組み合わせを総称したもの。香りの世界観を処方に仕上げていくための軸になるため、アコードのクリエイションが調香師の腕の見せ所とも言える。音楽の多様な側面・ある要素を意味する「ファセット」は、香りが持つ要素や特徴を指す。例えば、フローラル ウッディな香りのウッディの部分がファセットに当たる。
──では、「フローラル ノート」とはどんな香りのことを指すのでしょうか。花の香り...であっていますか?
分かりやすく、そのように考えて間違いはありません。ただ、その内訳として、フレグランスは複数の香料をち密に組み合わせていて、そして香料もさまざまな採取・精製方法がありますから、「花の香り」と言ってもかなり幅広いものを指すことは補足として知っておくと便利だと思います。
──ローズっぽい香りもフローラル ノートだし、ジャスミン系の香りもフローラル ノート、と言うことでしょうか。
そうなります。というのも、花の香りはフレグランス作りにおいては欠かせない素材で、香料自体も膨大な種類があるからです。誤解を恐れずに言うと、フローラルな要素はほぼすべてノートに取り入れられているといっても過言ではないんですよ。
──それはどういう意味ですか?
少し話は逸れますが、フレグランスの誕生の根本には「芳香を再現したい、まといたい」という思いがあったはずです。その「芳香」のレファレンスとして真っ先に上がるのが、花の香りです。花はお祝いや感謝を象徴し、弔辞や節目の儀式にも用いられるなど、人類にとって豊かな心象と結びつくからです。だからこそ、万人に親しまれる香りであり、特に日本で最も人気があるのがフローラル ノートだと言えますね。
そして、フレグランス作りにおいては、フローラルは香りのボリュームや骨格を引き立てる要素として組み合わせることが常識のようになっています。例えばウッディ ノートやシトラス ノートであっても、主役となる香りの印象を強めるサブとしてフローラルな香料が入っていることが非常に多いんです。香りの説明でウッディ ローズやシトラス ネロリとあれば、ローズの側面を持つウッディな香り、ネロリが寄り添うシトラスの香り、ということになります。
──確かに、“香りの経験”で考えると、フレグランスはつけなくても花の香りの記憶がある人は多そうです。
さらに余談ですが、日本ではサボン系の香りが根強い人気を持っていますよね。あれも実は広義の意味ではフローラル ノートなんですよ。
──え!そうなんですか?
サボンの香りは、清潔になったフィーリングを長引かせるような概念からきているので、石けんの残り香のように優しい心地よさがありますよね。実は日本人の記憶に根付いている“石けんの香り”のほとんどは、フローラル ノートなんです。ですから、サボン系の香りは、ある意味フローラル ノートとも考えられます。
プチ・メモ
なぜ「サボン」表記が一般的になったのかは、各社のマーケティングによる影響が大きい。石けんの香りに対するパブリックイメージから、より親近感、心地よさを訴求するために「サボンの香り」と表現するブランド・メーカーが多いため、日本ではサボンの香りが広く認知されている。
──それだけフローラル ノートは私たちにとって身近だということなんですね。フローラルな香りをまとうことで、どんな雰囲気を演出できるのでしょうか。
よく言われるのは、「優しい」「華やか」「エレガント」などです。これらを総合的に捉えて、「フェミニニティ(女性らしい)」なイメージを与えてくれというのが、フレグランスの世界での共通認識ですね。ですから例えば、深みのあるクールな香りに、少しフローラルを足して柔らかな雰囲気にしようとか、ジューシーでアクティブだけどエレガントな世界観にまとめたいとか考えた時にフローラル ノートを組み合わせる。こんな感じでフローラル ノートの汎用性はとても高いんですね。
──フローラル ノートを生み出す、三大香料を挙げるとするなら何でしょうか。
まずはなんと言ってもローズですね。そしてジャスミン。この2つは二大花香(かこう)と呼ばれます。そこにミュゲ(スズラン)を加えて、三大フローラルということが多いです。
ローズやジャスミンから得られる天然香料の量はとても少ないですし、抽出方法や産地、抽出部位によっても香りのニュアンスが異なります。また、ミュゲも重要なフローラルの要素なのですが、花から採油されていないため、調合によって再現されてます。このようなことから、まさにアコード作りが調香師の技が光る部分なんです。画家が絵を描く時、キャンバスや絵の具選びにも心血を注ぐように、調香師も香料選びや組み合わせ方に神経を尖らせるんですね。
プチ・メモ
スズランはフレグランス界では「ミュゲ(フランス語)」と呼ばれることが多い。英語では、「リリー オブ ザ バレー」と呼ぶことも。これはスズランの花が谷間に原生することに由来する。また、学名では「Convallaria majalis」と表、これはラテン語の「Convallaria(谷)」と「majalis(5月に花が咲く)」という意味からきている。
──歴史的に外せないフローラル ノートの香りには何が挙げられますか?
1800年ごろに誕生した「フローリス(FLORIS)」の「ホワイトローズ」は革新的なものだったのではないでしょうか。それまでは、シトラスタイプのオーデコロンやオリエンタルな要素が強いアニマリックな香りが主流であった中で、現存する女性らしいフローラル ノートのフレグランスの中でかなり古い香りです。かつては「ナイチンゲールに捧げられた香り」と言われ、私もロンドンの本店で彼女からのお礼状を見たことがあります。そして「シングルフローラル」でもあって、香料は複数使っているのですが、ホワイトローズという単一のイメージを表現した香りです。

フローリス「FL ホワイトローズ オードトワレ」
その後、1912年に「ウビガン(Houbigant)」が発売した「ケルク フルール ロリジナル」は、世界初のマルチフローラルブーケの香りだと言われています。ホワイトローズが単一の香りを表現したことに対して、こちらは文字通り「花束の香り」として花のさまざまな側面を表現した香りとして登場しました。

ウビガン「ケルク フルール ロリジナル」
そして1921年に誕生したのが「シャネル(CHANEL)」の「シャネル N°5」。近代フレグランスを語る上で合成香料は、天然香料や天然を模したアコードだけでは醸し出せない雰囲気を生み出しましたし、シャネル N°5で言えばアルデヒドを組み合わせることで、肌に寄り添うような花の香り立ちを叶えました。「女性そのものの香り」を目指したと言われる通り、フローラルであり、女性が持つ魅力を引き立てるような香りとして爆発的な人気を得て、今もなお話題に上がるロングセラーですね。

シャネル「シャネル N°5 オードゥ パルファム」©︎CHANEL
最近の気になるフローラルノートの香りは?








ラルチザン パフューマー(L'ARTISAN PARFUMEUR)「メモワール ド ローズ オードパルファム」:上品なローズの香りを主役に、マンダリンの爽やかさを加え、軽やかな香り立ちに。時間が経つとラルチザン パフューマーらしい深みのあるローズが顔をのぞかせる。思い出に残っているような、忘れられないようなローズの魅力的な香り
最終更新日:
(企画・編集:平原麻菜実)
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