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元五輪代表アルペンスキー選手、石井智也のセカンドキャリア ゴールドウイン社員としてアスリートを支える現在地

Video by: FASHIONSNAP

 2018年、平昌(ピョンチャン)オリンピックのアルペンスキー男子大回転に日本代表として出場した石井智也さん。2022年をもって選手を引退し、新たな道に選んだのは、用具サプライヤーとして自身を支えてきたゴールドウインの社員として働くことだった。選手経験を生かし、現在はミラノ・コルティナオリンピック男子デュアルモーグルで銀メダルに輝いた、堀島行真選手らのサポート業務を主に担当している。選手時代の力強い滑りとは対照的に、静かに、自省的に話す姿が印象的な石井さんに聞いた。

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元アルペンスキー日本代表でゴールドウインで働く石井智也さんのポートレート

石井智也/ゴールドウイン ゴールドウインマーケティング部
(いしい ともや)1989年生まれ、北海道出身。幼少期からアルペンスキーを始め、数々のタイトルを残す。2018年平昌冬季オリンピック日本代表に選出され、アルペンスキー男子大回転に出場し30位。2022年2月、北京冬季五輪の代表選考決定後に現役を引退。同年6月にゴールドウインに入社、営業部門を経て現職。

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◾️ゴールドウインとは
 1950年に富山県で創業した日本のスポーツウェアメーカーで、ウィンタースポーツとは縁が深い。現在は「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」の日韓での商標権を持つほか、自社ブランド「ゴールドウイン(Goldwin)」やノルウェー発アウトドアブランド「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」などを手掛ける。

ゴールドウインスキークラブ所属で戦った平昌冬季五輪

 石井さんがゴールドウインに入社したのは2022年の6月。長らく競技に打ち込んできたアスリートが、引退後に燃え尽きてしまうという話はよく聞くが、「僕もまさにそんな感じでした。ゴールドウインに誘っていただいたときも、正直まだ選手としての気持ちが残っていて、すぐに『セカンドキャリアとしてこういうことがやりたい』と言えるような状況ではなかった」。でも、「今までサポートしてもらってきたことへの感謝は大きかったし、恩返しがしたいという思いは強く、入社を決めました」。

 石井さんとゴールドウインとの関わりは、2016年のサポート契約から。当時の石井さんはケガの影響もあり、目標とする成績に届かずにもがいていたという。武者修行のように単身オーストリアに渡り、現地のレーシングチームに参加して研鑽(さん)を重ねる中で、成績向上のための選択肢として用具の変更を考えていた。

 そこで浮上したのが、ゴールドウインが扱うスキー板の「フィッシャー(FISCHER)」だった。スタートの順番が遅く(※アルペンスキー競技は上位の選手から順にスタートする)、荒れたコースを滑ることが多かった自身の滑り方に「フィッシャーの板は合っている」と感じたのだという。以前使用していた用具メーカーの担当者がゴールドウインに移っていたという縁もあった。同じタイミングで、ウェアも「ゴールドウイン(Goldwin)」を着用することになり、ゴールドウインスキークラブ所属選手となった。

2018年平昌冬季オリンピック男子大回転での滑走中の石井さんの画像

2018年平昌冬季オリンピック男子大回転で滑走中の石井さん。スキー板とブーツはゴールドウインが扱う「フィッシャー」を着用。

Image by: picture alliance

 フィクションなら、ここからトントン拍子で調子が上がっていく。しかし現実はそう甘くない。用具を変更したシーズンに再びケガに見舞われ、1年間のリハビリを余儀なくされた。苦しい状況を乗り越えて、復帰シーズンの全日本選手権では勝利を飾る。平昌オリンピック開幕を2ヶ月後に控えたこの大会は、優勝者が代表に内定するという特別な意味を持っていた。当時、年齢制限などからナショナルチームを外れていた石井さんが、ナショナルチームの外から日本で1枠のオリンピック代表をつかみ取った瞬間だった。

 迎えた夢の舞台の平昌オリンピックは、楽しむというよりも、結果を出すことだけに集中する極限状態だったという。選手村には娯楽施設などもあるが、期間中は脇目も振らずに練習場と自室を往復。「今振り返ると、世界のトップアスリートが集う舞台をもっと楽しんでおけばよかったです。ただ、オリンピックに限らず、1試合1試合、いつでもそれが自分にとって最後のレースのつもりで臨んでいました。選手は結果が全て。結果を出すことがサポートしてくださる方々への一番の恩返しですし、結果が出ないなら続けられない」。

初めての会社員生活、選手時代と同様に「実直にやり続ける」

石井さんが制作を担当した「ゴールドウイン」2025-26年のスキーウェアカタログの画像

石井さんが制作を担当した「ゴールドウイン」2025-26年のスキーウェアカタログ

Image by: FASHIONSNAP

 平昌の後も北京オリンピックを目指して、1シーズン1シーズン地道に練習を積み重ねた。しかし、2022年1月のレースでオリンピック内定を逃し、選手引退を決意。長らく拠点にしてきたオーストリア・インスブルックのアパートを急遽引き払って帰国し、目標を見失ってしばらく「ぼうっとしていた」石井さんのもとに、冒頭のようにゴールドウインから入社の打診があったのだという。

 気持ちの整理が完全についたとは言えない中でスタートした会社員生活だが、始まったらそんな悠長なことも言っていられない。1年目は仕事の基本を覚えるようにと営業部に配属され、2年目に、現在も所属するゴールドウインブランドのマーケティング部に異動。「社会人の経験が全くなかったので、毎日必死に勉強しています。パソコンの操作から始まり、仕事をする上で何が当たり前で何がそうでないのかすら分からない。期日が迫る中、誰に何を聞けばいいのかも分からず時間が過ぎていくことに、焦ることもよくありました」。それでも、選手時代と同じく、「実直に自分のやるべきことをやり続ける」ことで社内外と信頼関係を結んできた。元オリンピアンとして、スキー業界に強固なネットワークがあるのも石井さんならではの強みだ。

 現在、石井さんがマーケティング部で担当する業務は多岐にわたる。次シーズンのスキーウェアのカタログ撮影では、モデルとなるアスリートのスケジュール調整から制作会社とのやり取りまで担当。かつては撮影される側だったが、2025-26年シーズンのカタログは、使用する写真の選定も担った。

 また、ジュニア選手の育成・発掘も注力している仕事の一つ。全国大会の会場に足を運び、才能ある若手選手に声をかけ、用具サポートなどを行うゴールドウインの「アスリートサポートプログラム」への登録を促す。自身がかつて佐々木明選手に憧れてオリンピックやワールドカップの表彰台を目指したように、子どもたちがトップ選手と触れ合うイベントを企画し、スキーの普及にも貢献している。

「孤独なアスリートを支えたい」、元選手だからできること

ゴールドウインがスキーモーグル日本代表選手団に提供したウェアについて説明する石井さんの画像
ゴールドウインがスキーモーグル日本代表選手団に提供したウェアについて説明する石井さんの画像
ゴールドウインがスキーモーグル日本代表選手団に提供したウェアの画像

ゴールドウインが堀島行真選手らに提供したウェアについて説明する石井さん

Image by: FASHIONSNAP

 業務の中で特に力を割いているのが、契約アスリートとの製品開発だ。特に、ゴールドウインがミラノ・コルティナオリンピックの日本チームのウェアのサプライヤーを務めているモーグル競技では、第一人者である堀島行真選手らと密に連携し、フィードバックを収集。それを企画開発チームに繋ぎ、より競技パフォーマンスを高めるための改良を重ねている。「モーグルはジャッジのスポーツなので、ミスはより少なく、いいところはより際立って見えるデザインがウェアにも求められます」。選手の声を生かして、膝や脇部分の配色の切り替えを変更し、足がより長く見えるデザインも追求。モーグル日本チームはミラノ・コルティナで、堀島選手がデュアルモーグルで銀メダル、モーグルで銅メダルを見事獲得した。

 社内でインタビューやポートレート撮影をしていると、同僚たちから次々と声を掛けられる石井さん。「仕事が楽しそうですね、充実していますね」と話を振ると、少し考えこんで「仕事は楽しいですか?」と聞き返されてしまった。「あのころのスキー以上に熱中できることは、正直今も無いんです」と、とつとつと話す。ただ、「堀島さんをはじめ、アスリートは決してそうなふうには見せないですけど、孤独なんですよね。僕自身、選手時代に多くの方にサポートしていただきましたが、スタートラインに立ったらゴールするまでは自分一人です。孤独の中で戦っている選手たちを、少しでも後ろから支えられるようなことができたらと思って日々取り組んでいます。彼らと近しい世界を目指していた自分だからこそ、声の掛け方1つにしてもできることがあると思う」。

 フィールド研修として、社内メンバーでアクティビティを楽しむ機会があるのはゴールドウイン社の特色の一つ。昨年は、マーケティング部のフィールド研修でスキーに行き、石井さんがコーチ役を務めた。「それまでは同じマーケティング部内でもファッション領域の人とはあまりやり取りがなかったんですが、研修をきっかけによりスムーズにコミュニケーションが取れるようになりました。皆さん『楽しかった、また行こう』と言ってくれて、自分が大好きなスポーツについてそんなふうに言ってもらえることがとても嬉しかった。僕自身も、競技ではないスキーの楽しみ方を教えてもらっています」。

 世界を相手に戦ってきた元オリンピアンだが、会社員としてはまだピカピカの3年生。セカンドキャリアは始まったばかりだ。

ゴールドウインで働く石井智也さんのポートレート画像

「ゴールドウイン」のプレスルームで

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FASHIONSNAP ディレクター

五十君花実

Hanami Isogimi

1983年愛知県出身、早稲田大学政治経済学部卒。繊研新聞記者、WWDJAPAN副編集長、編集委員を経て、25年10月から現職。山スキー、登山、ラン、SUPを愛するアウトドア派。ビジネスからクリエイション、ライフスタイルまで、多様な切り口でファッションを取材。音声、動画、コミュニティーなど、活字以外のアウトプットも模索中。

最終更新日:

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