「グッチ」Epilogueコレクションのストリーミング画面
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グッチ3部作の最終章"Epilogue"にミケーレの愛の深さを見る アトリエスタッフがモデルに

「グッチ」Epilogueコレクションのストリーミング画面
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 ミラノ・デジタル・ファッションウィーク最終日の7月17日、「グッチ(GUCCI)」は2021年リゾートコレクション"Epilogue"をオンラインで発表した。2月にミラノで発表した2020年秋冬コレクション、5月に発表した2020年秋冬広告キャンペーンに次ぐ3部作の最終章の位置付けで、普段は裏方のグッチのデザインチームで働く面々がモデルを務めた。この主客転倒とも言えるプレゼンテーションにミケーレが込めた意図を探ってみよう。

(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎

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 ロックダウン直前の2月のミラノで発表した2020年秋冬コレクションで、アレッサンドロ・ミケーレはファッションショーの"舞台裏"に焦点を当てた。ランウェイに登場する前の準備の場面を公衆の面前で見せる、というもので、デザイナーやスタイリストはグレーのシングル5つボタンのミニマルなスーツを着て、黙々と作業をこなしていた。

Epilogueコレクションの配信画面

 ミケーレは今回、そんな黒子役のデザインチームのデザイナーたちをモデルとして表に出すというユニークな試みに挑んだ。12時間にわたって配信されたのは、Epilogueコレクションのキャンペーン撮影の舞台裏。普段はモデルを飾り立てる側のデザイナーがモデルとなり、ヘアメイクを施されてカメラの前に立つ――。この奇抜な試みのハイライトは、インスタグラムなどで配信された約20分間のビデオアート作品。次々と登場するルックを、ミケーレが自ら解説するという贅沢な時間だった。

 デザイナーの国籍、年齢はバラバラで、白人も黒人もアジア人もいる。何人かはモデル並の体型の人もいるけれど、ほとんどは普通の一般人体型。なのに、みんなグッチの服が驚くほど似合っている。ミケーレのグッチは着る人を選ぶと思われがちだが、意外と誰にでも似合うのかもしれない。意外な発見だった。ミケーレはEpilogueコレクションに込めた意図を、以下のように説明する。

「グッチ」2020-21年秋冬ウィメンズコレクション(Image by: Dan Lecca)

 「2月の2020年秋冬コレクションでは、ファッションショーという魔法のような儀式を祝福したいと考えた。ファッションショーは自らのクリエイティブな思考を発表し、自由な視点を持つ観客たちの解釈に委ねることで成立する。そのカーテンの裏側にあるものを明らかにしたかったんだ。5月の広告キャンペーンでは、こちらから指示をせずにモデルにイメージ作りを委ねることで、予測不可能で不完全な美しさが現れるという実験を行なった。今回の最終章では、立つべき場所を反転させることで、クリエイティブな行為がエキシビションの実践となり、内面が外面に映し出され、見えないものが形になると考えたんだ。私はこの三部作によって、今のファッションの世界が守り続けているルール、役割、そして機能への疑問を呼び起こしたいと思っている」

 コレクションの細部を観察してみよう。まず気がつくのは、ミケーレならではの華やかさが復活していることだ。こんなに色彩豊かなグッチは久しぶりかもしれない。ウィメンズのドレスはカラフルなフラワー柄が中心で、往年のフラワーチルドレンを連想させる。メンズでは素肌にファーのベスト、カットオフしたデニムのショーツなんていうヒッピー色全開なルックもある。他のブランドを含めてヒッピー的な提案が増えているのは、今の人々の自然回帰、サステナブルな生活への憧憬をデザイナーが機敏に感じているからだろう。

 メンズのアイテムも70年代風のものが多い。ポリエステルと思われるクリースの入ったフレアシルエットのトラウザーは、往年の刑事映画で悪役が穿いていそうな雰囲気。それに合わせるスキージャケットは、タイトで着丈も短い。グリーンのGG柄のスリーピースのパンツは、クロップド丈のフレアで股上が極端に短い。2000年代中盤に流行した典型的なローライズで、ゼロ年代も回顧ソースの段階に入ってきていることを感じさせる提案だ。花柄のセットアップにカットオフしたジージャンをスギちゃん風に合わせたルックも、日本人的には少し懐かしさを感じる。

 ミケーレお得意のキャラクター物は、ドナルドダックとドラえもんとのコラボレーションが登場。バッグにプリントされたドラえもんは、どこかへ行きたくても行けないコロナ禍のシンボルとして理想的な選択だ。きっとミケーレも「どこでもドアがあったらなぁ」って思っているはず(?)だし、未来への希望としてこれほどふさわしい存在はないと思うのだ。

 デザインチームのデザイナーをモデルに起用したのを見て、私はミケーレのファーストコレクションのフィナーレを思い出した。フリーダ・ジャンニーニの辞任の後を受けて、わずか数週間で作ったという2015年秋冬コレクション。最後の挨拶はデザインチーム全員で出てきて、それから皆に促されて照れくさそうに手を挙げるミケーレ。当時も今も内部昇格は異例だったし、最初からスターデザイナーではなくチームの一員だったからこそ、こういう発想が生まれるのだろう。おそらく出たくなかったデザイナーもいるだろうけれど、ミケーレの愛の深さ(グッチとグッチを作る人とグッチを着る人への)を感じずにはいられなかった。

文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧

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