Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)
忙しい現代社会で、あなたの心を豊かにするものは何だろう。
ある人にとっては、大切な人たちと過ごす賑やかな時間や、散歩やキャンプで自然に触れて深呼吸するひととき。あるいは、一杯のお茶やコーヒーを丁寧に淹れてリラックスする時間、映画や本を通して新しい価値観に出合う瞬間かもしれない。
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「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」のデザイナー、村田晴信にとって、それは料理だった。
青山のマーケットで吟味して選んだ上質なトマトで、丁寧にパスタを作る。そんな日常の営みのなかに、彼は「本質的な豊かさ」を見出した。「本当に必要なものはそれほど多くない。エッセンシャルなものを愛でる気持ちがあれば、人生は驚くほど豊かになる。そうした気遣いこそが、ラグジュアリーの本質なのだと思う」と語る。
都会に生きる自然を愛する女性像

ハルノブムラタに加え、今年始動した新ブランド「アルノ(ARNO)」、そしてユニクロを擁するファーストリテーリング傘下「プラステ(PLST)」のウィメンズ クリエイティブディレクター就任と、多忙を極める村田。しかし、その日常の中で、料理のように創造する行為こそが彼の心を潤している。
こうした「本質的な豊かさ」への想いを込めて、2026年春夏コレクションで描いたのが、"自然を愛し、日常の豊かさを感じながら都市を軽やかに歩く女性像"だ。

会場は、近未来的なテレコムセンターのテレコムアリーナ。高さ37メートルの天井をもつ広大な空間に、人工の滝をイメージしたスモークが流れる。都会的な空間で光や水、霧といった自然の要素を用いたインスタレーションで知られる芸術家オラファー・エリアソンへのオマージュで、「自然の要素と都市の要素の融合」をテーマに、自然の壮大さに触れた時の感覚を再現している。
やわらかなスモークが漂う中、モデルたちがランウェイへと歩み出した。
自然界の美しさを日常着に融合

ファーストルックに登場したシアードレスは、極薄のオーガンジーを50枚重ねて裾にかけて徐々に枚数を減らし、霧のようなグラデーションを描いたもの。谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」で謳われた光と陰翳の調和が織りなす日本的な美学にヒントを得たという。

このように自然界の美しさを思わせるディテールが随所に散りばめられた。長いフリンジをあしらったトップスとテンセルカシミヤのスウェットパンツのレイヤードは、岩間を流れる水をイメージしたもの。上質な素材と日常的なアイテムの組み合わせが、「自然と都市の融合」を体現していた。
デニムと西陣織での新たな挑戦

ブランド初となるデニムも、力強い存在感を放っていた。カジュアルな日常着の象徴ともいえる素材を、ハルノブムラタならではの美学でエレガントに仕上げている。ボリューミーなスモッキングが印象的なミニドレスは、1着につき20時間以上という膨大な時間をかけて手作業で施されたもの。丁寧な洗い加工によって柔らかく表情を変えた生地は、品よく心地よい風合いを見せている。

西陣織を使ったスカートは今季のスペシャルピース。京都で百年の歴史を持つ織元、職楽浅野との協力で制作され、帯の織りの裏面に隠れた偶然の美しさに着目したという。銀の裏糸が走る景色を水の流れに見立て、枯山水のような表現をモダンな印象を目指した。
充実するアクセサリー


ハルノブムラタにはすでにアイコンとなるバッグやシューズが揃っているが、今季も新作が加わり、ラインナップがさらに充実した。形を変えられるバケットバッグや、引き絞ることで表情を変えるトートバッグなど、機能性と美しさを両立させた新作が登場している。ヒールシューズやサンダルも新たに提案され、全身のトータルコーディネートによってブランドの世界観がより鮮明に表現されている。

氷柱のように透明なビーズを立体的にあしらったサングラスや、同様に大ぶりのビーズを用いたネックレスやイヤリングが、スタイリングの印象的なアクセントとなっていた。
未来を見据えた確かな歩み

総じて、日常の中にある「本質的な豊かさ」がコレクションを通して巧みに体現されていた。一見エフォートレスな佇まいでありながらも、実際にはストイックで、美しさへのこだわりが色濃く表れた、村田らしさが際立っていた。
プラステではよりマス層に向けた洗練された通勤着を提案し、アルノではハルノブムラタよりも手に取りやすいエッセンシャルを届ける。そしてハルノブムラタでは、村田がかねてから追求する“日本発のラグジュアリーブランド”としての世界観を突き詰め、グローバル展開を見据える。
それぞれのブランドで彼のクリエイションは確かな方向性を示し、着実に理想へと歩みを進めている。

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