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子どもの成長と思い出を紡ぐ服 「ハウス オン ザ ヒル」が支持されるまで

聞き手&文伊藤真帆

 オンラインでの新作発売時には即完売となり、入手困難とも言われるベビー・キッズ服ブランド「ハウス オン ザ ヒル(House on the Hill)」。ジュエリーデザイナーから子ども服の世界へ飛び込んだ渡邊みなみの独自の感性が光るデザインとオリジナルプリントテキスタイルが好評を集め、ファーストコレクションから愛用するリピーターも数多く抱えている。同ブランドを立ち上げた背景には、「手頃な価格でデザイン性の高い国内ブランドが少ない」という自身の育児体験があった。

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■渡邊みなみ
1995年生まれ。体育大学卒業後の2018年、ジュエリーブランド「ミナミジュエリー(MINAMI JEWERLY)」を設立。2023年8月にキッズ・ベビー服ブランド「ハウス オン ザ ヒル(House on the Hill)」を立ち上げた。4歳と2歳の母でもある。

ダンス作品の創作経験をベビー・キッズ服に

⎯⎯ジュエリーブランド「ミナミジュエリー(MINAMI JEWELRY)」でも支持を集めるみなみさん。以前よりベビー・キッズ服を作りたいという思いはありましたか。

 子どもが生まれるまでは子ども服に特別な興味はなく、自分で手に取ることもほとんどありませんでした。でも、娘が生まれて初めてお店にベビー服を買いに行った時、その小さくて優しくて愛らしい世界に魅了されました。一方で、自分が可愛いなと思うデザインと価格のバランスを兼ね備えた服になかなか出会えませんでした。それなら自分で作ってみようと、そんな思いから立ち上げたのが「ハウス オン ザ ヒル」です。

⎯⎯具体的に、どのような部分が物足りなかったのでしょうか。

 海外の服だと高価なものが多く、頑張りすぎて買うと子どもに着せながら「汚さないで」と気になってしまう。汚れても洗えばいいかと思えるくらいで、かつデザインも自分の納得のいくものが欲しかったんです。

⎯⎯小さい頃からファッションは好きでしたか。

 ファッションが好きになったのは大学生くらいからで、小さい頃は服が好きというよりは、絵を描いたり工作をしたり、美術の時間が大好きでした。なので、ファッションデザインに関してはほとんど独学です。

手元

取材日はミナミジュエリーのアイテムも着用。新作をイメージしてネイルもデザインを合わせた。

⎯⎯学生時代の専攻は?

 体育大学では主にコンテンポラリーダンスについて勉強していました。“人に伝える踊り”として世界観を表現するためには、振り付けだけでは不十分だということに気がつき、演出を考える中から、踊りを取り巻く“空間全体でとらえる”という視点が育まれたように思います。大学には才能あるダンサーがたくさんいたので、私は踊り手ではなく、そのダンサーが輝ける舞台を作り上げることに魅力を感じているのだと気付きました。自分の創造する世界を現実に形として表現する方法が、私にとってはジュエリーであり、子ども服でした。商品をデザインし、展示し、空間まで含めて世界観を演出するということは、ダンス作品をつくっていた頃と繋がっている気がします。

⎯⎯ブランド名の由来を教えてください。

 物語を読みながらお客さまそれぞれが世界観に少しずつ入っていけるように、ブランドのコンセプトストーリーを作っていて、「丘の上に建っているお家」が舞台の空想の物語なんです。読み進めるうちに、私のブランドに込めた想いが少しずつ伝わるような、やさしい物語です。

 ブランドを立ち上げる際、最初に考えたのは「どんな風景の中で着ている服か」ということで。田舎の自然に囲まれた丘の上にポツンと立つようなお家の中で着ている姿を想像して、「House on the Hill」というブランド名にしました。

House on the Hill コンセプトストーリー(公式サイトより)

 助手席からの眺めは、緑が濃く深くなっていき、気づけば見慣れた景色に変わっていった。泣きはらした末にようやく眠りに就いた娘の頬は上気し、まるい頬には涙の跡が残っていた。⻑時間車に揺られ全身をすっぽりと覆っていた疲労はゆるやかに安堵へと変わり「母」でもなく「妻」でもない、娘だった頃の「自分」へとかえってゆく。

 勾配を登りきって景色がひらけたその先。空がより一層近く碧い場所。生まれ育った家と母が私たちを出迎える。

 みずみずしいほどの緑、走ってきた⻑い砂利道を見下ろし、清澄な空気をたっぷり吸い込んでからゆっくりと家に入っていく。

 午後の日差しが柔らかく振り注ぐ出窓、使い込んだホーローの鍋、相変わらず軋んだ音を立てる重いドアを開けると、 馴染み深いいつもの日常が広がっていた。知らず知らずのうちにピンと張りつめたものが次第に緩んでいき、帰ってきたこと、帰る場所がある事実に胸を撫で下ろす。

 母の柔らかい笑顔と馴染み深い料理の香りに温かな気持ちになったのも束の間、以前よりも骨張った手、キッチンに立つ丸くなった背中を見つめ、少しの寂しさに囚われなんとなく声をかけられなくなってしまった。母は何かを見据えたようパッと振り向き「そう、忘れないうちにね」と小⻨粉をはたきながら階段を登っていった。エンジンを切った途端に目を覚まし、すっかり機嫌と気力を取り戻した娘は家中を駆け回り、母を追いかけ階段を登り、その後ろから私も母と娘を追いかける。

 思い切って帰省を決めた際、自分が幼い頃に着ていた服はあるのか母に聞いてみた。淡い期待を寄せながらも「でももう20年以上も前だし」「娘のサイズには合わないかもしれないし」「まあなくてもしょうがないよね」と断られる前に自分を慰めていると、母から「用意しておくね」とだけすぐに返事が返ってきた。

 湿度を帯びた屋根裏に上がると、母は小さなワンピースを両手で差し出した。使用感はあるけれど手入れが行き届き、母が大切にしてきたことが目に見えて伝わる。幾度となく季節が巡り、子供の成⻑と嗜好の変化と共に何度も入れ替わったタンスの洋服。それでもずっと変わらず大切にされ続けた小さなワンピース。母は幼少期の洋服だけを保存していたわけではない。その切なる思いに触れて、気が緩むと涙がこぼれそうだった。

 気まぐれな好奇心を向けた娘に合わせると袖はまだ⻑いものの、着丈はぴったりで娘にもよく似合っていた。空腹に気付きあっという間に不機嫌になった娘を先頭に、すっかり祖母になった母、小さなワンピースを胸に抱えた私の順番でゆっくりと階段を降りる。

 鼻歌混じりの母は再びキッチンに立ち、穏やかな日差しと料理の香りに包まれた一階に再び少しの喧騒が戻る。

 午後が、賑やかに動き出す。

Text by Yume Inagaki

⎯⎯ストーリーにはみなみさん自身の実体験も反映されているのでしょうか。

 私が子どもの頃、新体操教室で着ていたレオタードを母がずっと取っておいてくれたという思い出があって。私も同じように娘の服を残しておいて、いつか娘が結婚して孫が生まれた時に渡せたら素敵だなと。そんな私の実体験と、子どもと過ごしたかけがえのない思い出を服とともに残せるような、一着を届けたいという想いが重なり、あの物語になりました。

⎯⎯クラシカルであたたかい雰囲気がブランドの魅力です。インスピレーションはどのようなところから得ているのでしょうか。

 私自身、ヴィンテージの服が好きということもあり、その雰囲気が自然とデザインにも反映されているのだと思います。普段から自分の直感を大切にしていて、「このパターンならこの配色が気分かな」「この生地の色だったらこの刺繍の色がいい」と、感覚的にパッと決まることが多いですね。小さい頃はおもちゃで遊ぶよりも、裸足で外に出て草花を摘んで画用紙に貼る、みたいな思いのままの遊びが好きだったと母から聞いたことがあるので、今も昔と変わらず同じような感覚でものづくりをしているのかもしれません。

インタビューカット

4歳の娘もハウス オン ザ ヒルの服を着るという。「キャラクターものも好きですが、私が作ったというのをすごく理解してくれていて、喜んで着てくれるんですよ」。

⎯⎯目を引くテキスタイルデザインもブランドのアイコンになっています。

 プリント生地はまず下地になる生地を染めて、上から描いたものをプリントをするという形で、すべてオリジナルで作っています。もともとアパレル関係の繋がりはなかったので、工場は全部一から自分たちで開拓しました。

⎯⎯デザインはみなみさんが一人で考案しているのでしょうか。

 現在は私を含めた2人体制で行っています。1人は主に、生地にプリントするテキスタイルのイラストを描いており、2人で何度も相談を重ねながら、時間をかけて形にしています。

ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子
ポップアップ会場の様子

6月に開催したポップアップの会場。什器も一からデザインした。

⎯⎯6月には2年ぶりとなるポップアップを開催。

 (第2子の)息子が生まれてすぐの頃に、恵比寿でポップアップを開催したのを最後に、しばらくはオンライン販売のみでやらせていただいていました。現在は息子を保育園に預けられるようになり、制作時間も確保できるようになったため、今回久しぶりにポップアップを開催しました。お客さまに直接手に取ってもらいながらその瞬間の表情や言葉に触れられることは、ものづくりを続ける上でとても大切な時間だと改めて感じました。ブランドを立ち上げた頃から、ただ服を販売するだけではなく、ブランドの世界観を空間全体で表現し、実際に体感していただける場をつくりたいという気持ちは、ずっと変わらずに持ち続けてきました。今回もたくさんの方に足を運んでいただき、その世界観を共有できたことが本当に嬉しかったです。

⎯⎯新作となった2026年春夏コレクションは、前回のポップアップから約2倍の22型を販売。特に好評だったアイテムを教えてください。

 ワンピースですね。ファーストコレクションのデザインを少しずつ改良して、生地から見直し、裾の幅の部分や首のネックラインなども調節しました。ファーストコレクションから見てくださっているお客さまが、またサイズを変えて新しく買ってくださって、「サイズアウトするまでたくさん着せます」と言ってくださる方もすごく多くて。離れずにずっと見てくださっていて嬉しいなと思います。

 テキスタイルでは傘柄が一番人気かもしれないですね。曇りや雨の日が続くどんよりした雰囲気でも、子どもに着せることでハッピーな気分になれるアイテムを出したく、ポップアップを開催するのも梅雨入りくらいの時期でちょうど良いと思って作ったのですが、本当にジャストくらいなタイミングになりました。

ワンピース
傘柄のアイテム

⎯⎯リピーターの方も多そうですね。

 オンラインでの販売では、感覚的には2人に1人はリピートしてくださっている感じがします。

⎯⎯どのようなところに支持されていると感じていますか。

 育児の励みになっていると言ってくださることが多いです。もちろん、可愛い服を子どもに着させて、お出かけを楽しむという喜びは大前提としてあると思います。でも、それだけではなく心身ともに大変な時期に気持ちが明るくなる服に触れることができる。そこが一番の源になっているとお話ししてくださっていて。大切な我が子が可愛い服を身にまとっている姿を見ることは、母親にとって本当に幸せなことだと思います。子ども服には、そんな幸せを届けられる力があるのだと感じています。

⎯⎯親子でリンクコーディネートができるのもブランドの魅力の一つですよね。

 同柄を使った大人向けのアパレルもご好評いただいていますね。どうしても子どもといると服が汚れがちなので、イージーケアで気軽に洗えるように作っています。私自身、お揃いにして歩きたいという希望はそこまでなかったんですけど、作ってみたらすごく嬉しくて。ストレスにならずに可愛いデザインを一緒に楽しめることを意識しています。

インタビューカット

取材日に渡邊が着用した服もすべてハウス オン ザ ヒルのもの。(カーディガンは私物)

⎯⎯女の子向けのブランドイメージが強いですが、男の子向けのデザインを求めるお客さまも多いですか。

 多いですね。男の子の服だと売り場にあるのが、乗り物や恐竜といった男の子をイメージするモチーフ柄のものばかりなので、「男の子の服で可愛いものがないなと思っていた中で見つけられて嬉しかった」と言ってくださったりします。私自身、第1子が女の子だったこともあり、自然と女の子よりのデザインが多くなってしまいましたが、第2子が男の子だったことで、今回はシャツを作りました。自分が実際に体験してみないと分からないことがたくさんありますよね。

⎯⎯7月27日には初のサマーコレクションを発売。

 今回はポップアップストアは開催せず、オンライン販売のみとなるのですが、女の子だったらキャミソール、男の子はシンプルなTシャツ、赤ちゃんにはノースリーブの一体型のロンパースなど。夏らしい明るい気分になる柄を3種類と、タオルとスタイを2種類を販売する予定です。

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Image by: House on the Hill

法人化で次のステージへ 常設店出店も視野に

⎯⎯約1年前にはハウス オン ザ ヒルとミナミジュエリーの運営会社「ワム」を設立。経営体制を強化しています。

 社名の「ワム」は、代表で夫の渡邊朗弘(WA)と、みなみ(M)、2人のイニシャルを組み合わせた造語です。私は経営などの難しい部分は苦手で、代表は夫に、経理は夫の母にお願いして、引き続きデザインに専念しています。家族や友人に助けられて今生きているブランドです。

⎯⎯今後控えているイベントや新作について教えてください。

 ハウス オン ザ ヒルの方で、来年に向けてレギュラーの春夏、秋冬以外にもいくつかニュースを準備していきたいと思っています。中長期的には常設店舗を出店することを大きな目標としてみんなと共有しています。ブランドの成長スピードとして、大量に卸売をしていくことは考えていません。

⎯⎯最後に、みなみさんにとってベビー・キッズ服とはどのような存在でしょうか。

 家族との時間だったり、子どもの成長の記録のような存在です。このワンピースを広げた時に「あの時、あの場所に旅行へ行ったなあ」とか、「このぐらいの身長の時に着ていたな」とか。手に取って広げるだけで、日記や写真のようにその時の家族との思い出や記憶が蘇る。子ども服は私にとってそういう存在ですね。

イラスト

ポップアップで設けたキッズスペースには子どものイラストが。


最終更新日:

■House on the Hill 2026年サマーコレクション
販売開始:2026年7月27日(月)22:00〜
公式サイト

聞き手&文・伊藤真帆

Maho Ito

FASHIONSNAP 編集記者

東京都出身。高校時代に編集者を志し、デザインもわかる編集者を目指して美術系専門学校でグラフィックおよびウェブデザインを学ぶ。ウェブメディア「ORICON STYLE(現・ORICON NEWS)」で編集を経験後、カナダでのワーキングホリデーを経て、2014年にレコオーランドに入社。ライフスタイル領域をメインに担当後、現在はシニアエディターとしてデスク業務のほか、セレクトショップや百貨店・商業施設、ECといった小売関連企業を中心に取材。企業のトップに取材する連載「トップに聞く」を担当している。一児の母。趣味はボードゲームと謎解き。

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