インサイド

　祝賀会の会場は、ブルガリ ホテル 東京のボールルーム。テーブルにはブランドのハートロゴがあしらわれたクロスと席札、アイコンモチーフであるカモのオブジェが配置されるなど、細部にまでHUMAN MADEの世界観が息づく。乾杯で振る舞われたのは、NIGO®︎が用意したブランド創立年と同じ2010年醸造の「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2010」。10代からの繋がりだという「WTAPS」の西山徹や、90年代に「ノーウェア（NOWHERE）」をともに立ち上げた「アンダーカバー（UNDERCOVER）」の高橋盾といった今なお第一線で活躍している戦友から、HUMAN MADEのクリエイティブ・パートナーで上位株主でもあるVERDY、NIGO®︎とファレルが参画しているNOT A HOTELの濱渦伸次CEOまで、新旧およそ50人の関係者とともに祝いの一杯を味わった。　松沼礼CEOの挨拶では、NIGO®︎との運命的な出会い、そしてHUMAN MADEの経営を託された経緯が語られた。さらに、ブランドが掲げる「人間の閃きと人の手が生み出すカルチャーの芽を、漫画、アニメ、ゲームに続く日本を代表するクリエイティブ産業に育てる」というヴィジョンと、今回の上場について「日本発のライフスタイルを主としたカルチャーを永続させる、チャレンジの始まり」とする想いが共有された。世界的なクリエイターがアドバイザーや株主として名を連ねていることも、HUMAN MADEが目指すヴィジョンの真髄を物語っている。　東京証券取引所で行われた上場セレモニーでは、上下デニムにサングラスという普段通りのスタイルで出席したNIGO®︎の装いも注目を集めたが、祝賀会では中に着ていたTシャツに目が留まった。「I AM AS THE WHEEL TURNS.」とプリントされており、これはNIGO®︎と「ナイキ（NIKE）」のコラボレーションのキャンペーンでも用いられていたフレーズだ。車輪やろくろが廻るように巡りゆく運命を受け止めながら、道を切り拓き、新しい形を作ってきたNIGO®︎の半生と重なる。　会の途中、ファレルは席から立ち上がり、グラスをカトラリーで軽く鳴らして注目を集めた。静かに始まった彼の言葉に、一同が耳を傾ける。「この部屋は素晴らしいエネルギーに満ちている。NIGO®は私たちの人生を変えた。彼が一人ひとりに何かを見出してくれることで、私たちは皆変わった。彼が成し遂げたいこと、ヴィジョンが私たちを変えたのです」。　まるで詞を刻むように語り、NIGO®と集まった人々を称えた。「世界と対峙するのは私たち。グラスを掲げ、史上最高（＝the Greatest Of All Time、GOAT）のNIGO®︎に乾杯を」。　ファレルの言葉は、単なる祝辞以上の意味を持つ。NIGO®︎が築き、ファレルが共鳴し、価値観を共有するこのコミュニティは、マイノリティを貫きながら他者の評価や流行に惑わされることのない信念の形。既存の枠や常識にとらわれないスタイルを持ち、揺るぎない絆で結ばれた者たちの契りとも受け取れた。　NIGO®︎にとって、90年代に立ち上げた「ア ベイシング エイプ®︎（A BATHING APE®︎）」での功績を踏まえると、HUMAN MADEの上場は2度目の成功という偉業についても特筆しておきたい。このマイルストーンは一企業のビジネス的成功に留まらず、日本のファッションカルチャーが新たなステージに昇り詰めたことを示す、歴史的なモーメントと言える。　しかしそれでもなお、今回の慶事はNIGO®︎やファレル、そしてGOATSにとっては新たな歴史の序章にすぎないのかもしれない。「GOATS don’t associate with SHEEP」──新たな歴史は静かに始まっている。

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