2019年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP.COM

Fashion 注目コレクション

「ジェニーファックス」のアンバランスだけど"可愛い"が創造する人間像について

2019年秋冬コレクション
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 「可愛いものを作ろうと思った」と今回のコレクションについて言葉数少なく答えた台湾出身のデザイナー シュエ・ジェンファン(Shueh Jen-Fang)。「ジェニーファックス(Jenny Fax)」2019年秋冬コレクションの招待状には「I want to drink shochu in the park alone.」という言葉が添えられていたが、これは多忙な製作期間中に浮かんだ本音だそうだ。いつも剥き出しの内面や素直な感情を服を通じてぶつけてくるジェンファンのデザイン感覚から、現代のオリジナリティについて考えてみた。

 「デザインでの差別化が困難になってきた」とある若手デザイナーが話していたが、プレタポルテが誕生してから約70年、ある種の過渡期に差し掛かっている。身体を元に作られるファッションは、例えば芸術や音楽、建築など他のジャンルと比べても自由度が低いがゆえに「出尽くされた」感がある。近年台頭しているストリートファッションは、勢いこそあるもののグラフィックプリントで差異化する記号消費(ゆえにシミュラークル化する)と見ると、モードの文脈における新しさとは言い難い。需要が高まっているアウトドアブランドのように、革新性や機能性による価値創造は、クリエイションというよりはイノベーションに近いものがある。21世紀のデザインは"イメージの編集作業"という言葉があるが、ファッションにおいてストイックにオリジナルデザインを追求しようとすると、窮屈さが否めないのが現状なのだ。

 ジェニーファックスの服はいつも、そういった現代のデザイナーの苦悩とは少し異なる意味での不安や喜びなど、無垢で複雑な感情が宿っているように見える。今シーズンは繭のようなドレスにはじまり、昆虫の羽を思わせるマント、大きな襟と前掛け、少女漫画のような顔つきのフード、ボーダータイツとクリアサンダルなど。ガーリーなスカートやレースのキャミソールは脱げかかっているような着方で危うく、くせ毛のようなヘアスタイルは異様に長い。今回は毒や負の要素は控えめとはいえ「可愛い」要素は多くないが、女の子(モデル)たちがそれぞれの個性でアンバランスなスタイルを着こなし、指先に樹脂製のケーキを刺して物憂げに歩く姿を見ると、日本独特の「カワイイ」感覚を抱かせるから不思議だ。

 どのジャンルにもカテゴライズし難く、何者でもない。ジェンファンは元来マーケットをあまり意識せず、自身の内面の発露を表現とするデザイナーである。パートナーの坂部三樹郎がよく口にする「新しい人物像の創造」がデザインの目的とするなら、その曖昧さも新しい人物像やカルチャーを創るヒントになっているのだろう。ショー会場にはブランドのファンが詰め掛けていて、実際にジェニーファックスの服と心を通わせる女性が多いのも頷ける。

 前回に引き続きショーのスタイリングを担当したロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)は世界的に活躍しているが、彼女も従来のモードの美的追求とは異なる表現力を持ち合わせている異色のスタイリスト。強力な助っ人を迎えたことで、ジェニーファックスの表現がより際立っているようだ。ショー後の和やかなバックステージでジェンファンは、ロッタと肩を並べて「前回よりも楽しくできた」と小さく笑った。

■ジェニー ファックス:2019年秋冬コレクション全ルック
■ファッションウィークの最新情報:特設サイト

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