「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS)」が2021-22年秋冬パリ・コレクションを豊洲PITで発表しました、は、もうやめよう。日本語の矛盾を言っているわけではない。対話のない関係性は虚しいだけだ。
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応援団の旗振り演舞のように真っ直ぐな「不滅のロック魂」をテーマに掲げた渡辺淳弥の心意気、それを全身で受け止めるであろう全身ジュンヤ顧客、そして半永久的に遺される「追い炊き、完了しました」「目的地、周辺です」に似た響き。コレクション評で口を糊する稼業ならば、真摯なエールを返すべきである。
そんな虚無感を爆音のミリオンセラーで打ち消した、もとい、ぶっ放した"ステージ"が、2021-22年秋冬の「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン」だ。
オンラインでは体験できないライブならではの醍醐味と書くと特権意識も甚だしいが、団塊の母親世代も聴いていたであろう子守歌に乗せて、ギャルソンファミリーでは極めて異例な30分以上のエアライブ。フェイスシールドが曇るほどに内なる興奮が湧いて出た。
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「ジュンヤがデニムかロックをやると母屋が儲かる」とはよく言ったものだが、ここ数シーズンではわりと縁遠いインスピレーション源であったことは確かだ。
もともとのブランド黎明期からのオリジンは、2015年春夏パリコレで披露された異素材ミックスのフィーチャリスティック、2016年春夏の幾何学柄、2016-17年秋冬の構築的ドレスなどのエッセンス。そこに思い出したようにロックやパンクなシーズンが差し込まれる。デザイナーも人間だもの、気分なのだろうが、デニムロックなシーズンは顧客層が入れ替わるほどに爆売れする。
シカゴの『愛ある別れ』が流れた2000年代初頭の牧歌的デニムコレクションでは、パッチワークのデニムスカートが生産が追い付かないほどに売れた。認識には個人差があるだろうが、ロックを源泉としたスピンオフ「ジュンヤマン ピンク」も当時はあったはずだ。
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その「デニム」と「ロック」の核弾頭が2発、顧客歓喜即死必至の「デニムロック」にシルクのスカーフ柄が加わった今秋冬。具体的に、「不滅のロック魂」を形作る3つのスピリットは「ベルサーチ」「Levi's® 501®」「ロックTシャツ」と公式アナウンスされている。
厳密には「ヴェルサーチェ(VERSACE)」だが、これは2018年10月に日本で行なわれた表記変更から。本コレクションではそれ以前に敬意を払ったニュアンスなのかもしれない。同じ視点で、「501®」に関しても令和のスリムシルエットではなく往年の1937年、1947年、1966年、1977年モデルがモチーフである。これら細かいこだわりは世の服好きの救いになるであろう。
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ちなみに、「ベルサーチ」のスカーフを用いたコラボシリーズは「Junya Watanabe Comme des Garçons x Versace Iconic Print Project」と命名されている。着流しのコンビポンチョ、前面スカーフで背面デニムのスカート、パッチワークで刻んだスカートなど計6種あり、他はオリジナルだ。黄黒のバロッコ柄はフィーチャーされていたが、メデューサは視認できていない。
これらのデザインは異素材ミックスがお家芸である「ジュンヤ ワタナベ」の真骨頂。古着ありきのチープシックを地で行くリアルな女性像が見え隠れする。そう、決して実家が太いパンギャではない。インセンスを焚いて自力でパッチワークをするような丁寧な暮らしを背景に、ドラゴン・タトゥーの女を気取るのだ。
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言及するほどに価値が冷えそうだが、争奪戦が繰り広げられそうなロックTシャツに集いし猛者は「Aerosmith」「Queen」「The Who」「KISS」「Def Leppard」「Sex Pistols」「AC/DC」「Black Sabbath」「David Bowie」「Rolling Stones」ら。オッズ読みしたいほどの超高額ロックフェスだ。
恐ろしい意匠許諾の工数をクリアした生産体制ならば、2006年春夏の「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」にて転がった石も、もっと苔をはらんだかもしれない。
王道からグラム、パンク、モッズ傾倒まで節操無し。現行の「ザビートルズ・コム デ ギャルソン(THE BEATLES COMME des GARÇONS)」とコーディネートする女子もきっと現れる。みなぎる物欲は、うるさ型のジャーナリスト風情にとっては眩しい限りのスターダストだ。音楽性の違いなど問題すらならぬほどの怒涛の勢いに、ファッションの胆力をひしひしと感じた。
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フィナーレまで一気呵成、気付いたらロックしてましたが、コレクションの全体観はミリタリーと小さじ2杯程度のスクールテイスト(スタッズ付き)。内輪ウケに依らぬ世間体の広がりは見事と言うほかない。
プリーツ入りの布帛、アニマル柄、カウチンニットなどがドッキングしたフライトジャケットのバラエティは、いわば玉数豊富な絨毯爆撃。胸元広めのジャケットは、ジギーもしくはカントリーウエスタンのフリンジに着想したかは定かではないが、グラムなプリーツが水かきのように溶け合っていた。
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キルティング素材がドッキングしたジャケットコートはメンズの「コムデ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME des GARÇONS JUNYA WATANABE MAN)」を彷彿とさせるデザイン性。カップル客とメンズ需要まで吸い取りそうだ。
そして、本コレクションの中で1つだけ取り入れられていないアイテムがあり、それがライダースジャケットだ。あってもよさそうなモノだが、ジュンヤではおそらく2017-18年秋冬以降、大きなロットでは見ていない。不滅のロックは腹八分目で、着る側にスタイリングの余白を残してくれたと思うべきか。
(文責:北條貴文)
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