Beautyキボウの消費

【連載:キボウの消費】05 BeautyTech.jp編集長 矢野貴久子「ビューティー業界が大きく変わる節目に」

 新型コロナウィルス問題によって、ファッションを取り巻く環境が変化することは間違いありません。「キボウの消費」と題した本稿では、環境がどう変化していくかについて、さまざまな分野の人に聞いていきます。

 5人目は、「BeautyTech.jp」編集長の矢野貴久子さんに登場いただきました。矢野さんとの出会いは、あるシンポジウムのスピーカーとしてご一緒したこと。女性のライフスタイルを取り巻く環境を視野に入れ、温かい眼差しをもって仕事している方と感じたのです。昨年、仕事をご一緒したのをきっかけに、おしゃべりの機会が増えました。そんな矢野さんに、先行きが見えづらい今という環境において、ビューティー業界のことや、それにまつわる編集のこと、さまざまなお話をうかがいました。(取材・文:ifs未来研究所所長 川島蓉子)

 久しぶりにライブで会っておしゃべりしようと、「BeautyTech.jp」の母体であるアイスタイルにうかがいました。アイスタイルは、日本最大のコスメ・美容の総合サイト「@cosme」や化粧品ECサイト「@cosme SHOPPING」、化粧品専門店「@cosme STORE」をはじめ、幅広い事業を手がけています。その中で「BeautyTech.jp」は、美容業界の国内外のイノベーションを精力的に発信しているメディア。ビューティーにおけるテクノロジーの進化ぶりが凄まじいとわかります。

BeautyTech.jp

 さて早速、「コロナ禍による最も大きな変化は?」という質問です。矢野さんは「ビューティー業界が大きく変わる節目に。最も大きな変化は、リアル店舗を閉めざるを得なかったので、各企業がオンラインの販売に力を入れるようになったこと」といいます。ここ1~2年で進んできたオンライン販売を、一気に推し進める原動力になったというのです。リアル店舗での対面カウンセリングを、オンラインでどう展開していくかに、老舗や大手も本気で取り組んでいるそうです。

 事情はファッション業界も同様ですが、スピード感でいうと遅れているかもしれません。ここ数ヶ月、大手アパレルが百貨店の売り場を減らしてECに力を入れる、百貨店やファッションビル、モールがECを強化するといったニュースが続いています。しかし、百貨店や大型モールの存在感が弱まりECが勢いを得ているのは、多くの業界関係者がうすうす感じていたこと。「アパレルは着てみないと」「リアルな接客が大事」といった"リアルありきの見方"からなかなか抜け出せなかったり、「今シーズンはこれがトレンド」といった業界から消費者への「トップダウン=一方通行」が慣例となっていて、ある意味、デジタル化を押しとどめていた。それがコロナ禍によっていよいよ行き詰まり、半強制的に進めざるを得なくなったと言うのが実態ではないでしょうか。ここでデジタルに舵を切るというのであれば、抜本的にやり切らなければ意味がないと思います。

 「アイスタイルでは『オンライン美容部員プロジェクト』を立ち上げ、オンラインでの接客についての啓蒙やサポートを図っていこうと考えています」と矢野さん。「お客様一人一人の要望や状況に合わせ、美容部員が最適なものを選んで販売する。そのためのデジタルツールが次々と開発されているし、美容部員が在宅で接客する手法も出てきています。業界全体が前に進むため、少しでもお役に立てればと思っています」と頼もしい言葉。中立的立場で、業界全体の底上げに与していく。こういう動きはファッション業界でもっと出てきてもいい。そう思わずにはいられませんでした。

トークイベントに登壇する矢野貴久子

 一方、「人工知能=AIを活用し、その人に合わせた商品を提供する"パーソナライズ"は業界全体の潮流のひとつです」とも。大量生産・大量消費を前提としていた企業がこの分野に力を入れ、実験的な試みを行っているといいます。人は一人一人、容貌も肌も違うし、どう見せたいかは人によって異なることを鑑みると、"パーソナライズ"は今にはじまったことではなく、以前からお客が求めていたことでもあります。それがテクノロジーの助けを得てできるようになってきた。しかも、ビジネスとして適正な利益を上げる仕組みを作ろうと企業努力が進んでいるのは、未来を切り拓く力強いお話と思いました。

 そしてここでも、ビューティー業界は一歩も二歩も先を行っているかもしれないと、少し焦りました。体型も好みのスタイルも一人一人違うお客に対し、大量生産・大量消費を前提に、そこそこのトレンドが入った服を、シーズンごとに買って着てもらうというファッション業界のありようは、時代の潮流とズレていると感じてきたから――中には、小さいながらも"パーソナライズ"に対応したビジネスを手がけ、がんばっているブランドもありますが、あくまで少数派です。難しい課題であることを承知で言えば、追いつけなくなる前に、小さくてもいいから実験的な試みをどんどんやってみる、違うと思ったら修正してやり直してみる。スピードと柔軟性が求められていると思うのです。

 そして最後に、働き方の変化について聞いてみました。「編集という仕事柄だからかもしれませんが、リモートワークで少しだけ時間にゆとりができて、改めて本の大切さに気づかされました」と矢野さん。テクノロジーの発達によって、デジタルがどんどんリアルに近づいてきて、視覚聴覚だけではなく五感に働きかける方向や、二次元から三次元へ進化しようとしている中にあって、活字は逆に人の想像力を掻き立て、思いもかけぬ世界に飛翔させてくれるというのです。確かに本は、文字をなぞりながらシーンを思い描き、「きれい」「おいしそう」など五感が動いていく。その良さって、ビューティー業界もファッション業界も取り入れられるかもと、話が盛り上がったのです。

取材・文:川島蓉子
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。
1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
お話を聞いた人:BeautyTech.jp編集長 矢野貴久子/
雑誌編集やデジタルメディア運営をへて2017年7月よりアイスタイルにてBeautyTech.jp立ち上げ準備に関わり、2018年2月に編集長就任。2019年Japan BeautyTech Award 審査委員をつとめる。
そのほか、2019年よりEWW女性起業家アクセラレータープログラム ステアリングコミッティ及びメンター、2020年よりディップ株式会社のAIアクセラレータープログラムアドバイザー、2020年トキワビューティアクセラレータープログラム審査員、サンフランシスコ発のFaB(Fashion and Beauty Tech Community)の東京チャプターヘッドをつとめる。
大企業への取材からスタートアップ企業との対話を通して、国内外の美容業界のDXや化粧品マーケティング・ブランディング情報の発信につとめている。BeautyTech.jp:https://beautytech.jp/

最新の関連記事

Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング