片山正通 photo: Kazumi Kurigami
新型コロナウイルス問題によって、ファッションを取り巻く環境が変化することは間違いありません。「キボウの消費」と題した本稿では、環境がどう変化していくかについて、さまざまな分野の人に聞いていきます。
今回は、インテリアデザインを主軸に、空間や建築のディレクションなど、幅広いデザインを手がけているワンダーウォール片山正通さんにご登場いただきました。(取材・文:ifs未来研究所所長 川島蓉子)
最初にお会いしたのは、かれこれ20年くらい前のこと。ファッションが大好きでミーハー、少しやんちゃで開けっ広げなキャラクターが魅力的。本質をズバリとつかみ、デザインとして昇華するエネルギーが濃いと、ワクワクしたのを覚えています。以来、折に触れてお話をうかがってきました。レクサスやユニクロなどをクライアントに持ち国内外で活躍している片山さんは、武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科の教授も務め、超多忙な日々を送っています。そんな片山さんに、これからのことをあれこれ聞いてみました。
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千駄ヶ谷のオフィスは、たくさんのアート作品やオブジェなどが、所狭しと並んでいます。かなりの物量なのに圧迫感や雑多感が微塵もなく、居心地の良さにつながっているのは、片山さんならではのセンスに拠るのだとつくづく——この絶妙な感覚が、訪れる人をくつろがせる空間を作り出しているのだと納得です。そしておしゃべりは、カジュアルな楽しさはそのまま、幅と奥行きがまたぐんと広がったと感じました。
最初はコロナ禍で変わったことから——「さまざまなことの本質が明らかになったのでは」と片山さん。たとえばと水を向けると「何かのプランの良し悪しを判断する時に、余計なリスクヘッジがリスクになる。それよりプランそのものが目的に沿った魅力を備えているかどうかを突き詰める。そこに気づき、実行に移す人が増えた」というのです。デザインに限らずさまざまな仕事において、リスクの有無は必ず問われる領域。あらゆるリスクを検討して回避すべく修正していくうちに、プランの独自性や創造性がどんどん削ぎ落とされ、何のため誰のためのプランかが抜け落ちていってしまう。そこに賭する労力を、魅力的なプランを実現化する方向に使えばいいのにと、常日頃から感じていただけに、片山さんの言葉は頼もしく響きました。
一方、世の中でDX(デジタルトランスフォーメーション)がかまびすしく言われ、デジタルへシフトが盛んに叫ばれています。これについて片山さんは「デジタルかリアルかが問われているのではなく、それぞれの価値に意味がある。そこを履き間違えてデジタルをクローズアップするのは、デジタルバブルみたいなもの」とずばりです。大学の授業でリモートが増えたそうですが、言葉の重みや間といった、いわば人が五感で受け止めて触発されるものは、リアルならではの価値と確認ができたそう。言われてみれば、インタビューについても、リモートの方が効率的なのは間違いないのですが、空気の手触りみたいなものが、綴る文章に実は影響を及ぼしている。そこにこそリアルの価値はある。片山さんのお話で、それが裏づけられました。
そしてリアルショップについて——「これからのリアルショップは、ますます機能ありきでなくなっていく。人と人のつながりをサポートする、あるいは人ともの、人と人とが、五感を通じた学びや刺激、共感を得ていく場として、重要な役割を担う」というのです。コロナによって、人と人のフラットなつながりが、豊かさのひとつであることに気づいた人も多かったのでは——それはショップも同様であり、人と人がつながることで、五感で感じるもの。そこにこそ価値が置かれていくのだと思い及びました。
昔から片山さんは、いわゆるチェーンオペレーションによる合理効率化を優先させたショップ群よりは、独自性が明快な個店を丁寧に手がける。そこに本人の意思があってのことと思い出しました。それは場に求められる目的に沿って、最適な解を出すことがデザインととらえているから。言い換えれば、片山さんのデザインに対する姿勢が、作ることにあるのではなく、意味のあること、もっと踏み込めば、意味を明快にすることにあるからと、改めて感じ入りました。
だからこそ片山さんは、クライアント企業と話し込みを重ね、場合によっては「その店は出さない方がいい」というアドバイスをすることもあるそう。「仕事はなくなってしまうのですが、デザインとはコンセプトであり、そこを担うのがワンダーウォールの役割だから」と笑顔とともにきっぱり。色やかたちを作るのがデザインではなく、片山さんが言うところの根っこにある考えをもとに、最適なかたちで世の中に提示するのがデザインという広義の役割。これはファッションも同様と思うのです。
そして話は、今ハマっている芸人さんやブランド、大好きなファッションの話題に。片山さんの口から続々と、おもしろいエピソードが飛び出してきます。さまざな分野のクリエイターとご縁を得ていますが、大御所になっても軽やかでミーハーな人ってそう多くはない。聞いてみると「好奇心が僕の原動力なのです」という言葉にドッキリ。自分がおもしろい、何だろうと感じたものを突き詰めていく。それはまた、自分の価値観の中で「あり」と「なし」を分けていく行為でもあります。「センスを磨くとは、そういう『あり』『なし』の積み重ねにあるのではないでしょうか」という言葉が、どっしりと響きました。
取材・文:川島蓉子
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。
著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
お話を聞いた人:インテリアデザイナー 片山正通
ワンダーウォール代表、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授。
片山正通率いるWonderwall®は、コンセプトを具現化する際の自由な発想、また伝統や様式に敬意を払いつつ現代的要素を取り入れるバランス感覚が国際的に高く評価されている。代表作に、外務省主導の海外拠点事業 JAPAN HOUSE LONDON、INTERSECT BY LEXUS(青山、ドバイ、NY)、ユニクロ グローバル旗艦店(NY、パリ、銀座等)など。最新プロジェクトに2020年開業の虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー(商業施設環境/インキュベーションセンターARCH)やTHE TOKYO TOILET 恵比寿公園トイレなど。
2020年、オランダのデザイン誌『FRAME』主催の「FRAME AWARD 2020」で2019年のフィリップ・スタルクに続きLifetime Achievement Awardを受賞。
www.wonder-wall.com
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