
Image by: 吉田カバン
吉田カバンの「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL、以下L.L.)」が、広島県廿日市市に位置する「HOTEL FORK & KNIFE Miyajima」内のギャラリー「ref. Miyajima」で、L.L.の3シリーズを展示販売する期間限定イベント「安芸の宮島、宿と鞄 L.L. Exhibition — 柿渋・藍・竹、三つの素材をめぐる展示」を開催している。10月末まで柿渋染めのナイロンバッグ「OLDNEW」を展示し、11月25日まで全て“土に還る”天然素材で仕上げた藍染めバッグ「TRUE BLUE」を、11月27日から12月27日までは竹とバッグを融合した「FILAMENT」をフィーチャー。期間ごとに展示替えを行う(各商品の販売はそれぞれの展示期間中のみ)。
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温故知新をキーワードに2023年にリブランディングを実施したL.L.は、日本の職人による伝統的なものづくりを重視したバッグを提案。手仕事がふんだんに取り入れられていることから生産数が限られており、中でも太陽光の下に晒して色を出す柿渋染めの技法を採用したOLDNEWは、夏場の日照時間の長い時期にしか生産ができず、デリバリーは年に1度だけ。在庫が入るたび即完売し、1年以上入荷を待ち望むファンも多い同コレクションを、なぜ表参道店での再入荷に先駆けて、広島宮島口のホテルで先行販売したのか。
L.L.のブランドディレクターである吉田カバンの松原賢一郎取締役開発本部長と、広島発のセレクトショップ「ref.」とref. Miyajimaを手掛ける中本健吾がイベントに登壇し、松原はリブランディング後初めて、その背景と変化についてメディアに向けて語った。

(左から)中本健吾、松原賢一郎
Image by: 吉田カバン
目次
「売れなくてもいいから、職人の手仕事を活かしたい」L.L.リブランディングの背景
L.L.が誕生したのは1984年。「ポーター(PORTER)」に次ぐ吉田カバン第2のブランドとして、より高感度なユーザーを対象としたハイエンドなアイテムを提案し、1980年代後半に人気を集めた。しかし、1990年代以降、大量生産が可能なナイロン製品を中心としたポーターが脚光を浴び、主力ブランドとして成長。そこで、「他のアプローチがなければL.L.は生き残れない」と考えた松原が目指したのは、改めて吉田カバンが重視する「メイドインジャパン」の精神の根幹である手仕事を追求することだった。「売れなくてもいいから、何よりもまず、いま失われつつある日本の伝統技術や職人の手仕事を活かし、職人たちに還元する仕組みを作りたかった」と松原は語る。

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リブランディングを経て新たに打ち出した「温故知新」というコンセプトは、「世の中に、“完全に新しい”ものはもうなく、これまでに見聞きしたさまざまなものから影響を受けて新しいものは生まれている」という考え方に基づく。過去に生まれた伝統的な技法や素材の魅力を現代的なアプローチでプロダクトに落とし込み、ポーターや「ピー・オー・ティー・アール(POTR)」といった同社のブランドが機能性を追求しているのに対して、L.L.では「その逆を行こうと考えた」という。
L.L.のものづくりを象徴する3つのシリーズ
リブランディングを経て、職人の手仕事を取り入れた3つのシリーズを発表した。
エリック・クラプトンも購入した「OLDNEW」
第1弾として登場したOLDNEWは、日本に約1000年前から伝わる最古の天然染料のひとつである「柿渋」を見つめ直し、現代にその価値を改めて伝えるために開発した。成熟する前の青い柿を圧搾して発酵させた「柿渋」に含まれるタンニンは、繊維や木材などに防水・防腐の効果をもたらすことから、古来より染色や薬品、建材として利用されてきた。近年の研究では、抗ウイルス効果も報告されている。食用にならない渋柿を染料として活用した先人の知恵や、独特の深みのある色合い、太陽光の下で持ち歩くことで色褪せるのではなく次第に色が濃さを増していくという特徴など、その美しい色合いと経年変化に着目した。
OLDNEWは、中綿の入った真っ白なナイロンバッグを、昔ながらの製法で染色職人がひとつひとつ柿渋につけ、天日干しする作業を繰り返すことで色を出している。一点ずつ色の出かたが異なり、使い込むことによって独自の風合いに“育てて”いくことができる。

吉田カバンが発売した、創業90周年を記念したヴィジュアルブック「YOSHIDA & Co. 90 Anniversary BOOK」でも、制作の様子が紹介されている。
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ニュースペーパーバッグ(通常サイズとLサイズの2型)、ショルダーバッグ、リュックサックの計4型を揃え、価格帯は7万1500〜9万9000円。物価の高騰に応じて3年前の初登場時よりも商品価格は1〜2万円程度引き上げたが、背景には「職人に適正価格を支払うことができなければ文化は守れない。職人がしっかり“儲かる”仕組みがなければ、技術は受け継がれない」という、作り手を守るための切実な思いがある。

染める前のバッグ
Image by: 吉田カバン

染めた後のバッグ
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ニュースペーパーバッグとショルダーバッグは、無骨なロープのワンハンドルで肩にかけることができる。このロープハンドルは、出雲大社の大しめ縄から着想を得て、職人たちへのリスペクトが込められている。カラー展開は、柿渋染めを活かしたブラウン「KAKISHIBU」と、柿渋で下地染めしたバッグを鉄分を多く含む木酢液につけることで黒く反応させる「暮染め」を施した「KURE」の2色。KUREは、酢酸の独特な香りも特徴だ。「KAKISHIBU」のニュースペーパーバッグは、2025年4月に日本武道館でライブを行ったエリック・クラプトンが公演の合間に表参道店を訪れて購入したという逸話もある。
土に還る天然素材だけで作った「TRUE BLUE」
「土に還る」というコンセプトで開発された「TRUE BLUE」は、人類最古の染料と呼ばれる藍で染めたバケットバッグやショルダーバッグなど6型をラインナップ。価格帯は6万2700〜10万1200円。通気性と吸水性に優れる麻糸、植物タンニンで鞣した牛革、ボタンには豊穣の象徴とされるエゾシカのツノを使用し、土に埋めると全てが自然に還る生分解性の天然素材だけで仕上げた。

Image by: 吉田カバン

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身近で神秘的な竹を大胆に使用「FILAMENT」
ハンドルに「竹」を使用したデザインのトートバッグなど3型を揃える「FILAMEN T」シリーズ。適度な硬さとしなやかさを備え、古くから日本のものづくりに欠かせない存在だった竹は、品種によっては1日に1m近く成長するほどの生命力を誇り、竹取物語のモチーフとしても古くから親しまれ「宇宙から来た植物」とも呼ばれている。吉田カバンでは、竹のその神秘性と万能性に注目した。「FILAMENT」という名前は、エジソンが白熱電球のフィラメントに京都・石清水八幡宮の竹を使用したことで、1200時間の明かりを灯すことに成功したというエピソードに由来。世界的な技術の礎にもなった日本の素材と知恵へのリスペクトが表現されている。価格帯は10万100〜10万4500円。

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偶然こそ運命? 「旅先」という販売チャネルの可能性
イベントの会期は紅葉が深まり、宮島の観光客数が年間で一番多くなる時期。会場となったref. Miyajimaは、今年3月にオープンしたばかりのHOTEL FORK & KNIFE Miyajimaのロビーに出店するセレクトショップで、広島の工芸品を中心にファッションブランドのアイテムも取り扱っており、多様な日本のものづくりを宿泊客に紹介している。特にOLDNEWは、生産数の少なさから基本的には受注生産で1年以上入荷待ちをするファンもいるレアアイテムながら、表参道店での再販に先駆けて即売を行った。宮島という立地でのイベントを企画した背景には、物を運ぶ「バッグ」というプロダクトと「旅」との親和性があるという。

会期初日に開催されたトークイベントには、多くの関係者やファンが訪れた
Image by: 吉田カバン
ラゲッジレーベルは昨年、静岡県の宿泊施設「沼津倶楽部」でも同様の企画展を行った。約110年の歴史を持つ有形文化財のレストランと、建築家の渡辺明が設計した全8室の邸宅のような宿泊施設が隣接しており、期間中に宿泊できる客数は限られたが、購入を目的に訪れたのではない宿泊客だからこそ、旅先での偶然の出合いに意味を見出し、プロダクトの背景にあるストーリーに積極的に耳を傾ける姿が見られたという。オンラインや都内の旗艦店とは異なる購入体験が好評だったことから、今年は広島県に舞台を移した。
松原は「リブランディングを実施したということも、またブランド名自体の認知度もポーターと比較するとまだ低い」とし、同時に「ただ売れれば良いと思っているわけではなく、まずは一歩ずつ、着実にお客様に届けていきたい。生産効率を考えずに、量産品ではできない手仕事の魅力を表現することをブランドの目的にしているからこそ、少しずつでも着実に、職人たちやその技術についても伝えていきたい。宿泊施設で提案する一番の価値は、商品を目的にした方ではないお客様に偶然出会えること」と語る。
国内有数の観光地である厳島神社がある広島県宮島だが、関西と九州の中間地点という立地から、旅の「通過点」になりやすくく宿泊需要は比較的少ない。そこで、HOTEL FORK & KNIFE Miyajimaでは、食や空間、アートを通して広島の文化を知ることができるコンテンツを充実させることで、宿泊そのものの体験価値向上に注力。現在の宿泊客は約6割が海外旅行者だという。
ロビーに併設したセレクトショップref. Miyajimaは、一般的な「ホテルのロビーのお土産屋」とは異なり、商品を熟知した店員による丁寧な接客を受けることができる。同店では、旅先という場所での“運命的”な出会いを機にブランドを知り、旅の思い出や記念として商品を購入していく旅行者が多いという。ディレクターの中本は「ものが溢れる時代に、人が心から欲しいと思うのは“人の手によって作られた、ヴィンテージになり得るもの”だと考えている。L.L.のバッグは、ファブリック製品でありながら、長い時間を共に過ごす中で経年変化し“ヴィンテージ”になっていくアイテム。まさに、このホテルやref. Miyajimaのコンセプトともマッチしている」と太鼓判を押す。

ref. Miyajima
Image by: 吉田カバン
生産数が限られるL.L.は、認知が広がったとしても、必ずしも求める人の手に届けることができない。だからこそ、接点を持つことができる客数は限定されたとしても、しっかりとプロダクトの持つストーリーに共感してくれる新たな客層との偶然の接点を得ることができる「旅館」という販売チャネルは、ブランドとの親和性が高い。「L.L.のバッグに使われている技術は、いつできなくなるかわからない。日本文化の温もりや手仕事の魅力をゆっくりと手にとって感じてほしい」と松原。筆者も実際に店頭で接客を受けたが、旅先という非日常空間で静かにゆっくりと商品と向き合うことができる時間を過ごせたことは、都会の喧騒や忙しない消費活動を忘れさせてくれる、東京では得難い豊かな経験だった。

◾️HOTEL FORK & KNIFE Miyajimaとは?
2026年3月28日に広島県廿日市市宮島口に開業。「Culture Retreat」をコンセプトに掲げ、土地の文化や食を静かに深く体感できる新しい形の宿泊施設を目指す。建築や空間デザインは、建築家で美術家の佐野文彦が担当し、木や石などの自然素材を用いて和の美意識を現代的に昇華させている。ツイン、キング、テラス付き、バリアフリールーム、サウナや露天風呂を備えたプレミアムスイートなど、バリエーション豊富な全34室を用意。併設するレストランでは、薪火での調理などを用いて地元の旬の味を楽しめる「ローカルガストロノミー」を提供している。最上階には、宮浜温泉の天然温泉を使用した水着着用の男女混浴スタイルの内湯・露天風呂・サウナを備え、露天風呂からは宮島の大鳥居が見える。館内には囲炉裏を囲みながら広島の地酒を愉しめるサロンラウンジも。家具には広島の「マルニ木工」、アメニティは「uka」を採用。中本がディレクションしたギャラリースペースでは、1958年に日仏合作映画「ヒロシマ・モナムール」の撮影で来日したエマニュエル・リヴァが、映画撮影の合間にプライベートで撮影した1958年当時の広島を記録した写真集「HIROSHIMA 1958」の写真を常設展示している。「この写真集に初めて出会った時、そのデザインの素晴らしさに衝撃を受けた。広島市で平和記念資料館や原爆ドームを訪れてからやってくるであろう多くの観光客に、その先の希望にも触れてほしい」と中本。
ホテル館内〜宮島口周辺を散策レポート








お着き菓子は「高津堂」のもみじまんじゅう。しっとりしていてとても美味しいです。宮島口にお店があり、お土産にもおすすめ
Image by: FASHIONSNAP
最終更新日:
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