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トム・ペシューにも従事し、20年以上のパリ生活で思うフランスと日本の違い

メイクアップアーティスト対談

トム・ペシューにも従事し、20年以上のパリ生活で思うフランスと日本の違い

メイクアップアーティスト対談

 メイクアップアーティストがメイクアップアーティストなどクリエイターにインタビューする連載。「M•A•C」のシニアアーティストである池田ハリス留美子氏がインタビュアーとなり、トレンドメイクをけん引するメイクアップアーティストと対談。アーティスト同士だからこそ語られる“本音”とは?

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 第4回のゲストは、パリに拠点を置くメイクアップアーティスト、Megumi Itanoさんです。かつて日本に上陸していた「セフォラ(Sephora)」の販売員として経験を積んだ後、フランス・パリへと渡り、メイクアップアーティストとしてのキャリアをスタートさせました。メイクアップ界の重鎮、トム・ペシュー氏のアシスタントを長年務め、現在はフリーランスとして多方面で活躍しています。Megumiさんに、トム氏への深い敬意はもちろん、日本とフランスにおける文化や仕事に対する違いについて、話を聞きました。

「M·A·C」シニア アーティスト

池田ハリス留美子

1998年キャリアスタート。化粧品メーカーでの経験を経て、2002年M·A·C入社。M·A·C表参道ヒルズ店で店長を務めた後に2007年渡米、メイクアップアーティストKABUKIに師事。2009年からはNYのM·A·C PRO SHOW ROOMで活動。グローバルな経験と豊かな感性でメイク業界をリードし、2014年に日本のM·A·Cシニアアーティストに就任。ファッション誌をはじめ、東京コレクションはもちろん数々のファッションショーやバックステージをマルチにこなしながら日本のM·A·Cチームを束ねる。NYから日本に拠点を移した今もなお、“NY・パリ・ミラノ“といった世界のファッションシーンで活躍している。骨格を見極めることで個々の魅力を最大限に引き出すテクニックを得意とし、“リアリティーがそこにあるのか?”を常に追求しながら、エフォートレスかつパーソナライズなメイクをクリエイトする。

メイクアップアーティスト

Megumi Itano

パリを拠点に活動するメイクアップアーティスト。2002年に渡仏し、著名なトム・ペシュー(Tom Pecheux)のアシスタントを経て独立。現在は「カリステ(Calliste)」に所属。「ハーパーズ バザー(Harper’s Bazaar)」「エル(ELLE)」「ヴォーグ(VOGUE)」などのファッション誌や、「メゾン ミッシェル(Maison Michel)」「イヴ・サンローラン・ボーテ(YSL)」など数多くのブランドキャンペーンを手がける。カーラ・ブルーニ(Carla Bruni)、カロリーヌ・ド・メグレ(Caroline de Maigret)、ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)らセレブリティからの信頼も厚い。日本的な繊細さと大胆さが融合したスタイルで、その人の美しさを引き出しモードなエッセンスを加える感性に定評がある。

幼少期からパリに渡るまで

池田ハリス留美子(以下、池田):めぐちゃん、お久しぶりです! 画面越しだけど元気そうですね。

Megumi Itano(以下、Megumi):元気ですよ!池田さんもお元気そう。

池田:はい、私はいつでも元気です(笑)。

Megumi:本当に留美子さんは私が出会った方の中で一番パワフルで、存在感がすごい(笑)。それなのに腰が低く、他人の良いところを見つけるのがとても上手です。コミュニケーション能力が高く、相手の良いところを素直に伝えられる方なので、一緒にいるといつも良い気分にさせてもらっています。

池田:なんと、ちょっと恥ずかしいですね。私のことよりめぐちゃんのことを今日はいろいろお聞きしたいと思います。では早速始めますね。そもそもなんだけど、めぐちゃんがメイクアップアーティストを目指したきっかけは?

Megumi:100%母の影響ですね。岡山で過ごしていた小学生の頃に、母が化粧品ブランドを取り扱っていて、家にお客さまを招いて化粧品の使い方やデモンストレーションをしていたんです。それを見て育ったので、迷いなくメイクの道に進みました。

池田:お母さまの影響だったんだね。それでメイクアップアーティストへの布石となる第一歩は何だったの?

Megumi:日本でビューティの販売員をしたのが始まりで、実はセフォラで働いていて。若い人は知らないかも知れませんが、セフォラは日本に上陸していたことがあったんですよね。1999年から、日本から撤退した2001年まで働いて、フランスに渡りました。

フランスに渡った頃のMegumiさん(右)

池田:ニューヨークではなくパリに移住した理由は?

Megumi:岡山という田舎でのんびり育った私にとって、東京は都会すぎてストレスを感じて…。東京よりも都会だと思っていたニューヨークは選択肢に入っていなかった。パリ、ロンドン、ミラノの3択で、パリのファッション、スタイルが一番好きだったから、セフォラで働いていた20歳の頃、3週間ほど1人でパリに遊びに来て、ここになじんで生活できると確信できたのが大きいですね。

池田:パリで最初に住んだエリアはどこですか?

Megumi:少し外れの18区に住んでいました。少し危ない地域と言われていますね。

池田:当時、パリでの生活で危ない経験はありましたか?

Megumi:スリには普通に遭ってましたね。今思えば全然そんなことはないのですが、フランスに来たばかりの頃は、道端で集会のようなものを見かけると、何の集会かわからずドキッとして足早に過ぎるようにしていました(笑)。

人格者 トム・ペシュー氏との出会い

池田:めぐちゃんは、メイクアップアーティストのトム・ペシュー(Tom Pecheux)さんのアシスタントを約8年していて、今でも仲が良いイメージがあります。トムさんとの出会いは何だったの?

トム・ペシュー(真ん中)さんと

Megumi:「ナイキ(NIKE)」の撮影で、トムさんの元ファーストアシスタントで、今も大活躍されているフランスのメイクアップアーティスト クリステル・コケ(Christelle Cocquet)さんのアシスタントを3日間させていただいたことがあって。その時ちょうどトムさんのファーストアシスタントがいらっしゃらない時期で、私の3日間の働き方を見て、「この子だったらトムのファーストでいけるんじゃないか」とクリステルさんが推薦してくれて。そこから2ヶ月ほど連絡がなかった中で、ある日、トムさんのエージェンシーから連絡があり、フォトグラファーのマリオ・テスティーノ(Mario Testino)氏が撮るCM撮影に同行しました。

 日本にいた頃から資生堂の広告などでトムさんのことを知っていたので、私の中ではトップ中のトップのメイクアップアーティスト。初めて会った時は、トムさんの周りにオーラが見えるような輝きを感じました。それが初めての出会いです。

池田:それはいつ頃?

Megumi:パリに住んで3年目くらいで、かなり早い時期に出会わせていただきましたね。

池田:トムさんって本当に素晴らしい人格者ですよね。誰にでもしっかり挨拶してくださって。

Megumi:本当にそうですよね。先ほども言ったように、割と早い段階でトムさんに出会っているので、トムさん以外のアーティストの方々と接する機会が少なかったからか、後になってその凄さに気づきました。常にどの現場に行っても、どの立ち位置の人であっても平等に挨拶することの大切さを学びました。現場の始まりに「良い1日を過ごしましょう」と挨拶し、帰る時には「今日は1日ありがとう」と皆さんに伝える。これは本当に今でも一番大事にしていることです。

池田:トムさんの魅力的なお人柄が、どのように育まれてきたのか、ぜひお伺いしてみたいですね。

Megumi:トムさん自身がなぜそういう、分け隔てなく挨拶をするような、素敵な人になったのかは直接聞いたことはないですが(笑)。ただお父さまは農場で働かれていたり、兄弟が4、5人と大家族で育ったと聞いています。そういったファッションとは関係ないことが彼の人間性のベースになっているのかもしれません。メイクの技術はもちろんですが、人間性という面で彼から学んだことが、メイクと同じくらいたくさんあります。感謝しきれないくらいです。

パリと日本での仕事の違い

池田:めぐちゃんのフランスでの生活も20年以上になるんだね。異国の地でキャリアを築き、日々を過ごす中で、今、どのようなことを感じている?

Megumi:実際、日本での撮影経験がないままパリで仕事をスタートしているので、このやり方が当たり前だと思って働いてきました。最近、日本のセレブリティの方などともご一緒する機会が増え、日本のやり方と海外のやり方の違いを強く感じていますね。

池田:そうなんだね。どんな違いなの?

Megumi:日本の方々との仕事は、皆さんいつも準備をしっかりされているので、現場では本当に効率的に進むんです。時間の無駄なく、狙ったところに一直線に進んで撮影ができるから、すごく働きやすいと感じますね。

 一方で、フランスではまた少し違う進め方なんです。現場に入ってから、みんなで「今日はどう進めようか」とクリエイティブな話し合いをしながら決めていくことが多いんですよ。例えば、朝食を囲んでコーヒーとクロワッサン片手に、モデルの雰囲気や髪型をじっくり見て、「この子の個性を引き出すには、こんなスタイルがいいのでは」とか、その場でアイデアを出し合います。ある程度のスタイリングは決まっていても、メイクやヘアをどう持っていくかはその場で話し合いで決まります。終わり時間もわからないというスタンスが当たり前で、もう20年近くこのスタイルで働いてきましたから、日本の皆さんとご一緒できる時は、目標が明確でそこに向かって集中しやすいという、また違った良さがありますね。

池田:言い方を変えると、日本のきっちりとした仕事の進め方に、物足りなさを感じることはない?

Megumi:そうですね…ないとは言えないですが(笑)。ただ日本の現場でも、いざ撮影が始まってからは、色々と提案することももちろんあります。撮影の画面を見ながら、「こうした方がもっと良くなるんじゃないかな」「これを加えたらどうだろう?」「逆に引いてみようか?」といった意見などは、現場で口に出しますし。フォトグラファーやスタイリスト、アートディレクターの方々と話し合って、みんなの意見が一致すれば、その場でどんどん取り入れていきます。だから、途中のクリエイティブなディスカッションや調整は、どちらの国でも同じように行われます。ただ、スタートの仕方が国によって全然違うと感じています。

フランスで20年以上暮らしている理由

池田:では、フランス・パリで暮らすことについて、リアルな感想や、長く住んでいる理由を教えてください。

Megumi:フランスにこれだけ長く住めているのは、やはり「自由」なところです。海外に出たかったのも、日本にいると「こうあるべき」といった窮屈さを感じていたことも一つの理由ですなんです。

 渡仏する前、フランス人は自由で、言い方が悪ければ自己中心的な生活スタイルだと聞いていました。ただ、それが自分に合うかもと思ったんです。実際に住んでみて、やっぱり「自由」を感じています。枠があるようでない、枠が欲しいときは自分で作り、欲しくないときは枠から出て生活しても、誰からも何かを思われることもありません。みんなが自分らしく生きているスタイルが、すごく自分に合っていた。だから20年以上も暮らしているんだと思います。

池田:一方で、パリでの生活で、厳しさや不便を感じることはない?

Megumi:言葉の問題で不便に感じた時期もありましたが、今はある程度理解できます。住む上で一番戸惑うのは、書類手続きが多いことですね。アポイントメントも時間通りに進まなかったり、待ち時間が長かったりすることも多いです。あと、パリでは自分の感情を表に出す人が多く、罵声が飛び交ったり…。個人的にはシャットダウンしたいと思うことがあります(笑)。

池田:食事面はどうですか?

Megumi:食事はむしろ、日本よりもフランスの方が合っていると思います。フレンチだけでなく日本食も豊富で、オーガニックの食材も身近で手頃に手に入りやすい。不自由は感じませんね。

池田:今、興味のあることや楽しいことは?

Megumi:去年から陶芸を始めたんです。40代後半になり、自分を見つめ直さなければ、という思いが2、3年前に芽生えてヨガを始めましたが、次にやりたいこととして、陶芸を選びました。長年頭の片隅に習いたい思いはあって、いざ始めてみると、ろくろで思い通りのものが作れない難しさに直面しています(笑)。20年以上メイクの仕事をしてきて、ある程度は思い通りのものが作れている自負があったのですが、陶芸ではまだ10点くらいの出来ですね。その難しさが逆に面白くてハマっています。下手なりに自分で作ったものが可愛く思えるのが楽しい理由です。

日本とフランスのビューティの違い

池田:日本とフランスのビューティトレンドに関する認識の違いは感じる?

Megumi:パリでは、トレンドを全部取り入れるのではなく、パリジャンらしさを残すことが重要視されます。肌の質感を変えたり、アイカラーを少し変えたりするなど、徐々に変化を取り入れることが多いですね。

池田:パリのメイクアップの“粋なスタイル”をどう捉えている?

Megumi:素肌感を非常に大切にしていると思います。日頃の手入れが行き届いているので、厚塗りせずに素肌を見せられます。そばかすなども好きで、シミがあっても肌の雰囲気を損なわない程度であればそのままにします。あまり作り込まず、持っている自分自身の素材を最大限に活かすメイクが求められることが多いですね。

池田:今年の秋冬のメイクトレンドを教えてください。

Megumi:ベージュやトープ系が引き続き多くて、マットな質感がトレンドです。目元はマットに仕上げつつ、肌には部分的にツヤを持たせてセミマットにするスタイルですね。

 一方で日本は、特に若者を中心にK-POPの影響が強いと感じています。チークのテンション(目の下から鼻にかけて、サンキッスしたような入れ方)が特徴的です。リップや目のコントゥアリング、特に涙袋を作るメイクが定番化していますよね。全体的に「可愛い」に「セクシー」や「上品さ」が加わった、フェミニンなスタイルが主流でしょうか。

池田:涙袋メイクについて、めぐちゃんはどう思う?

Megumi:個人的にはあまりやらないですね。大人の女性の場合、レンズを通すと疲れて見えてしまう可能性もあるから。私自身のビューティの考え方としては、涙袋を描くとそこだけが目立ちすぎてしまい、むしろ全体の美しさを損ねてしまうように感じることがありますね。

池田:M•A•Cの観点からだと、少し前までは血色カラーのリップが人気だったんですが、この半年でヌードカラー、特に白みがかったヌードカラーに切り替わっています。その代わり、チークは血色感のあるものが共通して人気ですね。鼻を通ったチークや、日やけしたようなチーク、そばかすを散らすメイクもトレンドですね。

トレンドについて「この半年でヌードカラー、特に白みがかったヌードカラーに切り替わっている」という池田さん

若者に伝えたいこと

池田:最後に、メイクアップアーティストを目指す若者に伝えたいことは?

Megumi:今はSNSという、自身の作品を発表し、表現力を磨くためのツールがある素晴らしい時代です。この恵まれた機会を最大限に活かして、皆さんの個性や世界観を積極的に発信してほしいと思います。そして、どんなメイクアップアーティストになりたいか、明確な目標を心に描いてほしいです。その目標に向かって、情熱を持って努力を重ねてください。そしてメイクやファッションだけでなく、アート、文化、自然、日々の生活など、さまざまな分野にも目を向けてみてください。そうすることで、クリエイティブなインスピレーションを受けて、皆さんのスキルや知見がより豊かになるはずです。ぜひ、幅広い視野で自身の世界を広げていってほしいと思います。

(編集:福崎明子)

最終更新日:

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