メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」で没入体験——もっと楽しむための完全ガイド

メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」

メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」

Image by: Maison Margiela

メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」

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メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」で没入体験——もっと楽しむための完全ガイド

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 ジョン・ガリアーノ(John Galliano)が描く物語の世界へ—— 「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」のクリエイティビティが最も凝縮されたオートクチュールコレクション「アーティザナル(Artisanal)」が、「シネマ・インフェルノ」というダークポエティックなストーリーとともに、パリから東京に上陸した。"クリエイティブ ラボラトリー"と位置付けるアーティザナルコレクションで生み出され、類稀なアイデアとテクニックが惜しみなく注ぎ込まれたドレスや一点物を、間近で見ることができる貴重な機会。劇場のセットさながらのインスタレーションが用意され、物語の中に迷い込むような没入体験が待っている。

「シネマ・インフェルノ」とは?
 「メゾン マルジェラ」クリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノが、2022年アーティザナルコレクションの制作に合わせて構想した物語。舞台はアメリカ南部のアリゾナ。主人公のカウントとヘンは、シングルペアレント同士が結婚したことで義理の兄弟となるが、いつしか愛し合い、不運な運命を辿っていく。
 この物語を2022年7月、イギリスの演劇カンパニー「イミテイティング・ザ・ドッグ(Imitating the Dog)」とのコラボレーションにより、オートクチュールと映画、演劇が一体化したパフォーマンス作品としてパリのシャイヨー宮で発表。さらに、同作品のストーリーとテーマを視覚的に表現するインスタレーションとして発展させ、今年1月パリの本社で「Co-Ed」コレクションのショーに合わせて公開した。

▶︎▶︎公式ページで公開されている「シネマ・インフェルノ」の映像作品を鑑賞してからインスタレーションを見るもよし、インスタレーションを見てから映像を作品を鑑賞するもよし、合わせて見ればより深く楽しむことができるだろう。

物語の世界に入り込むインスタレーション

 場所は、渋谷区神南の公園通り沿いに建つパークウェースクエア2。「CINEMA  INFERNO」の看板とサインボード、そしてシネマカーテンを彷彿させる赤いカーテンが、異国の劇場の雰囲気を漂わせる。煌々と光る「Welcome」のネオンサインに誘われてエントランスをくぐれば、中は一変して退廃的なムード。所々かすれた「タビ」の足跡を頼りに、薄暗い館内を巡っていく。

 鉄骨と剥き出しのチューブが張り巡らされた壁にはモニターが設置され、「メゾン マルジェラ」のアイコニックな「タビ」の制作風景や、犬の目線で映したアトリエの様子など、様々な映像がランダムに流れ続けている。普段は公開されることのない、もの作りの裏側をユニークな視点で見ることができる。

 1階のフロアは、空間全体が怪しげなライトに照らされ、シーチング素材で作られたアノニマスなマネキンが点在している。これらは「シネマ・インフェルノ」の登場人物たちで、役柄に沿ったアーティザナルのルックを身につけている。その特徴的なスタイルを、秘められたストーリーとともに見ていこう。

砂漠に現れたスペクトラル・カウボーイズ

 会場の隅や壁から、銃を構えて館内を見張るように設置されているカウボーイとカウガールたちは、主人公を追う悪役だ。物語の主題でもある権力の濫用を象徴的に表している存在で、「スペクトラル・カウボーイズ」の名の通り亡霊(=spectral)ように繰り返し登場する。

カウボーイ

 砂漠の砂を浴びたように見紛う加工は「サンドストーミング」呼ばれるテクニックで、立体的なフロック加工やビーズ刺繍によって表現された。ビーズ刺繍は砂丘のような高低差まで繊細に表現しており、手作業の緻密さを見せる。

カウボーイ
フロック加工とビーズ刺繍で表現された<サンドストーミング>

逃亡する主人公 カウントとヘン

 フロアの奥には、古びたコンバーチブルカーに乗った主人公のカウントとヘンの姿。ガラス窓を突き破って館内に突っ込んできたかのような迫力の演出で、背景には架空の街が広がっている。物語の軸となる2人の逃亡シーンが、東京のインスタレーションならではの演出で再現された。

 カウントが着ているのは、ディップダイとフロック加工を施した「ペンドルトン(PENDLETON)」のヴィンテージチェックシャツ。クリスタルの「タビ」カウボーイブーツを履き、アメリカ南部の舞台背景がスタイルに落とし込まれている。

 ヘンが回想シーンで着たブラックドレスとウサギ耳のボンネットは、ゴミ袋やバターを包むクロスから作られた。一方で鳥のモチーフをクリスタルの刺繍で表現したヌードカラーのドレスは、ダメージ加工が施されつつも儚い美しさをまとう。粗野な素材とチュールやサテンなどオートクチュールらしい素材を用いたピースが並び、ハイとローのコントラストをコレクションを通じて表現している。

 傍らにはヘンの母親の姿も。赤や黒といった色彩のボリュームあるドレスが、娘のヘンとは対照的なインパクトを与えていた。

ホラーなチャイルドたちと華やかなプロムガール

 中央に設置された劇場の椅子に佇んでいるのは、ハロウィンの「ジャック・オー・ランタン」のようなカボチャや、魔女風のとんがり帽子をかぶったチャイルドたち。物語のシーンや登場人物の衣装は、アメリカのクラシック映画やホラー映画などからも着想を得ているという。

 物語の後半でダンスを踊るプロムガールたちは、ドレスアップした装い。切り裂いた2着のチュールドレスをつなぎ合わせたドレスや、チェックのチュールをあしらった寝袋型のコートは、脱構築的なアプローチを印象付ける。

手術室に立つドクターとナース

 青白い光が異色を放つ円形のブースでは手術シーンを再現。針を手に持ったドクターは、医療用スクラブを参照したクロンビーコートを着用している。ナースたちが着るメディカルグリーンのネオプレン素材やブークレ素材を用いたコートは、1950年代のクラシカルなシルエットが美しい。

 1階の順路の最終ポイントには、シルバーのカーテンの前に立つミステリアスなナースの姿。白のコットンピケのトラペーズコートに重ねられた鮮烈な赤のチュールと刺繍が、大動脈や血を連想させる。このナースには対になるもう一体が存在し、その姿は8月10日にリロケーションオープンする表参道店で見ることができる。

地下のミラールームで没入体験

 「タビ」の足跡は地下へと続いていく。地下1階のフロアの中央には赤いライトに照らされた一体のマネキンと、今回のメインヴィジュアルにもなっている印象的な影。愛するカウントと結ばれた回想シーンのヘンの装いで、無垢な白のチュールコートとウサギ耳のボンネットに、ギピュールレースの花のアップリケと羽飾りがあしらわれた。ルビークリスタルの「5AC」ベビーバッグと「タビ」パンプスが輝きを添える。

 その横にはシアターのサインが光り、「タビ」の足跡の終着点となっている。脇に立つアシャレット(usherette=劇場の案内係)は、ヴィンテージ調のナイロンブラとシネマカーテンスカートが、50年代の時代背景を思わせる。懐中電灯を手に持ち、劇中の役柄と同様に怪しげな雰囲気を漂わせている。

 シアターの中に入れば、まるで異世界に迷い込んだかのよう。天井から床まで全て鏡張りのミラールームとなっており、スクリーン版『シネマ・インフェルノ』を日本語の字幕付きで上映。見る者も物語の一部となるような、没入体験を味わえる。

メゾン マルジェラの物語は表参道へと続く

 ジョン・ガリアーノが構想したこの作品は、親のネグレクト、法的搾取、教育における不当、宗教上の操作、医療の不正行為といった、現代における権力濫用の顕在化がテーマとして根底にあるという。タブー視されがちなこれらの要素をクリエイションを通じて表現し、従来ならランウェイショーで発表されるコレクションを、パフォーマンス作品というこれまでにないフォーマットで発表した。物語性のあるオートクチュールを探究していたガリアーノによる新たな試みだ。

 「メゾン マルジェラ」のクリエイションプロセスを表すピラミッド型の構図の頂点に位置するアーティザナルコレクション。そのテクニックやコードはプレタポルテの「Co-Ed」コレクションをはじめとする全てのラインで具現化される。実際に今回のインスタレーションで落とし込まれていた数々のテクニックやコードが、最新の2023年秋冬コレクションに反映されているのだ。それらを一堂に見ることができる最新の店舗が、東京・表参道の複合施設「ジャイル(GYRE)」1階に8月10日に誕生する。「シネマ・インフェルノ」とアーティザナルの世界観が、どのようにしてメンズ・ウィメンズウェアやアクセサリーなどに派生しているのか。「メゾン マルジェラ」とジョン・ガリアーノの物語は続いていく。

■メゾン マルジェラ「シネマ・インフェルノ」
会場:パークウェースクエア2
住所:東京都渋谷区神南1-19-10
会期:2023年7月29日(土)~8月15日(火)
入場無料 事前予約優先
予約サイト
問い合わせ:0120-934-779 マルジェラ ジャパン クライアントサービス

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