メゾン マルジェラ 2021年春夏Co-edコレクション
Image by: Maison Margiela
デジタル映像でのコレクション発表は、10分を越えると長いと感じることが多い。3〜5分くらいの映像でまとめるブランドが多い中で、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」の2021年春夏Co-edコレクションのフィルムは、44分03秒という異例の長さ。でも長いとは感じず、もっと見ていたいとさえ思った。その理由は? (文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
ここ数年のメゾン マルジェラのショーは、オートクチュール、プレタポルテを問わず、生で見るのが困難になっている。立ち見席がなくなり、席数が極端に絞られることが多く、オートクチュールに至っては日本人プレス席が数席しかないなんてこともあった。そのことを考えると、7月のパリ・クチュール、10月のパリ・ウィメンズで発表した長尺(前者は52分33秒)のフィルムは、匿名主義のブランドとしては異例の大盤振る舞いだったと言える。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)の思考とクリエイティブの過程、ブランド創設者であるマルタン・マルジェラ無き後のメゾン マルジェラの内側を垣間見ることができる、またとない機会となったのではないだろうか。
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現在のメゾン マルジェラは、オートクチュール期間中に発表する「アーティザナル」で打ち出したコンセプト、手作業のテクニックを、プレタポルテで一般化、工業製品化する流れを踏んでいる。7月にデジタルで発表した2020年秋冬「アーティザナル」Co-edコレクションで、ジョンが打ち出した3つのマニフェストは「透明性(clarity)」「相互性(Interaction)」「一体性(inclusion)」。「S.W.A.L.K.」と名付けられたこのフィルム・プロジェクトは、ティザー映像から始まり4回に分けて発表された。
そのマニフェストを踏襲した2021年春夏Co-edコレクションのキーワードは“タンゴ”。ジョンが旅行で訪れたアルゼンチンのブエノスアイレスで見たタンゴから受けたインスピレーションを、コレクションに落とし込んでいる。プレスリリースでは以下のように説明されている。
「人々が離れ離れの生活を余儀なくされている今こそ、人との繋がりに新たな価値が見出されます。人が誰かに頼る時、直観と信頼を頼りに二人でステップを踏む“pas de deux(パドドゥ)”が不可欠です。メゾン マルジェラではこうした協調をタンゴを通して解釈しています」
メゾン マルジェラ 2021年春夏Co-edコレクション
Image by: Maison Margiela
こうして生み出されたコレクションは、今にも踊り出しそうな雰囲気だ。ウィメンズのジャケットは、肩と二の腕の部分にハサミを入れて甲冑のように肩が盛り上がったラインに再構築されていて、インナーが見える仕様に。赤の長方形をモチーフにしたドレスは、夜の社交界の主役になれそうな妖艶さがある。メンズのダブルブレストのスーツは、ジャケットの上部とパンツの裾の部分に濡れたような加工が施されている。透明のタビシューズと組み合わされた編み上げのシューズインナーは、バレエシューズとエスパドリーユが融合したような雰囲気だ。
Image by: Maison Margiela
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Image by: Maison Margiela
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オートクチュールのフィルムの時も思ったが、映像の中のジョンは情熱的かつ楽しそうにアイデアをチームの面々に説明する。製作過程でも神経質なところは一切なく、モデルや作り手の立場を尊重し、一緒に自分のビジョンを作り上げていく。その様にいたく感銘を受けた。そして、雨に濡れた漆黒の舞台をモデルたちが踊る美しさたるや! ジョン・ガリアーノとニック・ナイト(Nick Knight)、そしてメゾン マルジェラの美意識が存分に堪能できる映像は、YouTubeでも見られるのでまだの人はぜひ見てほしい。フィジカルのショーは素晴らしいものだけど、こういうデジタルでしか表現できない世界もあるのだ。
メゾン マルジェラ2021年春夏Co-edコレクションフィルム「S.W.A.L.K. II」
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。
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