
Image by: Miyu Takaki
私が黒髪をやめた話
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ある日、私は黒髪をやめ、金髪にした。
理由はたくさんあった。凡人だと思われることが嫌だった。気が弱い女のように見られることが嫌だった。少しでも若く見られたかった。
黒髪をやめたことで、自分を守る為の鎧を身につけたような気持ちになった。
高貴さの象徴ともされるブロンドヘアー。
不良・反抗などのイメージを持たれていたヘアブリーチ。
アニメキャラを彷彿ともさせるカラフルなヘアカラー。
様々な選択肢がある中で、私が出会ったあえて“黒髪をやめた人たち”の話。
6人目は、アートディレクターの加藤小雪さん。
加藤小雪さん アートディレクター
小雪さんと知り合ったのは5年ほど前。
私がスチール撮影を担当していた映画の現場で、美術デザインをしていたのが彼女だった。
映画・ドラマやCMにおける美術デザイナーとは、作品の世界観や企画の意図、登場人物の背景などを空間として立ち上げる仕事だ。
具体的な仕事内容としてはロケハンから始まり、セットや家具、小道具の選定、カメラの画角に合わせた細かな配置まで、その仕事は多岐に渡る。
小雪さんは映像作品を中心に、展示やイベントなどでも企画の世界観を空間に落とし込んできた。
彼女が作る世界はお洒落な空間も、生活感のある空間も、登場人物のキャラクターや物語を感じとることができる。私は小雪さんの美術が大好きだ。
出会った当時は黒髪だった彼女が、数年前から金髪になったという話を共通の友人から聞き、その友人伝いに是非お話を聞きたいと取材のオファーをした。
「ちょうど自分がブリーチしていることについて何か残しておきたいと思っていたの」と、快く引き受けてくれた。
これまで撮影現場で仕事の話をすることはあっても、プライベートな話はほとんどしていなかったし、もちろん二人きりで会うのは初めてだった。
会うこと自体も恐らく2〜3年ぶりだ。
以前はどんなテンションで会っていたかもあまり思い出せず、少し緊張したまま待ち合わせ場所へと向かった。
撮影場所に選んだのは東京都北区にある七社神社。
11月の紅葉シーズンで、久しぶりに会った彼女の髪はイチョウのように綺麗な金髪になっていた。
境内は七五三の写真を撮る親子連れで賑わっている。
彼女の写真を撮り、そのまま境内のベンチに座って話を聞いた。

3年前の今日、彼女はここで結婚式を挙げた。
元々は黒髪ボブだった彼女だが、切るタイミングを逃し伸び始めていた髪を、せっかくなら結婚式の和装に合わせようとそのまま伸ばしていた。
しかしその当時から黒髪ロングの自分にはしっくりきておらず、ずっとモヤモヤしていた。
ようやく迎えた結婚式当日。これまでずっと我慢していた反動から、神前式を終えたその場で断髪式を行い、ボブにした。
そしてすぐにブリーチをして金髪にした。
“黒髪ロング”の対義語であるかのような“金髪ボブ”になった。
生まれて初めてのブリーチだったけれど、その新しい自分にとてもしっくり来たという。
大きなイメチェンに、周りからの評判も良かった。
1番の大きな変化というと、何よりも仕事がやりやすくなった。
彼女の仕事は、重責を担う立場だ。
映画やCMなどムービーの撮影現場で、撮影部、照明部、録音部など様々な専門分野がありそれぞれのチーフが居るように、彼女は美術部の中で美術監督というリーダー的存在。
撮影現場では、部署も役割も多く、初対面のスタッフに顔と名前をすぐ覚えてもらうことは簡単ではない。
けれど金髪になってからは、「あの金髪の人が美術監督だ」と覚えてもらいやすくなった。
たとえ名前を知らなかったとしても、撮影中に声をかけてもらいやすくなったという。
また、ムービーの撮影現場は特にスタッフの数が多い。何十人、場合によっては100人を超えることだってある。
そして撮影現場では、黒い服を着る人がほとんどだ。
それには反射など写り込み防止の為、メイキングで目立たないようにする為、撮影スタッフだとわかりやすくする為など、現場によって様々な理由がある。
そんな黒い服を着た多くの人でごった返す場でも、金髪になってからは見つけてもらいやすい。
金髪ボブに眼鏡、そして白いエプロンが彼女のトレードマーク。
カメラマンが撮った映像が映し出されるモニターを見ながらスタッフに指示を出し、現場を仕切らなければならない彼女にとってはわかりやすく目立っていた方が撮影現場はスムーズに進行する。
今まで話を聞いてきた人たちの中で、1番合理的な理由で、実用的なメリットだった。

元々結婚式を挙げるつもりではなかったけれど、旦那さんとお互いの両親に晴れ姿を見せてあげようと話し合い、見つけたのがこの七社神社だった。
旦那さんのお母さんが昔学校の教員をしており、この神社の近くにある学校で教えていたそうだ。
縁を感じ神社に問い合わせると、11月22日という覚えやすい日に、たまたま神前式の空きがあった。「この日なら忘れないし、いいかもしれない」と思い、会場を決めた。
そして結婚式から3年後の今日、私が彼女に連絡をして互いのスケジュールの予定が合ったのも11月22日だった。
あまりにも上手く出来すぎた話だけれど、全てが必然だったかのようにも思う。
3年前の今日も、イチョウが綺麗なよく晴れた日だったという。
「いつまで金髪にしている予定ですか?」と聞いた。「今は仕事の面でも気持ちの面でもこの髪が自然で、黒髪に戻す理由がないからこのままにしている。けれど、金髪という髪色に執着している訳ではなく、いずれは地毛でも楽しめる自分であったり、変えたいと思った時に変えられる自分でいたいと思う。」と答えてくれた。
メイクや洋服を選ぶのと同様に、私も黒髪以外にも選択肢があると思うと安心する。

髪色についての話を聞き終わったあとも、しばらくお互いの話をした。
最近のこと、一緒だった現場のこと、仕事に対しての考えなど。
私は普段から仕事に対する不安や悩みはあまり人に話さないようにしているけれど、彼女には不思議とたくさん吐露してしまった。
広告などの仕事は芸能人と会える華やかな世界だと思われがちだけれど、不規則なスケジュールや過酷な撮影現場だって中にはある。自分の作りたいものが作れないこともある。
けれど私よりもずっとたくさんの現場を経験してきた彼女が「これからも見た人に喜んでもらえる仕事をしていきたい」と話していて、少し泣きそうになってしまった。こんな素敵なスタッフがいる現場ばかりだったら良いのに、と思った。
そんな現場では“クリエイティブ”という聞き心地の良い言葉だけでは終わらず、きっと素晴らしいものができるに違いない。
最後に、それぞれこの先の未来でやっていきたいことを話した。
小雪さんはこれまで培ってきた世界観の設計や、企画の意図を形にする視点を軸に、今後はより企画に近いところから、映像や空間、ヴィジュアル、プロダクトなど、形や媒体にとらわれず世界観をつくっていきたいという。
受け取る人たちを想像しながら、人や作品の魅力をよりよい形で届けていきたい、と。
もしかしたら、その時には彼女のトレードマークは変わっているかもしれない。
その時の彼女らしいトレードマークで、彼女らしいものづくりを続けていて欲しいな思う。
お互いに楽しい仕事ができていたらいいね、と笑顔を交わした。

最終更新日:
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