2026年3月期に、売上高では4期連続、営業利益、経常利益では5期連続の過去最高更新を見込んでいる総合スポーツメーカーのミズノ。コロナ禍以降の快進撃をけん引するのは、サッカーなどの競技スポーツ分野に加え、ワークビジネスと呼ぶ法人向けユニフォーム事業やファッションスニーカーなどの新たな柱だ。加えて2025年は、大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」をモチーフにしたシューズが話題を呼ぶなど、スポーツの枠を超えて存在感を発揮した。
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水野明人/ミズノ社長

(みずの あきと)1949年生まれ、大阪府出身。1974年に米ウエスレイアン大学経営学部卒、1976年に関西学院大商学部卒。1975年ミズノ入社。常務や専務、副社長を歴任し、2006年に兄である水野正人 現相談役会長から引き継ぐ形で4代目社長に就任。2011年からミズノスポーツ振興財団会長も務める。2020年に旭日中綬章を受章。創業者水野利八は祖父にあたる。
◾️ミズノとは
1906年に水野利八、利三兄弟が大阪市北区で水野兄弟商会を創業。米国の野球文化に感銘を受け、日本で野球を広めるべく1907年に運動用ウェアの製造を開始、後に野球用シューズ、グラブ、ボールの製造も開始。スキーや陸上競技、ゴルフなどにも徐々に領域を拡大。1942年に美津濃に社名変更、1962年東証二部上場。2022年に開発拠点としてイノベーションセンターを大阪の本社敷地内に創設、2023年に初のファッションスニーカー主軸の直営店を心斎橋にオープン。2025年3月期連結業績は売上高が前期比4.6%増の2403億円、営業利益が同20.2%増の208億円、純利益が同6.5%増の152億円。

目次
ミャクミャク旋風は想定以上 健康志向も追い風
⎯⎯まずは2025年の振り返りからお聞きします。売上高、利益共に過去最高を更新し続けています。
直近の2025年4〜9月期では、パーソナルベストをまた更新することができました。国内ではフットボール(サッカー)シューズやワークビジネス、ライフスタイルシューズ(ファッションスニーカー)などが好調で、グローバルでは米国のゴルフ、欧州のインドアスポーツ関連やライフスタイルシューズ、アジア・オセアニアでバドミントンやフットボールなどが伸びています。台湾でもワークビジネスを本格化しています。ゴルフで契約選手が何人か優勝し、ユニフォームサプライヤーを務める阪神タイガースもセ・リーグで優勝を飾るなど、運に後押しされた部分もあります。2028年3月期に売上高3100億円、営業利益280億円という中期経営計画に対しては、下期の結果次第ですが、前倒しの可能性もあります。
⎯⎯2025年は「ミャクミャク」スニーカーや「いのちの遊び場 クラゲ館」のユニフォーム製作など、万博関連でもミズノがよく話題になりました。
おかげさまで万博関連で企画したグッズは想定以上に売れました。ミャクミャクのシューズは、「MIZUNO ENERZY」という独自開発の高反発ソール素材を使用したものです。開幕前はミャクミャクにも万博自体にもネガティブな風が吹いていましたが、時間が経つにつれ大人気となり、我々もそれに便乗させてもらった。万博閉幕後に、黒いミャクミャクシューズを当初は限定2025足で発売しましたが、その4倍ほどのお客様から反響をいただき驚きました。転売などによって本当に欲しい方の手元に届かないのは本意ではないため、欲しい方全員にお届けする受注も実施しました。

ミズノが万博閉幕後の11月に受注開始し話題となった黒いミャクミャクシューズ(3万800円、左)と、2023年に発売したミャクミャク型ダンベル
Image by: MIZUNO
⎯⎯特に2022年3月期以降に利益率が大きく伸長し、「コロナからの反動」という言葉だけでは説明しきれない好調が続いています。要因をどう分析していますか。
コロナ禍中に、社員がコストをなるべく抑え、粗利率を上げる努力をしてくれたことは間違いありません。加えて、世の中のスポーツそのものに対する価値観が変わってきたと感じています。コロナ禍中、スポーツは「不要不急」などと言われたこともありましたが、実際はそうではなかったということです。健康志向の高まりを受けて「するスポーツ」が支持を集めると共に、「見るスポーツ」の価値も上がっています。阪神タイガースのシーズンシートなんて争奪戦です。コロナ禍を経て、スポーツが持つ価値が見直されたんじゃないでしょうか。健康に対する関心の高さは、今後も続いていくと見ています。少なくとも高齢化が進んでいく日本では、運動によってできるだけ健康寿命を伸ばしたいと考える層が増えるはずです。
サッカースパイク好調 高校サッカーや大学選手権でシェア1位




水野社長の足元は、ミズノのサッカースパイク“モレリア”をベースにしたファッションスニーカー“ウエーブプロフェシーモレリアネオ”
Image by: FASHIONSNAP(Naoki Takamura)
⎯⎯ここからは各事業について具体的にお聞きします。サッカースパイクが近年学生の間で支持を広げていますが、何かヒットのきっかけがあったのでしょうか。
サッカースパイクには多くの先行企業があり、ミズノは後発です。しかし、少しずつシェアを伸ばし、2024年12月〜2025年1月開催の高校サッカーや全日本大学サッカー選手権では、ミズノがスパイク着用率1位となりました。これには我々自身も驚いています。競合の外資企業と比較したら、契約しているアスリートも多いわけではありません。これは製品そのものの機能性を評価していただいた結果なんだと捉えています。
2026年にはサッカーのワールドカップもあります。参加チーム数が前回大会の32ヶ国から48ヶ国に増え、史上最大規模での開催です。これだけ参加枠が増えるとなると、今までサッカーがあまり盛んではなかった国・地域でもモチベーションが今後高まっていくと期待しています。
⎯⎯ランニングシューズについては、箱根駅伝でシェア1位だった2016年以降は、やや足踏みの時期が続いてきた印象です。今年は2人が着用し、復活の兆しを見せました。
ナイキが2017年に厚底シューズを発売したのを皮切りに超臨界発泡技術をミッドソールに取り入れた厚底シューズが急に出てきて、市場を席巻しました。ミズノはそれにシェアを奪われてきた。ただ、今は我々もそういった技術や素材を使うことができるようになり、元々持っていた独自のソール基幹テクノロジー「ウエーブ」を取り入れたランニングシューズ「ハイパーワープ」を12月に発売したところです。ここからランニングカテゴリーでの復権を目指します。大会のオフィシャルスポンサーを務める箱根駅伝でのシェアも、時間をかけて少しずつ取り返していけたらと思っています。
競泳水着の分野でも、「レーザーレーサー」の登場によって2008年に一気に市場が変わるといったことがありました。ただ、一時的に売上がへこむことがあっても、地道に事業を続けていればまた復活できる。ランニングシューズについても、慌てず騒がず、じわじわ行こうぜと。




研究開発強化のために、ミズノが2022年に本社隣に開設した施設「ミズノエンジン」
Image by: MIZUNO
⎯⎯国内外の競合スポーツメーカーと比較した際、シューズ、アパレル、用具と多角的に事業運営している点はミズノの特徴です。こうしたバランスを元々目指してきたのでしょうか。
最初からバランスを考えてポートフォリオを組んでいったわけではありません。求められる中で自然発生的に事業が増えて、結果として多角的になっていると言った方が正しい。ただ、やはり事業の柱がいくつもある方が、万一どこかの分野の調子が悪い時もカバーはしやすいと思っています。
大手のスポーツメーカーはシューズを祖業としているケースが多いですが、ミズノは野球の用具からスタートしています。それもあって、今でも売り上げに対して用具のシェアが3分の1ほどあり、アパレル、シューズもそれぞれ3分の1を占めている。ただ、市場規模で見たらシューズやアパレルは用具に比べて大きいわけですから、理想の売上構成比はシューズとアパレルで各4割、用具で2割ですね。そのように伸ばしていければと思っています。
ファッションスニーカーとユニフォーム事業が次なる成長ドライバー




渋谷パルコのミズノ店舗
Image by: MIZUNO
⎯⎯ライフスタイルシューズ、いわゆるファッションスニーカーも好調です。部活や体育のイメージが強かったミズノのスニーカーが、おしゃれなセレクトショップに並ぶようになったのは近年の大きな変化です。
ライフスタイルシューズはコラボレーションモデルがヒットしたことなどもあって、最初は欧州で人気に火がつきました。元々機能性については自信がありましたが、デザインについては外部の力も借りる中で徐々に支持を広げ、今に至ります。パフォーマンス製品は機能が認められればそれで使ってもらえますが、ファッションアイテムはいくら機能がよくてもそれだけでは売れない。同時に、希少であることも求められます。同じモデルを大量に供給するというのではなく、売り切れる量を見極めて、次々と新モデルを発売していくというやり方を採っています。
従来はスポーツ専門店への卸販売をビジネスの軸にしていましたが、デザイン性の高いライフスタイルシューズを売っていくためには、自分たちで売る力を身に付けることも重要です。2025年秋には、都内だけで一気に直営店を4店出店し、今後も積極出店を予定しています。4店の中では、特に渋谷パルコの店舗がよく売れています。
⎯⎯法人向けユニフォームなどを扱うワークビジネスカテゴリーは、この5年で100億円規模に成長しました。ユニフォーム事業は、ユニクロはじめアパレル各社がいま注力している分野でもあります。
ワークビジネス事業は、物流企業のドライバー向けユニフォームからスタートしました。考えてみれば、アスリートが着用するユニフォームも彼らにとってみれば仕事着なわけです。野球選手のユニフォームなら野球がしやすいカッティングや素材を取り入れている。ミズノの持つその開発プロセスを応用すれば、建築や医療、物流など、さまざまな仕事の現場で使いやすいユニフォームやシューズを作ることができる。その価値を評価いただき、企業単位でユニフォームを採用いただくケースが増えています。

ミズノがワークビジネスカテゴリーで提供しているウェアやシューズのサンプル
Image by: MIZUNO
⎯⎯ワークビジネス、ライフスタイルシューズが新たな成長軸となる中で、中高生の部活というミズノのこれまでの主戦場は、少子化や教師のワークライフバランスの観点で大きく変化しています。その点はどう見ていますか。
部活は今過渡期にあり、どうなるか見えない部分もありますが、これからはボランティアで学校の先生が教えるという従来の形ではなく、地域クラブのような形になっていくんじゃないですか。ドイツに視察に行きましたが、日本も欧州のように、年齢に関係なく地域の人がメンバーになって、全員が会費を払って参加するという形になると思う。日本も水泳は地域にスイミングクラブがありますね。
部活の今後のあり方については、さまざまな企業や自治体、学校などと一緒になって、適した形を探っていきたいと思っています。部活という仕組みがなくなったら困るのは子どもたちですし、日本の競技力も落ちてしまう。何かしら当社として貢献したいという思いです。それで、2025年3月にブカツ・サポート・コンソーシアムという仕組みに参画しました。
「どんどんやれよ、失敗しても構わへん」


ミズノとサッポロビールのタッグで2月から関西圏で発売する、スポーツシーンでの飲用を狙ったノンアルコールビール。ミズノの多様な商品開発姿勢を表す1つ。
Image by: MIZUNO
⎯⎯改めてミズノが手掛けている製品や事業を調べてみて、その多様さに驚いています。アイデアはどのように生まれるのでしょうか。
社内から事業案などを集めるアイデアソンでは、2024年に800件以上のアイデアが集まりました。闇雲に事業化を目指してもダメなので、新規事業に関してさまざまな観点からブラッシュアップを行っていく「ミズノステージゲート」という仕組みもあります。いくつか関所のようなステップを設けて、段階ごとに様々な社内リソースも使えるようにしていくものです。ステージゲートで最終ステップまで進んでいる事業は現段階ではまだ無いですね。ただ、これは事業化ではなく製品化ではありますが、ボトムアップでアイデアを形にするという流れでは、2022年に発売したノンアルコールビールの「プハー」が当てはまります。
⎯⎯近年は社外からアイデア・事業を買ってくるM&Aや、スタートアップ企業に投資するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が盛んです。社内から年間800件もアイデアが出ることは貴重ですね。
もちろん、端にも棒にもかからないものも含めて800件ですよ。でも、それだけアイデアを出してくれるというのはありがたい。「どんどんやれよ、失敗しても構わへん」と奨励していることが効いているのかもしれません。創業者の言葉であり、我々のDNAである「ええもんつくんなはれや」の精神ですね。「せんみつ」と言いましてね、1000やって3つ成功するものがあったら上出来だと。残り997は失敗だとしても、それだけアイデアを出さない限りは成功するものも出ません。だから、800件のうち成功するものは1つあるかないか。2つ出たら多すぎるくらいです。チャレンジしようとする気持ちを持つことが何よりも大切だと思っています。
自分の時間のうち10%までなら、新規事業に使ってもいい、上司はそれを止めてはいけないという制度もあります。最終的に事業が形にならなかったとしても、評価が下がることはない。ただ、10%を新規事業に使った結果、その部門の売り上げも10%下がったというのではあかんですよ。それはチームでなんとかやってもらっています。
⎯⎯2026年は年明けの箱根駅伝だけでなく、2月に開幕するミラノ・コルティナ冬季五輪、3月の野球のWBC、6月のサッカーワールドカップとスポーツの大イベントが続きます。1年の抱負を聞かせてください。
9月には名古屋でアジア大会もありますよ。スポーツが盛り上がる年になると思います。ただ、イベントが多いからといって、我々の業績に直結するわけではありません。経費がかかる部分もある。ただ、晴れ舞台で我々の製品をトップアスリートに使ってもらうことで、「ミズノは優れた機能の製品を開発・提供している会社なんだ」と皆さんに感じていただくことが非常に大切であり、重視していきます。
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