Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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SNSで支持を集めるアイコンであり、デザイナー。そんな現代的な肩書きは、「ムッシャン(mukcyen)」の木村由佳を形作るほんの一側面に過ぎない。「Rakuten Fashion Week TOKYO 2026 A/W」の大トリとして発表した2026年秋冬コレクションでは、外部から付与された画一的な「役割」から距離を置き、木村自身が自由を獲得するための儀式のように映った。
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木村は、文化服装学院を卒業後にヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)社で経験を積み、「エムエーエスユー(MASU)」を運営するソウキ(SOHKI)初のウィメンズブランドとして2024年秋冬シーズンにムッシャンをスタート。ブランド立ち上げから2年余りで「JFW NEXT BRAND AWARD 2026」を受賞したことで、初のショーを実施。続けて「TOKYO FASHION AWARD 2026」に選出され、パリでの展示も行うなど期待の新人の一人だ。同時に、20万弱のフォロワーを抱えるインフルエンサーの顔を持つ。デザイナー兼インフルエンサーという、シンプルかつキャッチーな肩書きは、時に自分では制御不能なイメージとして、木村に襲いかかったことだろう。

自分のあるべき姿に対する葛藤から、今季は「在; formed」というテーマへと辿り着いた。存在と形態を問うコレクションのヒントとなったのが、歴史上で最も「役割」に翻弄された女性の一人であるマリー・アントワネットと、不条理文学の金字塔であるフランツ・カフカの小説「変身」だ。
オーストリアに生まれたマリー・アントワネットは政略結婚によって国王ルイ16世の妻としてフランス王妃となり、栄華を極めた王宮の象徴的存在となった一方で、フランス革命によって全てを奪われた悲劇的な運命を辿った女性でもある。ただし、木村にとってマリー・アントワネットの人生は悲劇なだけではない。「王妃や母、妻といった決められた役割が自分の意思とは関係なく剥ぎ取られ、孤独になることで自由を確立していく物語」に感じられたのだという。

ファーストルックは、マリー・アントワネットが愛好したレースをたっぷりと使った、襞襟(ラフ)付きのドレスが登場。豪華絢爛なルックが続くと思いきや、装飾性よりも多様なテクスチャーが目立つ。木村は、ファブリックをアートのように扱っていた18世紀の「服づくりの精神」に、より感銘を受け、今季はオリジナルのテキスタイルを増やしている。「衣服という日常的なものに使う生地を、繰り返し使うことも念頭に、美しく丈夫なもの作りを追求していた点が本当に素晴らしい。物が溢れ、大量消費する現代だからこそ、長く残せる生地を使いたいと考えました」と説明した。
オリジナルのパターンを配したジャカードは、上質な立体感とコットンが持つ柔らかさのバランスを追求。楊柳素材やビスコース、ピグメントウォッシュなど、素材の表情が豊かで、これまでの退廃的でフィクションを帯びた世界観に有機的な雰囲気が加わった。


シグネチャーである「セカンドスキン」シリーズでは、アルガンオイルで加工した保湿の機能性素材を採用。タキヒヨーとの共同開発で、繊維にビタミンEを練り込んだバージョンも用意。タイトフィットでも圧迫感はなく、着用者を労り、寄り添うように仕上げられ、木村が大切にしている「居心地のいい違和感」を体現している。

さらに今季のクリエイションを支えたもう一つの要素である「不条理」について木村は、嘆くべき困難である以上に、整然と見つめ直すための契機として捉えた。他者からの無情なカテゴライズに対しファイトポーズを取るのではなく、距離を取りながら熟考し、再び歩みを進めるための小休止。デビュー以降、ノンストップで駆け抜けてきた木村がこのテーマに辿り着いたのは必然のように思う。
コルセットやボディコンシャスなワンピース、身体を拡張する肩パッド入りのTシャツ、ジッパーでスリットを入れることで多様な着方が楽しめるジャケットといったアイコニックなスタイルは健在。改めてムッシャンらしさを提示しながらも、今季は新たな挑戦としてテーラリングを打ち出した。


ノーカラーのジャケットはレーヨンをウールで挟み、程よくハリのある生地を採用。身体のラインに沿うエレガントなシルエットに、カットオフのディテールを取り入れ、エッジな雰囲気を残す。また、ジャケットの裏地とベスト、シャツを合体させたインナージャケットも登場し、重ね着することでスリーピースのようなスタイルが完成。こうしたギミックと均整なシルエットの両立には、ヨウジヤマモト社でのキャリアが活かされており、自分史を振り返ったことで生まれたアプローチとして納得感があった。

対して、ムッシャンらしいダークなムードと「変身」が持つ奇妙さが融合したルックも差し込まれた。主人公の死因となった背中の傷に着想し、ニットワンピースやセーターのバックスタイルをボタンで開閉できるようにし、人差し指が切断されたようなグローブが登場。ヘアスタイリストのHayate Maedaによる、異形な生物のようなヘアデザインも視線を集めた。



デザイナーの創造性はもちろん、さまざまな契機を得て、ムッシャンは着実にステップアップしている。この好機の中にいながらも木村は冷静に自己分析する賢明さを見せ、ブランドらしさの輪郭を固めながら、新たなアプローチでその形を拡張した。
5シーズン目にして東京ファッションウィークのラストを飾ることも、「ショーをするのが夢だったので、2シーズン続けてできるのは嬉しいですし、このタイミング(大トリ)なのも光栄です。楽しんで見て頂けたなら、これ以上のことはありません」と謙虚に向き合っていた。
だからこそ、木村の真摯に学ぶ姿勢を信じて誤解を恐れずに言うと、ムッシャンはもっとゆっくり歩んでいいブランドではないだろうか。
ファッションウィーク全体を盛り上げるためにも、初参加や若手ブランドといった「トピック」は重要で、加速するファッション業界のサイクルの中においては、誰しも新たな才能に飛びつきたくなってしまう。ムッシャンがこの2シーズン、東コレに若手の活気をもたらしてくれたことは間違いない。しかし、ショーの実施には事実として圧倒的な費用と時間、労力がかかる。そして、人間の創造力は天才型、努力型に関わらず一朝一夕で「完成」するものではないはずだ。他者からのラベリングに葛藤し、向き合ったムッシャンのコレクションを見ればこそ、若手ブランドのクリエイションには長い目で向き合っていかなければならないと気付かされた。

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