Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)
もしも、あと1ヶ月で地球が滅亡するなら、何をしたい?
もしも、明日が人生最後の日だったら?
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「ムッシャン(mukcyen)」の初ランウェイショーは、10分という刹那的な時間の中で、私たちに「限られた残りの人生をどう過ごすのか」という根源的な問いを突きつけた。

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会場には火事や警告灯を想起させる真っ赤なライトが照らされ、座席にはホイッスルが置かれていた。冒頭、女性の声が「What if, What if, What if.(もしも、もしも、もしも)」と繰り返す中、モデルたちがランウェイに姿を現した。
予言が導いた“限られた時間”への思索

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デザイナー木村由佳が今季の着想源に挙げたのは、SNSを中心に広がった「2025年7月5日に日本で大災害が起きる」という噂だった。東日本大震災を的中させたという漫画家のたつき諒の作品に記された一文が発端となり、不安や憶測が世間を駆け巡った。
幸い、そのXデーは何事もなく過ぎ去ったが、木村は「未来への不安感から、“限られた時間をどう生きるか”ということを考えました。予測できない出来事にも対応できるような洋服をイメージして制作しました」と語る。
肌を優しく包むセカンドスキン

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
ファーストルックに登場したのは、枕を抱え、包帯を巻きつけたようなセカンドスキントップスとレギンスに身を包んだモデル。避難の途上を思わせる姿だが、その素材は柔らかく、身体を優しく包み込む。

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この象徴的なセカンドスキンシリーズは今季、キュプラを重ねて保湿加工を施し、長時間の着用にも耐える仕様に進化した。木村は「スキンケア効果のある素材を開発し、インナーウェアでケアできる服を目指した」と話す。快適さと実用性を兼ね備え、日常と非常時の両方に対応する"防護服"となった。
災害への"備え"をファッションに昇華

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コレクションには、災害時の"備え"を思わせるディテールが散りばめられていた。
バッグの造形を取り入れたというハーネスや、ジャケット、ビスチェ、ショートパンツとなる肩甲骨のような立体的なフォルムの“スキャプラハーネス”。ストレッチコットンのジャンプスーツは、大きなポケットや変形できるラペルを備え、シーンに応じて自在に姿を変える。

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さらにモデルたちが携えていたぬいぐるみやランプは、被災時の"持ち物"を想起させるアイテムだった。ギプスや防刃ウェアを彷彿とさせるメッシュやチェーンのアクセサリーは、身を守りながらも前に進む人間の強さを表現する小道具として機能。シャツのスリットに腕を通し、骨折時に使用するアームホルダーのように固定したり、長いスカーフで頭を覆ったりと、スタイリングにもその精神が落とし込まれていた。
ムッシャンが描く死生観と退廃美

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ムッシャンは2024年秋冬にデビューしたばかりの新たなブランド。今回、日本ファッション・ウィーク推進機構の「JFW NEXT BRAND AWARD 2026」でグランプリを受賞し、このショーで今季のファッションウィークは幕を開けた。
死生観を核に据えたダークで退廃的なムード、コルセットや包帯などボンテージディテールによる身体の誇張、中国と日本をルーツに持つ木村のオリエンタルな表現。4シーズンですでに独自のスタイルを確立しており、その世界観はこの初舞台でも鮮烈に表れていた。
防災の日に示した“向き合うことの重要性”

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奇しくもショーが行われた9月1日は「防災の日」だった。1923年の関東大震災の教訓を伝えるために制定された日である。
予測不可能な災害や事故が相次ぐ不確実な現実の中で、ムッシャンが示したのは、自分自身と向き合うことの重要性だ。木村はこうプレスノートに綴っている。
「自分自身に問い質すことは、不確定な運命の気質の膿である不安や苦痛を和らげるセラピーといえるでしょう。 それは、ほんの 10 分足らずの時間かもしれません。 ただ実際は、その儚さや一貫性の無さからは程遠く、洋服を着脱することを通した思考は、 無を赤く染め上げるかのように、自己のアイデンティティーを炙り出す役割を果たすのです」
わずか10分というショーは、まさに「限られた時間」の象徴だった。しかし、その濃密な瞬間が観客に伝えたのは、不安や恐怖ではなく、どんな状況でも前を向いて生きることの尊さ、備えと心構えを持つことの大切さだった。そして、服をまとうという日常の行為さえ、私たちが自分自身を見つめ直すきっかけになり得るのだと気づかせてくれた。

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