【令和のマストバイヴィンテージ】今買っておくべき名品は？ vol.78 ザ・ノース・フェイスダウンベスト編

Image by: FASHIONSNAP

　歴史的な背景を持つ、ヴィンテージ古着。製造された年代が古いものや希少性が高いものが一般的に珍重されていますが、ヴィンテージの楽しみ方はそれだけではありません。この連載では、さまざまな視点でヴィンテージ古着の楽しみ方が味わえるアイテムを、国内最大規模のヴィンテージの祭典を主催するVCM代表十倍直昭が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に紹介。第78回は「ザ・ノース・フェイス（THE NORTH FACE）」ダウンベスト編。

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VCM inc.代表取締役

十倍直昭

2008年よりヴィンテージショップを運営。その後2021年には、ヴィンテージ総合プラットフォーム VCM（@vcm_vintagecollectionmall）を立ち上げ、来場者を1万人以上を動員する、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。
また渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」、エルメスジュエリーを専門に取り扱う予約制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLERY」を運営。
2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、全国のヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。

1960年代のアメリカ、アウトドア隆盛の背景

　現在アウトドアは、誰もが楽しめる娯楽として老若男女に親しまれています。しかし、1960年代のアメリカでは若者のクールなカルチャーでした。

　第二次世界大戦後のアメリカでは経済成長を背景に大量消費文化が広がり、郊外の一軒家や家電製品などに代表される物質的な豊かさを手に入れることがステータスとなりました。一方で、工場や発電所、自動車の増加により大気汚染や水質汚濁が拡大したり、農業分野で農薬や化学肥料が大量に使用されたことで、1960年頃から環境破壊が問題視されるようになりました。この問題に声をあげたのが、若者たちです。彼らは様々な方法で大量消費社会に異議申し立てを行ったのですが、その行動のなかから新たなカウンターカルチャーが生まれました。そのひとつがアウトドアカルチャーです。アウトドアカルチャーは、同じく当時のカウンターカルチャーであるヒッピーカルチャーと密接に関わりながら、広大な自然の中で既存の社会規範や制約からの自己の解放を目指しました。

　ザ・ノース・フェイスが創業したのもこの頃。1966年にアメリカ・サンフランシスコで小さな登山用品店としてスタートしました。設立当初は寝袋などを販売していましたが、1977年にアウトドア業界でいち早くゴアテックス素材を取り入れるなど、革新的な取り組みが支持を集めるようになり、今や世界的なアウトドアブランドに成長しています。

年代によって異なるダウンベストの魅力

　今回は、1970〜80年代のザ・ノース・フェイスのダウンベストをピックアップしました。どちらも「茶タグ」と呼ばれるブラウンのタグが付いていますが、年代によって少し仕様が違います。

　1970年代のアイテムは胸にフラップポケットが付いていません。また、スナップボタンでみると1970年代初期のアイテムにはブランドの刻印が入っておらず、1970年代後期から刻印が入ったアイテムが登場するようになります。生地にはナイロン素材が用いられているのですが、ちょっとデリケートなのが玉にキズ。アウトドアブランドらしいはっきりとしたカラーバリエーションが魅力で、なかでもイエローやマルーンは流通量が少なく、人気です。

　1980年代のアイテムには胸ポケットが付いているほか、ボディと裏地が色違いになっています。個人的には、服を脱いだときやちょっと動いたときにチラッと見えるこの裏地がお気に入りです。また、ロクヨンクロスと呼ばれるコットンとナイロンの混紡素材が経年変化で色褪せすることで、「いなたい」雰囲気が出るのも80sの特徴です。こちらもカラーバリエーションが多いのですが、そのなかでもブラックは非常に希少。ヴィンテージ市場でもなかなか見つかりません。

　アウトドアウェアの技術は日進月歩なので、「衣服」としての機能は現行アイテムに軍配が上がります。しかし、ヴィンテージにしか生まれない独特の雰囲気にハマる人も少なくありません。近年は暖冬傾向もあってか、ヴィンテージのダウンベストの人気はかなり高くなっています。個人的にはデニムジャケットやレザージャケットにのうえにダウンベストを羽織れば十分。最近はジーンズに合わせた定番のアメカジコーディネートよりも、キレイ目のアイテムやモードブランドと合わせるのが好みです。女性がワンピースや細身のパンツと合わせるのも可愛いと思うので、是非チャレンジしてみてください。

編集：山田耕史　語り：十倍直昭