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NY州はファッション業界の“サステナ先進国”になれるか?

ニューヨークの街並み

Image by: Jun Takayama

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NY州はファッション業界の“サステナ先進国”になれるか?

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 アメリカ・ニューヨーク州のファッション市場を大きく変えるかもしれない新たな法案が注目を集めている。その名は「ファッション・サステナビリティ&ソーシャルアカウンタビリティ法案」。同州でビジネスを行う年間売上高1億ドル以上のアパレル・フットウェア関連企業を対象としたもので、同州のサステナビリティ戦略を印象付けるその内容はサプライチェーン改革にもつながるとしてファッション業界では見逃せないトピックとなっている。いま知っておきたい同法案の主要ポイントについて平川裕氏が解説する。

photo by: Jun Takayama

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“ファッション法案”とは? 主要ポイントを解説

 2021年10月、ニューヨーク州のAlessandra Biaggi上院議員とAnna Kelles下院議員は「ファッション・サステナビリティ&ソーシャルアカウンタビリティ法案(通称“ファッション法案”)」をそれぞれの議会に属する委員会に提出した。同法案の主要ポイントは以下の通り。

  • 賃金の中央値や温室効果ガス排出量、水や化学物質の管理など、社会および環境への影響が大きい部分の開示。またその数値を削減するための具体的な計画の策定義務
  • 素材の生産量の開示および素材ごとの内訳の開示義務
  • 開示情報はすべてオンラインで公開しなければならない
  • 違反が発覚し、3ヶ月以内に是正しない企業に対して、年間売上高の2%を上限とする罰金が課されるほか、違反企業のリストが毎年公表される
  • 「Fashion Remediation Fund」を創設し、罰金はこの基金に集める。この基金は被害を受けた労働者や地域社会のために使われ、環境保護プロジェクトにも充てられる
  • 「Fashion Remediation Fund」を創設し、罰金はこの基金に集める。この基金は被害を受けた労働者や地域社会のために使われ、環境保護プロジェクトにも充てられる

 同法案の対象となるのは、年間売上高が1億ドル以上で、ニューヨーク州でビジネスを行うアパレルまたはフットウェア企業だ。立法趣旨部分では、ファッション業界が環境に与える深刻な影響や、業界の労働力を有色人種の女性の労働者に依存し、低賃金で働かされている点を指摘。こうした問題を重く受け止め、対策を義務付けることで各社に責任ある行動を促し、業界全体の底上げを狙うのと同時に、ニューヨーク州をファッション業界のサステナビリティ分野におけるグローバルリーダーにすることを目指すとしている。

SHEINにも波及する? 今後の流れと企業への影響

 一般的には、委員会での審議の後、可決されればもう一方の院に送られ、両院で可決された後に州知事に送られる。州知事が署名をすれば、法律として成立することになる。仮に両院を通過し、知事までたどり着いたとしても、知事が拒否権を行使する可能性もあるため、法案が成立するまでの道のりはまだまだ遠い。

 ファッション法案が提出された当初は、2022年の春に採決されると見込まれていたが、現在も両院の委員会で審議は継続中で、今春の採決を目指しているとみられている。アメリカはロビイング(利害や信条に基づき、議員や官僚などに立法・政策に関する働きかけを行う活動)が活発なお国柄ゆえ、この法案に反対する声が大きければ否決される可能性もある。しかし、サプライチェーンの透明性や低賃金労働の改善を目指す同法案に真正面から異議を唱える企業は、企業イメージの観点からもそれほど多くないとみる専門家もいる。また、2022年11月に法案に修正が加えられたことで賛成に転じた業界関係者が複数出てきている。なお、修正版では、サプライチェーンで働く労働者が直接の雇用者ではなく、発注元のブランドに逸失利益を直接請求することができることを定めた内容などが新たに盛り込まれ、デューデリジェンス(企業価値やリスク等に関する調査)時の調査項目や要件が明確化されている。

 2021年8月にニューヨーク州知事に就任したキャシー・ホークル(Kathy Hochul)は、2022年10月に州内の繊維産業を支援する法案に署名。さらには同年12月、意図的にアパレル製品にPFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)を使用することを禁ずる法案にも署名をしている。ニューヨークファッションウィークにも顔を出すなど、ファッション業界のサステナブビリティ問題に関心が高いことがうかがえる。以上のことからも、法案が成立する可能性は十分あり得ると考えて、対象企業は今から準備を進めておくことが重要だ。

 対象となるのは、年間1億ドル以上の売上を計上し、ニューヨーク州でビジネスを行うアパレルまたはフットウェア企業。つまり、LVMHやケリングをはじめとするコングロマリットは軒並み対象となる。また、“フットウェア”と明記していることからも「ナイキ(NIKE)」や「アディダス(adidas)」といったスニーカーを扱う大手スポーツメーカーなども漏れなく対象にしようとする意図が感じられる。日本企業では「ユニクロ(UNIQLO)」を出店しているファーストリテイリングなどが対象となる。また、サプライチェーンで働く労働者の過酷な労働環境が物議を醸した「シーイン(SHEIN)」のようなファストファッション企業も企業規模の観点から規制対象となるため、ビジネスを継続したければサプライチェーンの改革を迫られることになるかもしれない。

 他方、“ニューヨーク州でビジネスを行う”の定義は、いかなる経済活動も含まれるとされているが、例えば州内に実店舗がなくともニューヨークからEC経由で商品を購入できるといったケースが含まれるかどうかまでは現状の法案には明記されていないため、成立した場合には改めて確認する必要がありそうだ。

シーインも労働環境改善に向けて進めている

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ニューヨークのファッション市場は変化するか

 仮にこの法案が成立したとして、対応できないことを理由にニューヨークのファッション市場から撤退する、といった選択をする企業はほぼないだろう。他方で、あくまで“法案”である現時点では、開示方法やどこまで詳細に開示する必要があるのか、といった具体的な内容は明らかにされておらず、市場へのインパクトを正確に測ることは難しい。また、ニューヨーク州限定で適用されるという点も、他の州や国にどの程度影響を与えるかが未知数だ。

 しかし、サプライチェーンの半数以上を開示することが義務付けられれば、各企業はサプライチェーンの見直しを迫られることになる。そうすると基準に満たない下請け企業が廃業し、失業者がニューヨークの外で大量に発生する可能性も考えられるため、そうした“しわ寄せ”が来た企業の救済や、会社都合で失業した労働者の雇用の確保などもセットで議論する必要があるように思われる。。また、企業に高い透明性を求めれば、生産コストは確実に上がり、商品の値上げにつながることも想像にたやすい。

 企業にとってはすべてを丸裸にされかねないこの法案だが、世の中の流れに適応するためにもこれをチャンスととらえ、無理やりにでも変わる必要があるのかもしれない。ニューヨークに続く州や国がどの程度出てくるかも注目すべきポイントだ。EUではサステナビリティ分野における法規制が着々と進んでおり、国単位に留まらず、EUを挙げて本気のサステナビリティ戦略を推し進めている。この分野でリーダーシップを取ろうとするニューヨーク州はファッション業界における“サステナ先進国”になれるのか? 動向が注目される。

平川裕

Yu Hirakawa

幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に広報担当として勤務。2017年に「WWDJAPAN」の編集記者(バッグ&シューズ担当)としてパリ・ファッション・ウィークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当する傍ら、ファッションロー分野を開拓する。現在はフリーランスのファッションライターとスタートアップのPR担当という二足の草鞋で活動中。無類のハイヒール好きで9cmヒールが基本。

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