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服は生活のための機械であるーー5人のアーティストがプラダの最新コレクションを映像で表現

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 究極にミニマルで上質な服。2021年春夏のプラダは驚くほどクリーンで、プロダクト的な工業製品のようだ。この単一のステートメントをデジタルで見せるにあたって、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が白羽の矢を立てたのはウィリー・ヴァンダーピエール(Willy Vanderperre)、ユルゲン・テラー(Juergen Teller)、ジョアンナ・ピオトロヴスカ(Joanna Piotorowska)、マーティン・シムス(Martine Syms)、テレンス・ナンス(Terence Nance)の5人のアーティスト。それぞれの視点で描かれた最新のプラダを読み解いてみよう。

(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎

 ウィリー・ヴァンダーピエールは、ラフ・シモンズの幼少時からの旧友で、ブランド初期からラフのビジュアルを撮ってきたことでも知られる。ここ数年はプラダのキャンペーンビジュアルも手掛けているから、ミウッチャとラフの2人のビジョンを視覚化する上で欠かせない人物と言えるだろう。

 ウィリーが強調したのは、プラダの服のシルエットの美しさ。90年代後半の初期のメンズコレクションを連想させる4つボタンのタイトなスーツと白シャツのフォルムは、ミニマリズムの権化のようだ。「プラダは毎シーズン進化し続けているけれど、今シーズンはファッションのアイデアを剥ぎ取って、そのアイデアを再びファッションに変えていく作業をしているような印象を受けた」とウィリーの弁。

 工場の無機質な機械とプラダの服を対比させたのは、ドイツ生まれの写真家のユルゲン・テラー。コレクションの中からユルゲンがフィーチャーしたのは、プラダを代表する素材で工業資材として開発されたポコノナイロン。同素材のドレスの装飾は胸元の三角プレートのみだが、目的のためだけに作られた無駄のない機械のような美しさを感じた。

 ポーランド生まれの写真家 ジョアンナ・ピオトロヴスカは、ポール牧師匠ばりの"指パッチン"の音とモノクロームの映像を連動させて、リズミカルにプラダの服を見せた。「ジェスチャーと身体性は、非言語的なコミュニケーションの本質的な形であり、私の作品のコンセプチュアルな側面と構成の側面で大きな役割を果たしている」とジョアンナは説明する。最後の黒人女性モデルの眼とフィンガースナップの乾いた音が、強く印象に残った。

 アメリカ生まれの写真家、マルティーヌ・シムスは、グリーンの椅子が特徴の映画館を舞台に、映画館に集う人たちとスクリーンに映る人の境界線をなくした。「いくつかのコレクションピースは60年代の雰囲気があるので、その時代から現在に至るまでの映画文化や監督への言及を盛り込むようにした」とシムス。

 アメリカの映画監督、俳優のテレンス・ナンスは、白に赤のラインとロゴが入ったスポーティなコレクションをフィーチャー。壁面に映し出されるオリンピックの聖火のような影と、鏡の壁面をヒラヒラ舞う十二単のようなゴールドとシルバーの布......。「この映像はスピードと遊びから生まれたもの」とテレンスは説明するが、日本人の視点では開催が危ぶまれる状況の東京オリンピックを描いているように思えた。

 5人のプレゼンテーションの後は、コンクリートのミニマルな空間でのファッションショーの時間。ウィメンズの花柄のコートとドレスとレースを例外にすれば、ほとんどは無地のコレクションだ。一分の隙もない世界観の中で唯一笑ってしまったのは、上半身はタイドアップで下半身はスウェットパンツの"Zoom会議ルック"。ステイホーム時代の世界共通のユニフォームを、ユーモアと皮肉を込めて提案した。ミウッチャがコレクションを言葉で説明することは珍しいが、プラダのホームページにはこう書かれている。「時代が複雑化するにつれ、服はシンプルで目立たず、生活のための機械、行動や活動のための道具となっていく」と。

 9月に発表予定の2021年春夏ウィメンズコレクションから、ラフ・シモンズが共同クリエイティブディレクターとして参画し、2人の天才による新生プラダの幕が開ける。それを今から楽しみにしている人も多いと思うが、ミウッチャ単体でのプラダは今シーズンでひとまず見納め。彼女のデザイン哲学の"骨格"を堪能できる最後の機会なのだ。

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文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧

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