
日本と韓国を主軸にブランドのPR・マーケティング支援、インフルエンサー施策、ポップアップストアやイベント運営をはじめとしたコラボレーション施策などを手がける企業シーズマーケット。創業以来、「クリオ(CLIO)」や「デイジーク(dasique)」「マニョ(ma:nyo)」「コスアールエックス(COSRX)」「メディキューブ(medicube)」「ラカ(Laka)」など、SNSで“バズ”り、若年層を中心に人気を集める韓国コスメの数々が、同社のサポートを経て日本市場での存在感を高めてきた。
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テレビ東京報道局で17年間、ソウル支局長として韓国の政治・経済・エンタメを取材した福元雄一 代表は、その経験を基に2017年に日韓シーズマーケットを設立。韓国ビューティブランドの日本進出支援を軸に、日本企業との共同事業や越境プロモーションへと事業を拡大している。近年は、渡韓せずとも国内で韓国の最新トレンドに触れられる“リアルな接点づくり”にも注力。直営店舗として、伊勢丹新宿本店本館1階に韓国コスメの常設セレクトショップ「イェップス バイ シーズマーケット(Yep’s by SEEDS MARKET)」を、グラングリーン大阪南館2階に韓国発のアパレルやコスメ、ライフスタイル雑貨を集めたセレクトショップ「カルチャーマーケット(Kulture Market)」を展開している。今回、韓国の“今”をキュレーションし日本に発信する福元代表に、日本における韓国ブランドブームの背景と日韓ビジネス成功の要について聞いた。

■福元 雄一(ふくもとゆういち)氏:株式会社シーズマーケット 代表取締役。テレビ東京の報道局に17年間在籍。「ガイアの夜明け」「WBS」などの番組制作を経て、2012年から3年間テレビ東京ソウル支局長を経験。2017年にシーズマーケットを日本と韓国で起業する。
Image by: FASHIONSNAP
トレンドは「上から下に流れる」 ピラミッドの頂点を狙った戦略
⎯⎯福元さんはもともとテレビ局にいらっしゃったそうですね。韓国ブランドを扱うビジネスに至った経緯を教えてください。
テレビ東京の報道局に17年間所属し、2012年から2015年までの3年間はソウル支局長を務めていました。取材を通じて感じたのは、韓国の“今”と、20年前の日本の状況が非常に似ているということです。例えば、韓国では昨今プライベートブランド(PB商品)の需要が拡大していることや、共働きが増加してさまざまな代行ビジネスが生まれている点など、韓国の経済的な構造が日本の過去と重なって見えました。そこで、日本のビジネスモデルや成功事例といった“ビジネスの種”を韓国へ輸出できる時代が来るのではないかと考え、起業を決意しました。
⎯⎯今の韓国が20年前の日本と似ているということは、今後の展開もある程度予測できるということでしょうか。
ある程度は予測できるでしょうね。だからこそ、日本と韓国の両方に拠点を置いてシーズマーケットを設立しました。当時、大きな日系企業は韓国にも拠点を置いていましたが、経営やマーケティング領域で日韓の間に入り、双方で事業を行う会社はほとんどありませんでした。広告領域では電通さんのような大手もありましたが、日本企業の韓国でのテレビ出稿をサポートするのが中心。だからこそ、日韓の間に立って広告PRからポップアップ運営、販売事業まで、クロスオーバーで、かつ一気通貫で事業全体を支援することに挑戦する価値があると考えました。
⎯⎯実際に事業を始めてみて、いかがでしたか?
当初は日本企業の韓国進出支援を目的に事業をスタートしたのですが、2017年頃、韓国は不況で、日本企業の多くは、「成長している国に進出したい…」という声を多くいただきました。かつての日本と似ているからこそ“先が読める”というメリットは根気強くお伝えしてきたのですが、日本企業の韓国進出のハードルは依然高いまま。そんな中で、悩んでいたタイミングに韓国コスメブランドのクリオから「日本に進出したが、売り上げが伸び悩んでいる」と相談を受け、広告やPRを担当することになったのです。
⎯⎯それが成功につながった。
はい。クリオとの取り組みを始めたのは2019年頃で、コロナウィルスが蔓延する直前でした。当時、日本には韓国コスメがそこまで多くなく、私たちの施策をきっかけに売上が大きく伸びました。その成功を機に、他の韓国コスメブランドからも次々と依頼が来るようになり、ビジネスは自然と「日本から韓国へ」から「韓国から日本へ」へと方向転換していきました。
その後、コロナ禍で人々が韓国へ行けなくなり、Qoo10のような越境ECでの購入が主流になったことで、ブランドがそこから得た利益を広告やPRに再投資する好循環が生まれ、われわれはウィンウィンの関係が築けたと思います。
⎯⎯先ほど福元さんがおっしゃったように、2019年頃はまだ今ほど韓国コスメブランドの日本上陸は少なかった印象です。具体的に、どのような手法で成功させたのでしょうか。
クリオの成功は、日本市場攻略の定石徹底と先進的な戦略の融合にありました。具体的には、藤田ニコルさんを起用した雑誌「ViVi」とのタイアップに加え、当時としてはまだ珍しかったインフルエンサーマーケティングへの早期の注力です。特に「口コミ創出」を重視し、日本最大級のコスメ総合情報サイト「@cosme」でのベストコスメランキング1、2位獲得を戦略目標としました。これは、@cosmeのエンブレムの高い販売促進効果を見込んだためです。日本の消費者が口コミ投稿に心理的ハードルを持つ点を踏まえ、自然な口コミ発生を促す環境整備と導線設計にも尽力しました。

クリオのアイシャドウパレットは2020年に「@cosmeクチコミランキング」で1位を獲得
Image by: CLIO
⎯⎯レビューを増やす以外には、どのようなアプローチをされたのでしょうか。
当時、まだ注目度が低かったプロのメイクアップアーティストに焦点を当てたマーケティングを展開しました。放送局勤務時代、芸能人の周囲にいるメイクアップアーティストやスタイリストこそが最新情報の源泉であると確信していました。トレンドが「ピラミッドの頂点から下へ」流れるという原則に基づき、彼らを情報伝播の「頂点」と位置付けました。製品を先行して試用してもらい、その評価を起点に情報を広げるこの戦略は、当時としてはまだ力を入れている企業が少なかったマーケティング手法であり、大きな成果へとつながる大きな要因となりました。
⎯⎯その成功パターンは今も通用するのでしょうか。
正直、今の市場では難しくなってきています。以前は、化粧品メーカーであれば発表会を開いてテレビCMを流し、インフルエンサーや雑誌、YouTuberを組み合わせるという王道プランがありました。しかし今はSNSの普及も含め複雑化し、決まった勝ち筋がなくなっています。
⎯⎯具体的にはどのように変化していますか?
かつては、テレビCMや雑誌といったマス向けの「空中戦」が主流でした。しかし今は、一般の生活者が日常的に発信する「地上戦」の重要性が圧倒的に高まっています。SNS上には「ヨガ好き」「韓国好き」「ママ」など、小規模でも熱量の高いコミュニティが無数に存在します。そこでコアなファンをつかめば、彼らの投稿がUGC(User Generated Content、企業ではなく一般の消費者が自発的に作り、発信するコンテンツのこと)なって広がり、自然な口コミが生まれていきます。
こうしたコミュニティをどう生かし、地上戦を戦い抜くかが、これからのブランド成長を大きく左右していくと感じています。

日本人ヘアメイクアップアーティストGeorgeがプロデュースした「ジョリエン(Joliyen.)も同社が手掛ける
Image by: Joliyen.
短期で売り抜く韓国と100年続く日本 ビジネス観の違い
⎯⎯韓国ブランドはトレンドサイクルが早い、いわゆるスマッシュヒット型が多い印象です。そうしたブランドを取り扱う上での良い点と、反対に課題となる点は何でしょうか。
日本のブランドが「100年経営」を目指す一方、韓国は「トレンド創出」を重視し、バズれば売り切るサイクルが速い。このスピード感が強みである反面、判断や方針が頻繁に変わる課題も抱えています。これは「言うことが変わる」と捉えられがちですが、「状況に応じた軌道修正が早い」とも評価できます。日韓ジョイントベンチャーの失敗は、日本側がこの変化に対応できなかったことが多く、そこには商習慣の違いが横たわっていると思います。
⎯⎯具体的な商習慣の違いを教えてください。
広告業界では、日本ではクライアントよりも広告代理店や芸能事務所が優位なケースが多く、タレント交渉で事務所に断られると進まないこともあります。一方、韓国ではクライアントが最も強く、複数の代理店から最安単価を提示したところと契約するのが一般的で、日本で「単価を聞いて契約しないのは失礼」とされる感覚は問題視されません。
また、日本では「後出しじゃんけん」は厳禁ですが、韓国では前提条件や方針が後から変更されることが日常的で、「ゴールポストが動く」と表現されます。特にトップダウンで上層部が交代すると、方針が大きく修正されることが多々あります。
⎯⎯そうした商習慣の違いを乗り越えるにはどうすれば良いのでしょうか。
日韓ビジネスにおいては「相互理解」と「相互譲歩」が不可欠です。お互いの文化や商習慣を深く理解し、どこに着地点を見出すかが何よりも重要となります。
日本側は、韓国に対し「後出しはNG」といった日本の常識やルールを繰り返し伝える必要があります。同時に、日本側も韓国のビジネスにおけるスピード感や進め方を受け入れ、譲歩する姿勢が求められます。例えば、日本では新商品の発売情報が数ヶ月前に固まるのが一般的ですが、韓国では発売1ヶ月前に決定することも珍しくなく、日本側がある程度これに寄り添うことが円滑な進行につながります。
契約前に起こりうる事態を共有し、双方の譲歩点を明確にすることで着地点を見出し、信頼関係を構築することが重要となります。
⎯⎯文化や商習慣が大きく違う中で、韓国ブランドのどういった点が日本の消費者に受け入れられているのでしょうか。
最大の理由は、スマホ時代に突入したことだと思います。画面上での購買決定が主流となる中、「写真映えするビジュアル」が極めて重要です。ポーチに入れたくなる可愛さや、手に取るだけで気分が上がるデザインなど、その“映える力”こそが韓国ブランドの圧倒的な強みです。
これは欧州に例えるなら、日本のドイツ的な「技術力」「機能性」に対し、韓国のイタリア・フランス的な「デザイン性」「世界観づくり」に相当します。スマホでお洒落と感じさせる巧みなブランディングは、K-POPやドラマといった他カルチャーとも自然に連動し、大きな魅力を生み出しています。

デイジークのキャンペーンヴィジュアル
Image by: dasique

デイジークのキャンペーンヴィジュアル
Image by: dasique
⎯⎯日本のブランドは少し真面目すぎる?
「ちゃんとしすぎている」とは言えるかもしれません。韓国ブランドは、良くも悪くもスピーディーで、多少ラフな部分があってもお洒落なものをどんどん出してきます。スマホ越しに見る今の時代、その“雑さ”はほとんど気にならない。むしろ、その抜け感が時代にフィットしているのだと思います。
また、以前は品質に明確な差がありましたが、今は韓国製品の技術力が大きく向上し、機能性だけでは差別化が難しくなっています。品質に大差がないなら、見た目が良くて価格も手価格も手頃な方を選ぶ。そんな消費者心理が強まっているのだと思います。
⎯⎯今後の事業計画についてお聞かせください。
弊社は、今年4月にPLAZA STYLEやBCLカンパニーを中核企業に持つスタイリングライフ・ホールディングスの傘下に入ったことで、事業領域の拡大を見込んでいます。現在、売上の約6割を占めているのは韓国ブランドを中心とした広告・PR代理店業務ですが、今後は日本と韓国、それぞれの強みを融合させた新規事業の創出にも注力していきたいと考えています。具体的には、日本のコスメと韓国のアパレル、日本の伝統工芸と韓国の現代アーティスト、日本人メイクアップアーティストと韓国人インフルエンサーといった、商品・体験創出型の戦略的コラボレーションの推進です。この分野には計り知れない可能性があり、その実現に確かな手応えを感じています。
⎯⎯日本と韓国以外の市場も見据えているのでしょうか?
はい。日韓の掛け合わせで生まれたプロダクトや体験を、第三国へ輸出していくことを視野に入れています。ゆくゆくは、アジアをはじめとする海外市場にも届けていけるモデルにしていきたいです。個人的には、日本×韓国共同でモノづくりをして、欧米や東南アジアに海外輸出する事業を強化することで、将来的にはグループ全体で50億円規模の事業を生み出すポテンシャルがあると考えています。
トレンド発信地かつグローバル製造拠点としての韓国と、「世界へのショーケース」としてブランド価値を高める力を有する日本。この日韓双方の強みを融合させ、韓国発のトレンド商品を日本でブランディングし第三国へ展開するスキームこそが、事業を飛躍的に成長させる核となります。従来の「オールジャパン」から脱却し、地理的・文化的近さを活かした日韓連携が不可欠で、将来的には中国や台湾を含む東アジア全体での新ビジネス創出こそが、次の成長を牽引すると思っています。
(聞き手・編集 福崎明子、菅原まい)
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